2023年02月06日

英国金融政策(2月MPC)-0.50%ポイント利上げ、今後の停止も視野に

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:10会合連続での利上げを決定

2月1日、英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、2日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
政策金利を4.00%に引き上げ(0.50%の利上げ、7対2で2人は3.50%で据え置きを支持)

【議事要旨等(趣旨)】
GDP成長率見通しは、23年▲0.5%、24年▲0.25%、25年0.25%(上方修正)
CPI上昇率は、23年4%、24年1.5%、25年0.5%(10-12月期の前年比、上方修正)
インフレ見通しに対するリスクは大きく上方に傾いており、定性的には上方リスクを考慮した見通しは中央見通しよりもより2%目標に近いと判断された

2.金融政策の評価:利上げの停止も視野に

イングランド銀行は今回のMPCで0.50%ポイントの利上げを決定した(3.50→4.00%)。利上げ幅は前回12月会合での決定(0.50%ポイントの利上げ)と同じ、市場予想(0.50%)とも一致した。決定に際しては2名が据え置きを主張し、この2名は前回12月の会合でも据え置きを主張していた。なお、前回12月の会合では利上げ幅を0.75%ポイントとすべきというタカ派意見もあったが、今回の決定ではタカ派意見(より大幅な利上げを主張する意見)は見られなかった。

また、金融政策の決定と同時に金融政策報告書(MPR)が公表され、最新の成長率見通しが上方修正、インフレ率が上方修正された。最新の見通しは、足もとで急減したガス価格が反映されており、政策金利の経路は23年央に4.5%まで引き上げられるという前提になっている。この前提はそれほど非現実的なものではないと見られるが、中央見通しではインフレ率が24年4-6月期以降に2%を下回る結果になる。金融姿勢はすでにかなり引き締め的な状況となっていることが示唆されており、今回、据え置きを主張した2名も、この観点から、追加利上げに対して慎重な姿勢を示している。

一方で、MPCでは、賃金上昇率の想定以上の強さなど、主に労働市場のひっ迫状況に鑑みてインフレリスクが上方に傾いていると判断している。今回の0.50%の利上げを決定した背景には、上方リスクを勘案すれば、単純にMPRの中央見通しで想定されるよりも、今回利上げを実施した方が中期的には2%目標と整合的となるだろう、という判断があった。

今回は前回と同様0.50%ポイントの利上げが決定されたが、声明文からは「さらに強固な金融政策が正当化され得る」との記載は削除され、すでに利上げの停止も視野に入っているものと見られる。市場参加者の想定する政策金利ピークは次回3月の4.25%であり、この水準が利上げ停止の目安になりそうである。

3.金融政策の方針

今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
 
  • MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
    • 委員会は政策金利(バンクレート)を0.50%ポイント引き上げ、4.00%とする(7対2で決定1)、2名は現状維持で3.50%とすることを主張した
 
  • 世界的なインフレ率は引き続き高いものの、英国を含む多くの先進国ではピークに達したと見られる。
    • 卸売ガス価格は足もとで低下し、世界的な供給網の混乱は、世界の需要が減速するなかで、緩和していると見られる
    • 金融市場では、今後の政策金利の引き下げが見込まれているものの、多くの中央銀行が金融政策の引締めを続けている
 
  • 英国のインフレ圧力は予想よりも強固である
    • 民間部門の賃金上昇率とサービスインフレ率は11月の金融政策報告書での予想よりも特に高い
    • 基調的な生産低下によって、労働市場は緩みはじめ、いくつかの調査では賃金上昇の緩和が見られるものの、歴史的に見ればひっ迫した状況にある
    • 金融政策の伝達のラグに鑑みれば、21年12月以降の政策金利の上昇は今後数四半期で経済により大きな影響を及ぼすと予想される
 
