2023年06月14日

欧州経済見通し-インフレ率低下で、今後は緩やかな回復へ

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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■要旨
 
  1. 欧州経済は、高インフレと高金利が成長の重しとなっている。ユーロ圏の1-3月期の実質成長率は前期比▲0.1%(年率換算:▲0.4%)となり、マイナス幅は小幅だが2四半期連続のマイナス成長となった。内需が伸び悩んだほか、輸出も冴えない状況にある。
     
  2. 23年5月のインフレ率は前年比6.1%とピークから急低下したが、依然として高い水準にある。エネルギー価格が前年比マイナスの伸び率となり、財価格もピークアウトが鮮明になった。一方、サービス物価は上昇基調にある。成長率が落ち込む中でも雇用環境が堅調で人手不足感が継続しており、賃金上昇率は記録的な高さに達している。
     
  3. 金融政策は、よりデータ依存の姿勢を強めており、金融引き締めの実体経済への波及を見極める時期になりつつある。ECBは近く利上げを停止し、今後は政策金利の高さよりも高い政策金利を維持する期間に政策の重心が置かれるものと見られる。
     
  4. 今後については、エネルギー主導のコストプッシュ型インフレ圧力が軽減していることが家計・企業双方にとってプラスに働くため、経済は緩やかに回復すると予想する。成長率は23年0.6%、24年1.2%を予想している(図表1)。インフレ率は、エネルギーと財インフレの減速を受けて低下傾向が続くが、賃金と連動するサービス物価の粘着性は高く、2%を超える期間が長期化すると見ている。暦年のインフレ率は23年で5.3%、24年2.9%と予想している。ECBは政策金利を6月と7月にさらに0.25%ずつ引き上げた後、24年初まではその水準を維持すると予想する(図表2)。
     
  5. リスク要因としては、エネルギー需給のひっ迫や価格高騰、物価高対策の出口における判断ミス、物価と賃金のスパイラル化によるインフレ率の高止まり、利上げによる金融システムリスクの顕在化、域外経済の想定以上の悪化が挙げられる。当面はインフレ率の高止まりが最も懸念される。
(図表1)ユーロ圏の実質GDP/(図表2)ユーロ圏の物価・金利・失業率見通し
■目次

1.経済・金融環境の現状
  ・振り返り:エネルギー主導でのインフレ圧力は和らぐ
  ・ガス備蓄:今年の貯蔵も順調
  ・実体経済:小幅だが2四半期連続のマイナス成長
  ・物価・賃金:賃金上昇率が記録的な水準に上昇
  ・財政政策:物価高対策も縮小へ
  ・金融政策・金利:利上げサイクルの終わりは近い
2.経済・金融環境の見通し
  ・見通し:成長率は緩やかに回復へ
  ・リスク:高インフレ長期化リスクが当面の懸念
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