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- ECB政策理事会-金融市場の緊張の中でも0.50%ポイント利上げ
1.結果の概要:6会合連続の利上げを決定
【金融政策決定内容】
・0.50%ポイントの利上げを決定(3/22から、主要3金利すべて引き上げ)
・不確実性が高まり、データ依存アプローチの重要性が増している点を指摘(具体的には、最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、基調的なインフレ動向、金融政策の伝播状況によって決定することを明示)
【記者会見での発言(趣旨)】
・スタッフ見通しは、GDP成長率を23年1.0%、24年1.6%、25年1.6%と予想
(前回12月は23年0.5%、24年1.9%、25年1.8%)
・インフレ率を23年5.3%、24年2.9%、25年2.1%と予想
(前回12月は23年6.3%、24年3.4%、25年2.3%)
・スタッフ見通しは最近の金融市場の緊張が発生する前に作成され、金融市場の混乱は追加の不確実性となっている
2.金融政策の評価:金融市場の緊張が高まる中だったが、2月の「予告」通り利上げ
前回の声明では、今回の会合において0.50%ポイントの利上げを意図(intend)していると明示されていたため、「予告」通りの利上げではあったが、会合の数日前から米国シリコンバレー銀行が破綻、近隣のクレディスイスにも信用不安が広がったことから、市場では利上げ幅の縮小や利上げ見送り観測も浮上していた(会合直前の市場の利上げ織り込みは0.25%が優勢だった)。
ECBはインフレ対応のため、「予告」通りの利上げを実施する一方、これまで声明文に記載していた「政策金利を大幅に(significantly)、安定したペース(steady pace)で引き上げ、十分に引き締め的な水準に維持する」との文言は削除し、よりデータ依存の姿勢を強調した。その際、(1)最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、(2)基調的なインフレ動向、(3)金融政策の伝播状況を考慮することが明記された。このうち、(1)の金融データ、(3)の金融政策の伝播については、目下の金融市場の緊張を受けて、金融システムが円滑に機能していることも利上げを左右する要因であると改めて示した形になっている。金融市場の緊張がユーロ圏に飛び火するような場合には、利上げの減速や停止、場合によっては利下げが考慮されるということになるだろう。
ただし、質疑応答ではラガルド総裁、デギンドス副総裁ともに記者会見を通じて欧州の金融機関の強靭であり、金融システムの安定は重要であるものの、金融システムリスクが顕在化する(金融危機に発展する)可能性は小さいとの見解を強調している。また、物価安定と金融安定は両立し、現在の金融市場の緊張が収まれば、さらに利上げが必要であることも示唆された。
なお、今回新たにスタッフ見通しが提示されたが、カットオフ日がシリコンバレー銀行の破綻前である。見通しでは基調的なインフレ圧力が根強いことが示されているが、声明文にも明示されているように信用不安が高まれば、危機には至らなくても信用収縮や景況感悪化を通じて景気の下振れリスク、インフレ率の下振れリスクとなりうる。したがって、今後は利上げを続ける場合も、より慎重派の意見が増えるものと見られる。
3.声明の概要(金融政策の方針)
- インフレ率は引き続き高すぎる状況が長期間続くと予想される
- したがって、理事会は本日、インフレ率を2%の中期目標にすみやかに(timely)戻す方針に沿って、3つの主要な政策金利を0.50%ポイント引き上げることを決定した
- 不確実性が高まったことから、データ依存のアプローチ、つまり、最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、基調的なインフレの動向、金融政策の伝播状況によって決定することの重要性が増している
- (政策金利を大幅に(significantly)、安定したペース(steady pace)で引き上げ、十分に引き締め的な水準に維持するとの記載は削除)
- 理事会は現在の市場の緊張を注視し、ユーロ圏の物価安定と金融安定を維持するために、必要な対応を講じる準備がある
- ユーロ圏の銀行部門は手厚い資本と流動性を有しており、強靭(resilient)である
- いずれにせよ、ECBは必要であれば、ユーロ圏の金融システムに流動性を供給し、金融政策の円滑な伝達を維持するために、十分な手段を有している
