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「トリプル安」後の英国-日本が真に学ぶべきことは?-

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり
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9月下旬から10月半ばにかけて英国が見舞われた「トリプル安」は、高インフレ下での財源の裏付けのない大規模財政出動が市場から拒否された金融ショックとして記憶に深く刻まれた。
他方、日本の借入依存の財政出動は市場の激しい反応を引き起こしていない。
英国と日本の間には、インフレ圧力の強さ、金融政策の方向性、経常収支と外貨準備高の状況に違いがある。FRBの利上げに関する市場観測の変化もあった。
英国の場合、トラス政権が財政への信頼確保のために確立してきたルールや制度を否定するような行動に出たことに市場が激しく反応した。日本の場合、ルールや制度が脆弱で、景気対策のための財政出動が常態化しているため、市場にとってサプライズにならない面もある。
スナク政権は新たな「中期財政計画」で、向こう5年間で550億ポンドの財政健全化措置を示した。財政健全化は計画通りには進まず、生活水準の停滞が続くと見られる厳しい情勢だが、財政健全化に手を打つ必要性については、国民の一定の理解を得ているようだ。
英国のケースは「放漫財政の末路」ではない。財政への信頼を確保するルールや制度の基盤がある程度確立していたからこそ、速やかに軌道修正できた。
日本は、英国のような「トリプル安」が生じにくい理由を探して安心するのではなく、市場からのシグナルを把握しづらくなっていることこそが問題と認識すべきだ。
日本が、英国の経験から真に学ぶべきは、中期的な観点から、財源についても議論し、広く国民の理解を得るとともに、政策の予見可能性を高める必要があるということだ。
■目次
1――はじめに-「トリプル安」から速やかに脱却した英国、回避している日本
2――日本と英国の違い
1|物価・賃金動向
2|金融政策と国債保有構造
3|経常収支と外貨準備高
4|FRBの利上げに関する市場観測の変化
5|財政への信頼を確保するためのルールと制度
3――「トリプル安」後の英国
-トラス政権の「ミニ予算」からスナク政権の「中期財政計画」へ
1|ミニ予算の修正
2|スナク政権の「中期財政計画」
3|専門家による評価
4|国民の受け止め
4――おわりに-日本が真に学ぶべきことは?
(2022年12月02日「基礎研レポート」)

03-3512-1832
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2015~2024年度 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017~2024年度 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022~2024年度 Discuss Japan編集委員
・ 2022年5月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
・ 2024年10月~ 雑誌『外交』編集委員
・ 2025年5月~ 経団連総合政策研究所特任研究主幹
伊藤 さゆりのレポート
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