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- ECB政策理事会-今回は利上げ、次回以降は白紙(データ次第)
2023年07月28日
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1.結果の概要:9会合連続の利上げを決定
7月27日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・0.25%ポイントの利上げを決定(8/2から、主要3金利すべて引き上げ)
・最低準備預金への付利を0%に引き下げ
【記者会見での発言(趣旨)】
・決定は全会一致でなされた
・9月以降の会合で利上げするか据え置くかについては白紙であり、その時点のデータにより決定する
・今回の会合ではバランスシート削減に関する議論はしていない
2.金融政策の評価:9月会合での決定はデータ次第である姿勢を強調
ECBは今回の会合で、0.25%ポイント利上げを決定した。これで22年7月以降、政策金利を合計4.25%ポイント上昇させたことになる。
今回の利上げは、前回6月に利上げが口頭で予告されていたこともあり、予想通りの決定となった。したがって会合の注目点は次回9月の決定(利上げ継続か据え置きか)に関する示唆であり、質疑応答でも9月会合の決定に関する質問が集中した。しかし、ラガルド総裁は9月以降の決定はその時のデータ次第であるとし、言質を与えなかった。
これまで、声明文や口頭での利上げを予告しタカ派姿勢を強調しており、また前回6月に公表された見通しは、7月利上げを行っても高いインフレ率が続くと解釈できる1ものだっただけに、今回の会合はハト派的な要素が目立ったと言える(6月見通しは25年でも総合インフレ率、コアインフレ率ともに2%を上回り、四半期ベースでも予測期間中(25年末まで)にインフレ率は2%まで低下しないというもの)。
なお、声明文を見る限り、景気やインフレに関する評価が大きく変わったようには思われないが、質疑応答では9月会合での利上げ継続と一時停止についてはほぼ同等の可能性があるかのように言及されている。足もとではインフレに押し下げ要因として寄与する経済統計が目立っていることから政策委員のインフレ率見通しがやや楽観的(6月の見通しよりインフレ低下が速やかに進む)に変化している可能性もある。
ただし、先行きの不確実性は依然として高い。実際に今後のデータによって決定内容が左右される面は大きいと見られるため、9月会合までに公表される経済統計の注目度がいっそう高まるだろう。
1 政策金利経路の前提は明かされていない(具体化されていない)が、7月で利上げを打ち止めした場合に近いと見られる。6月スタッフ見通しにおける具体的な前提として提示されているのは、3か月EURIBORの前提で23年3.4%、24年3.4%、25年2.9%であり、これは見通し作成時点の市場予測と整合的な数値になっている。このときの市場の政策金利見通しが、7月に追加利上げした後、9月以降は政策金利を据え置くというものだった。
今回の利上げは、前回6月に利上げが口頭で予告されていたこともあり、予想通りの決定となった。したがって会合の注目点は次回9月の決定(利上げ継続か据え置きか)に関する示唆であり、質疑応答でも9月会合の決定に関する質問が集中した。しかし、ラガルド総裁は9月以降の決定はその時のデータ次第であるとし、言質を与えなかった。
これまで、声明文や口頭での利上げを予告しタカ派姿勢を強調しており、また前回6月に公表された見通しは、7月利上げを行っても高いインフレ率が続くと解釈できる1ものだっただけに、今回の会合はハト派的な要素が目立ったと言える(6月見通しは25年でも総合インフレ率、コアインフレ率ともに2%を上回り、四半期ベースでも予測期間中(25年末まで)にインフレ率は2%まで低下しないというもの)。
なお、声明文を見る限り、景気やインフレに関する評価が大きく変わったようには思われないが、質疑応答では9月会合での利上げ継続と一時停止についてはほぼ同等の可能性があるかのように言及されている。足もとではインフレに押し下げ要因として寄与する経済統計が目立っていることから政策委員のインフレ率見通しがやや楽観的(6月の見通しよりインフレ低下が速やかに進む)に変化している可能性もある。
ただし、先行きの不確実性は依然として高い。実際に今後のデータによって決定内容が左右される面は大きいと見られるため、9月会合までに公表される経済統計の注目度がいっそう高まるだろう。
1 政策金利経路の前提は明かされていない(具体化されていない)が、7月で利上げを打ち止めした場合に近いと見られる。6月スタッフ見通しにおける具体的な前提として提示されているのは、3か月EURIBORの前提で23年3.4%、24年3.4%、25年2.9%であり、これは見通し作成時点の市場予測と整合的な数値になっている。このときの市場の政策金利見通しが、7月に追加利上げした後、9月以降は政策金利を据え置くというものだった。
3.声明の概要(金融政策の方針)
7月27日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
(政策金利、フォワードガイダンス)
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
(資金供給オペ)
(その他)
- インフレ率は低下を続けているが、依然として高すぎる状況が長期間続くと予想される
- 理事会は、インフレ率を中期的な2%目標に速やかに(timely manner)戻すことを確実にすると決意している
- そのために、本日、3つの主要な政策金利を0.25%ポイント引き上げることを決定した
- 本日の理事会の金利引き上げは、理事会のインフレ見通し、基調的なインフレ率、金融伝達の強さへの評価を反映したものである
- 前回の会合後の動向は、今年の残りにかけてインフレ率がさらに低下するという予想を支援するものであるが、長期間にわたって目標を上回った状態になると見られる
- いくつかのデータは緩和の兆候を示しているものの、基調的なインフレ率は総じて引き続き高い
- 過去の利上げは引き続き強力に伝達されている
- 金融環境はさらにタイト化しており、需要もさらに抑制され、インフレ率を目標に戻すための重要な要因となっている
- 理事会の将来の決定に関して、中期的に2%というインフレ目標への回帰を速やかに達成するため、必要とされる期間にわたり十分に制限的な水準に政策金利を設定(set)する(引き上げる(brought to)から表現を変更)
- 理事会は、制限的な水準と期間に関して適切に決定するため、引き続きデータ依存のアプローチを続ける