- ECBスタッフの経済見通しは3月初旬の、最近の金融市場の緊張が発生する前に作成されている
- そのため、これらの緊張はインフレ率と成長率評価に関する追加の不確実性となっている
- 最新の出来事が反映される以前には、ベースライン見通しでは、エネルギー価格の寄与が減少することを主因としてヘッドライン成長率が以前と比べ下方修正された
- ECBは現在、インフレ率を年平均で23年5.3%、24年2.9%、25年2.1%と見ている
- 同時に基調的なインフレ圧力は引き続き強く、エネルギーと食料品を除くインフレ率は23年4.6%と12月の見通しよりも高く見ている
- その後、供給制約や経済再開によるインフレ圧力が解消し、金融引き締めにより需要が抑制されることで、(コアインフレ率は)24年2.5%、25年2.2%と低下すると予想する
- 成長率のベースライン見通しは、エネルギー価格の低下と国際環境の逆境のなかでも経済がより強い強靭性を示していることの結果として、23年で1.0%と上方修正している
- ECBスタッフは、堅調な労働市場や景況感の改善、実質所得の回復を受けて、成長率が24年および25年に1.6%に加速すると予想している
- 同時に金融引き締めを反映して24年および25年の成長率は12月見通しよりも弱い
(政策金利、フォワードガイダンス)
- 理事会は3つの政策金利を0.50%ポイント引き上げることを決定した(利上げの決定)
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:3.50%
- 限界貸出ファシリティ金利:3.75%
- 預金ファシリティ金利:3.00%
- 3月22日から適用
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- APPの元本償還分の再投資(内容の変更なし)
- APP残高は償還額を全額は再投資せず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
- この削減は23年6月末まで平均月額150億ユーロのペースとなり、その後については、今後決定する予定
- PEPP元本償還分の再投資実施(変更なし)
- PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2024年末まで実施(変更なし)
- 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する(変更なし)
- PEPP償還再投資の柔軟性について(変更なし)
- 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
(資金供給オペ)
- 流動性供給策の監視(変更なし)
- 銀行が貸出条件付長期資金供給オペ下での借入額の返済を行うなか、理事会は条件付貸出オペが金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する
(その他)
- 金融政策のスタンスとTPIについて(文言の追加)
- インフレが2%の中期目標に戻り、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
- ECBには必要があればユーロ圏の金融システムに流動性を供給する十分な手段がある
- 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう
4.記者会見の概要
(冒頭説明)
- (声明文冒頭に記載の利上げとスタッフ見通しへの言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- ユーロ圏経済は、22年10-12月期に停滞し、予想されていた縮小は回避した
- しかしながら、民間の内需は急速に落ち込んだ
- 高インフレと、不確実性の高まり、金融引き締めが民間の消費と投資の重しとなり、それぞれ0.9%、3.6%減少した
- ベースライン見通しでは、経済は今後数四半期で改善すると見ている
- 工業生産は、供給制約の更なる改善、景況感の引き続きの回復、受注残の消化のために回復するだろう
- 賃金の上昇とエネルギー価格の低下は、高インフレの結果、多くの家計が直面している購買力の低下を一部相殺するだろう
- これは消費の下支えとなる
- 加えて、経済活動の弱まりにも関わらず、労働市場は引き続き強い
- 就業者数は22年10-12月期に0.3%増加し、失業率は23年1月には歴史的な低水準の6.6%で横ばいとなっている