  • どの程度早期に、またどの程度の範囲で国内のインフレ圧力が軽減するかを評価するためには、最近のデータ動向が重要となる
    • 2月の金融政策報告書では、MPCは見通しを更新しており、大部分は過去に高騰したエネルギー価格と財価格のベース効果による低下を受けて、CPIが12月の10.5%という現在の高水準から急速に低下するとした
    • CPIインフレ率の前年比は今年の終わりに4%まで低下すると見込まれる一方、生産の低下は11月の見通しよりもかなり浅いと見込まれる
 
  • 最新の、モデルによる予測では、23年半ばに4.5%に達し、3年後に3.25%に低下していくという市場観測の政策金利経路を前提に、経済の弛み度合いが増加し、外部からの圧力も減少するため、CPIインフレ率は中期的に2%に低下すると見られる
    • この中期的な見通しには大きな不確実性があり、委員会は引き続きインフレ見通しに対するリスクが大きく上方に傾いていると判断した
 
  • MPCの責務が、英国の金融政策枠組みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成であることは明らかである
    • この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
    • 経済はかなり大きく重なったショックの中にある
    • 金融政策により、これらのショックによる調整が続いてもCPIインフレ率が中期的に2%目標に安定して戻るようにする
    • 金融政策はまた、長期のインフレ期待が2%目標で固定されるよう実施される
 
  • 委員会は、今回の会合で政策金利を0.50%ポイント引き上げ、4.00%とすることを決定した
    • ヘッドラインインフレ率は低下し始め、エネルギー価格とその他財価格の動きを踏まえると、今年の残りの期間にかけて急低下すると見られる
    • しかしながら、労働市場は引き続きひっ迫しており、国内の物価と賃金の上昇圧力が予想よりも強く、基調的インフレ率が持続的になるリスクがある
 
  • 国内のインフレ圧力の緩和具合は、これまでの政策金利の大幅な引き上げの影響も含めて、経済動向に依存する
    • 見通しには大きな不確実性がある
    • MPC、労働市場のひっ迫感や賃金上昇率、サービスインフレの動向といったインフレ圧力が永続的かの指標について引き続き注視する
    • 仮により永続的な圧力があるのであれば、より引き締め的な金融政策が必要となる
    • (さらに強固な金融政策が正当化され得るとの記載は削除)
 
  • 将来にわたって、MPCは、その責務にもとづき、インフレ率を中期的な2%目標に安定的に戻すために必要な政策金利の調整を行う
 
 
1 今回反対票を投じたのは、ディングラ委員およびテンレイロ委員。前回は、マン委員(0.75%ポイントの利上げを主張)、およびディングラ委員、テンレイロ委員(いずれも現状維持を主張)が反対票を投じた。

4.議事要旨の概要

記者会見の冒頭説明原稿および議事要旨の概要(上記金融政策の方針で触れられていない部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り。
 
(経済見通し)
  • GDP成長率見通しは、2022年4%、23年▲0.5%、24年▲0.25%、25年0.25%
    (11月時点では22年4.25%、23年▲1.5%、24年▲1%、25年0.5%)
    • CPI上昇率は、2022年10.75%、23年4%、24年1.5%、25年0.5%(10-12月期の前年比)
      (11月時点では、22年10.75%、23年5.25%、24年1.5%、25年0%)
    • 失業率は、2022年3.75%、23年4.25%、24年4.75%、25年5.25%(10-12月期)
      (11月時点では、22年3.75%、23年5%、24年5.75%、25年6.5%)
 
  • 見通しの前提
    • 財政政策について、秋季財政報告および1月公表の企業向けエネルギー支援策を反映、家計向けエネルギー価格保証(EPG:Energy Price Guarantee)では、典型的な家計において、23年4月から24年3月までの支払が上限3000ポンドとなり、23年3月までの上限2500ポンドから引き上げられる
    • 卸売りガス価格について、見通し期間にわたって先物価格に基づくと想定している
 
(通貨・金融情勢)
  • 市場参加者調査(MaPS:Market Participants Survey)の中央値では、政策金利のピークは3月の4.25%であり、その後23年にわたってその水準を維持することが見込まれ、前回の調査から大きな変更はない
    • 市場予想の政策金利経路は年央に4.5%まで上昇する想定となっており、前回のMPCから下落、市場参加者調査の中央値との差はさらに縮小している
 
