2023年04月24日

欧州金融システムのリスク再考-銀行同盟の強靭性が試されるのはこれから

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨
 
  1. 3月に広がった金融不安は、政策当局の速やかな対応もあり、いったん鎮静化した。
     
  2. 経営危機に陥ったCSのビジネス・モデルは、欧州の銀行の中でも、かなり特殊であった。CSの母国スイスの欧州における位置づけも特別だった。CSの経営危機には、母国の経済規模に対するCSの過大さも少なからず影響したと思われる。グローバルに展開する投資銀行業務のリスクへの金融市場監督機関(FINMA)にも甘さがあった。
     
  3. ユーロ圏、EUの金融システムの強靭性が高まっていたこともCSの経営危機の影響が限定的であった背景である。しかし、ユーロ圏の「銀行同盟」は監督と破綻処理の2本柱であり、預金保険という3本目の柱を欠いたままである。各国の預金保険スキームも調和の途上だが、積み立て率などにはなおばらつきがある(図表)。
     
  4. 稼働中の2本柱も破綻処理メカニズムは弱く、危機管理では各国レベルの対応が優先される傾向がある。いずれの場合もベイル・インが大原則である点は留意が必要だ。
     
  5. この先、金融システムへのストレスはじわじわと高まって行くことになるだろう。3月の金融不安は銀行同盟に残る脆弱性の克服を迫る警鐘である。4月18日には欧州委員会が「破綻処理と預金保険の枠組み(CMDI)」を改革する法改正を提案したが、この問題に優先的に取り組むほどの危機意識は政治レベルでは乏しいようだ。果たして手遅れにならないかが、気になるところだ。

 
ユーロ圏主要国の預金保険スキーム(DGS)の積み立て率の推移
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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