- 政府のエネルギー価格高騰の影響から経済を守るための措置は一時的で対象を絞り、エネルギー消費抑制のインセンティブを維持するよう適切に設計されるべきである
- エネルギー価格の低下とエネルギー供給に関するリスク軽減にあわせて、協調してこれらの措置から速やかに脱却を始めることが重要となっている
- これらの原則を満たさない措置は、中期的なインフレ圧力を強め、より強力な金融政策で対応する必要を求められる
- さらに、EUの経済統治枠組み(economic governance framework)に沿って、また、欧州委員会の3月8日のガイダンスで述べられたように、財政政策は我々の経済をより生産的にし、高い公的債務を段階的に削減させる方向に向かうべきである
- ユーロ圏の、特にエネルギー部門での、生産余力を強化させる政策は、中期的な物価上昇圧力の削減に寄与するだろう
- この点に関して、政府は次世代EUの下での投資や構造改革を速やかに実行すべきである
- EUの経済投資枠組みの改革は迅速に完了されるべきである
(インフレ)
- インフレ率は2月に8.5%に低下した
- エネルギー価格の急激な減少が主因である
- 対照的に、食料品価格は、食料生産に関する過去のエネルギー価格や原材料の高騰が消費者物価に依然として転嫁されており、15%となった
- 加えて、基調的なインフレ圧力は引き続き強い
- エネルギーと食料品を除くインフレ率は2月に5.6%となり、その他の基調的なインフレ指標も引き続き高い
- 非エネルギー財のインフレ率は主に過去の供給英訳やエネルギー価格の高騰を反映して2月に6.8%となった
- サービスインフレもまた過去のエネルギーコスト上昇の転嫁や経済再開と賃金上昇を受けたペントアップ需要を受けて2月には4.8%まで上昇した
- 賃金上昇圧力は、労働市場の堅調さと雇用者が高インフレによる購買力低下の埋め合わせを求めていることから、強まっている
- 加えて、多くの企業は需要の回復と供給制約に直面している部門で利益を上昇させることができている
- 同時に、ほとんどの長期インフレ期待の指標が現在は2%付近にあるものの、特に最近の市場計測のインフレ期待の変動の大きさに照らして、引き続き注視している
(リスク評価)
- 成長率見通しに対するリスクは下方に傾いている
- 金融市場の緊張が持続すれば、広範な信用環境が想定よりも緊迫化し、景況感を悪化させる可能性がある
- ロシアのウクライナとその市民に対する正当化できない侵攻は、引き続き経済に対する重大な下方リスクであり、エネルギーや食料価格が再び上昇する可能性がある
- 世界経済の減速が予想より深刻化すれば、ユーロ圏の成長への追加的な重しになる可能性がある
- しかしながら、企業が国際環境の逆境により迅速に適応すれば、エネルギーショックの解消とともに、想定よりも高い成長をする可能性がある
- インフレ率の上方リスクには、既存の価格転嫁圧力が短期的に小売物価を予想以上に高めることが含まれている
- 国内要因として、インフレ期待の持続的な目標を上回る上昇や、想定以上の賃金、利益の増加がさらに中期的にもインフレ率を押し上げる可能性がある
- 加えて、中国の予想以上の景気回復が商品価格と解呪を押し上げる可能性がある
- インフレ率の下方リスクには金融市場の緊張が長期化し、ディスインフレを加速させる可能性が含まれている
- 加えて、エネルギー価格の下落は基調的なインフレ率や賃金上昇の圧力を軽減する可能性がある
- 銀行信用の大きな減速や金融政策の伝達が予想よりも強ければ、需要が減速し、特に中期的に現在想定されているよりも低い物価上昇圧力となる可能性がある
(金融・通貨環境)
- 前回の会合以降の数週間は、市場金利が大きく上昇した
- しかし、ここ数日は金融市場の緊張が深刻化したことを受けて急反転している
- ユーロ圏の銀行信用はよりコストが増加している
- 企業への信用は、需要の低下と信用環境のタイト化でさらに弱まっている
- 家計借入もまたコストが増加しており、特に住宅ローン金利は高い
- この借入コストの上昇が、結果として需要を減速させ、信用基準の厳格化とともに、家計への貸出伸び率のさらなる減速につながっている
- 貸出動向の弱さを受けて、通貨供給はほとんどの流動性要素において急速に鈍化している
(結論)
- (声明文冒頭に記載の利上げと、金融政策スタンスへの再言及)
(2023年03月17日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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