2023年03月24日

金融不安下のECBの利上げ-3度目の今回も早期の利下げ転換に至るのか?-

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨
 
  • 欧州中央銀行(ECB)は3月政策理事会で0.5%の利上げを決めた。金融不安が燻る環境での利上げは今回が3度目だが、過去2度は、3~4カ月という短期間で利下げへの転換を迫られた。
     
  • 2008年7月の利上げはリーマン・ショックの発生によって、ユーロ危機の最中の2011年4月と7月の利上げはユーロ危機の拡大によって、方向転換を迫られた。
     
  • 今回も、金融不安がグローバルな金融システムあるいはユーロ圏の金融システムに広がる危機に発展し、景気に急ブレーキが掛かるような場合の早期転換の可能性は排除できない。ECBは、「最新の経済・金融データ」、「基調的なインフレ動向」、「金融政策の波及の強さ」に基づいて政策を決定する方針である。この先は、金融不安の影響で、「信用(銀行貸出)チャネル」を通じた引き締め効果が想定以上に強まることがないかを注視するだろう。
     
  • しかし、早期転換の可能性はかなり低いと見ている。インフレ圧力の強さが、過去2回とはまったく異なることと、世界金融危機とユーロ危機の経験を教訓として、ユーロ圏の銀行システムの強化が進んでいるためだ。
     
  • 現時点では、ユーロ圏の市場に世界金融危機やユーロ危機時のような緊張の兆候は見られない。しかし、ユーロ圏の「銀行同盟」は預金保険に脆弱性がある。規制や監督体制が相対的に緩い非銀行金融機関が発端となる金融システム不安定化のリスクへの警戒も怠れない。


■目次

1――はじめに-3度目の金融不安下での利上げ
2――早期転換を余儀なくされた過去2度の利上げ
  1|リーマン・ショック直前の利上げ(2008年7月)
  2|ユーロ危機下の利上げ(2011年4月、7月)
  3|ユーロ危機収束後のECBの金融政策
3――早期利下げ転換の可能性を排除できない理由
  1|燻る世界的金融危機のリスク
  2|データ重視のECBの姿勢
4――早期利下げ転換の可能性は低いと考えられる理由
  1|根強いインフレ圧力
  2|銀行システムの強靭性向上
5――おわりに-早期利下げ転換の可能性は低いが、金融リスクへの警戒は必要
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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