- 特に、理事会の金利決定は、引き続き、最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、基調的なインフレの動向、金融政策の伝達状況によって決定する
- 理事会はまた、最低準備預金への付利を0%に設定することを決定した
- この決定により、金融政策スタンスの制御度合いを維持し、短期金融市場への政策金利決定の完全な波及を確保することで、金融政策の効果を確保する
- 同時に、これにより適切なスタンスを講じるために準備預金に対して支払う必要がある利息の総額を削減することで金融政策の効率性を改善させる
- 最低準備預金への付利の変更に関する詳細は後程公表される
- (詳細には預金ファシリティ金利から0%まで低下させることと、9月20日に開始される積み期間から適用されることなどが記載されている)
(政策金利、フォワードガイダンス)
- 理事会は3つの政策金利を0.25%ポイント引き上げることを決定した(利上げの決定)
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:4.25%
- 限界貸出ファシリティ金利:4.50%
- 預金ファシリティ金利:3.75%
- 8月2日から適用
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- APPの元本償還分の再投資(内容の変更なし)
- APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
- (23年6月末まで平均月額150億ユーロのペースで削減すること、7月にAPPの償還再投資を停止することの説明は削除)
- PEPP元本償還分の再投資実施(変更なし)
- PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2024年末まで実施(変更なし)
- 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する(変更なし)
- PEPP償還再投資の柔軟性について(変更なし)
- 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
(資金供給オペ)
- 流動性供給策の監視(変更なし)
- 銀行が貸出条件付長期資金供給オペ下での借入額の返済を行うなか、理事会は条件付貸出オペと現在実施されているその返済が金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する
(その他)
- 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
- インフレが2%の中期目標に戻り、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
- 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう
4.記者会見の概要
政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
(冒頭説明)
(経済活動)
(インフレ)
(冒頭説明)
- (声明文冒頭に記載の利上げとスタッフ見通しへの言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- ユーロ圏経済の短期的な見通しは、主に域内需要の弱さを背景に悪化している
- 高インフレと金融環境のタイト化が支出を抑制している
- これは特に製造業の生産への重しになっており、外需の弱さによっても抑制されている
- 住宅・設備投資もまた弱さの兆しを示している
- サービスは、特に観光など接触型の業種で依然としてより強靭性を見せている
- しかし、サービス部門の勢いも減速している
- 経済は短期的には弱さが続くと予想される
- 時間の経過により、インフレ率が低下、所得が上昇、供給環境が改善することが経済回復を支援するだろう
- 労働環境は引き続き堅調である
- 失業率は5月に6.5%と歴史的な低水準に留まっており、多くの雇用が、特にサービス部門で創造されている
- 同時にフォワードルッキングな指標はこの傾向が今後数か月で減速し、製造業ではマイナスに転じるかもしれないことを示唆している
- エネルギー危機の解消に伴い、政府は協調して関連する支援策を迅速に終了させるべきである
- これは中期的なインフレ圧力が加速し、さらに強力な金融政策で対応することを避けるために重要である
- 我々は、こうした評価と平仄のとれている最近のユーログループにおけるユーロ圏の財政スタンスへの声明を歓迎する
- 財政支援策は、我々の経済をより生産的にし、高い公的債務を段階的に削減させるよう計画されるべきである
- ユーロ圏のグリーン移行を支援しつつ生産余力を強化させる政策は、中期的な物価上昇圧力の削減に寄与するだろう、またこれは次世代EUにより促進されている
- EUの経済統治枠組み(economic governance framework)の改革は年末までに迅速に完了されるべきである
(インフレ)
- インフレ率は5月の6.1%から6月にはさらに低下し5.5%となった
- エネルギー価格は再び低下して前年比5.6%の減少だった
- 食料品インフレは鈍化したものの、依然として高く11.6%となった
- エネルギーと食料品を除くインフレ率は6月に5.5%に上昇し、財価格とサービス価格は異なる傾向を辿っている
- 財インフレはさらに低下し、5月の5.8%から5.5%に低下した
- サービスインフレは、休日や旅行での堅調な消費とベース効果による押し上げを主に反映して、5月の5.0%から5.4%に上昇した
- インフレの原動力は変化している
- 外部要因によるインフレは緩和している
- 対照的に、賃金価格の上昇や堅調な利益率を含む、域内価格の上昇圧力がインフレ率の重要な原動力として大きくなっている
- 基調的なインフレ率について、いくつかの指標は低下しているが、過去のエネルギー価格の上昇による経済全体の物価を押し上げといった影響などを含め、総じて高い状態が続いている。
- 長期のインフレ期待に関する多くの指標は、現在は2%付近にあるものの、いくつかの指標は上昇しており、引き続き注視が必要である
(2023年07月28日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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