(需要と生産)
  • 成長率の鈍化によって、労働需要が緩和したとの証拠が見られるものの、依然として労働市場はひっ迫している
    • 労働力調査における雇用の伸び率は、GDP成長率の減速を受けて、22年下半期に減速し、労働需要に関するタイムリーな調査は、雇用の停滞と整合的な結果を示している
    • 中銀エージェントは企業に関して、採用の難しさがさらに緩和したと報告したが、採用や定着の難しさは多くの部門において平時を上回っている
    • 求人件数は低下したものの、引き続き高水準にある
    • 労働力調査における失業率は9-11月期で3.7%と歴史的な低水準にあり、2月の報告書では、今年は、わずかな上昇しか予想していない
    • エージェントは、多くの企業が人員削減に消極的で、自然減(attrition)もしくは労働時間の削減により需要減に対応しようとしている、と報告している
 
(供給、費用、価格)
  • 小売ガス・電気価格はエネルギー価格保証の対象となっている
    • エネルギー価格保証で典型的な電気・ガスの一括請求(dual-fuel bill)では、4月に2500ポンドから3000ポンドに引き上げられる
    • 卸売ガス価格は足もとで低下しているものの、エネルギーの小売価格は20%上昇すると見込まれており、4月にガス電力市場監督局(Ofgem)の定める価格が、新しいエネルギー価格保証下での上限を下回る可能性は低いと見られる
    • 20%の上昇は、22年4月の50%上昇よりも小幅であり、CPIインフレ率への直接的な寄与は低下するだろう
    • 最新のガス先物価格の下落が持続すれば、Ofgemの価格は7月にエネルギー価格保証の上限を下回り、家計のエネルギー価格を低下させるだろう
 
  • 民間部門のボーナスを除く週平均賃金の上昇率は9-11月に前年比で7%をやや上回り、11月時点の見通しを0.7%ポイント上回っている
    • 民間部門の賃金上昇率は、23年上半期に横ばいになると予想しており、より高頻度の支払賃金の伸びも安定するだろう
    • 中銀エージェントは、23年の賃金交渉の妥結結果の伸び率が平均で22年と総じて同様の結果だったと見ている
    • 調査回答者はCPIインフレ率が妥結賃金における主要な要因だったとしている
    • 調査では、妥結賃金の上昇率が上半期より下半期に低下すると見られており、今年にかけて賃金上昇率が緩和するという兆しと言える
    • KPMG/RECにおける新規採用者への賃金指標は、民間部門の賃金上昇率の3-4四半期先の先行指標と言えるが、より明確に今年後半の賃金伸び率の低下を示唆している
 
(当面の政策決定)
  • 定性的には、上方リスクを考慮したインフレ見通しは中央見通しよりもより2%目標に近いと判断された
 
  • 7人の委員が政策金利を0.5%ポイント引き上げ、4%にすることが妥当だと判断した
    • 中期的なインフレ見通しに対するリスクは大きく、非対照的であり、より持続性の高い方向に傾いている
    • これは、足もとの労働市場の強さとインフレ率をより重要視し、中期的な見通しを相対的に過小評価することを正当化する
    • 0.5%ポイントの政策金利引き上げは、対外的な物価上昇圧力が軽減した後も、国内の賃金と物価の上昇圧力が継続するリスクへの対処となる
 
  • 2名の委員は3.50%で政策金利を維持することを希望した
    • 労働市場について、特に先行的な(forward-looking)指標について、景気後退の影響を受けている兆しが見られる
    • 同時に、金融政策の効果のラグにより、過去の利上げの効果が依然として顕在化していないことを意味する
    • 現在の政策金利でも、中期的にはインフレ率を2%から大きく下方に押し下げると見られる
    • 金融姿勢はより制限的になっているため、足もとの金利引き上げが、将来の逆転換をもたらすことになる
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年02月06日「経済・金融フラッシュ」)

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