2023年01月18日

英国雇用関連統計(22年12月)-名目賃金の加速傾向が継続

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:失業率は横ばい

1月17日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。

【12月】
失業保険申請件数1前月(154.26万件)から1.97万件増の156.23万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は4.0%となり、前月(同3.9%)から上昇した
給与所得者数2前月(2986.99万人)から2.8万人増の2989.82万人となった。
増減数は前月(+7.0万人)から減少し、市場予想3(+6.0万人)も下回った。

【11月(22年9-11月の3か月平均)】
失業率は3.7%で前月(3.7%)から横ばい、市場予想(3.7%)と一致した(図表1)。
就業者は3278.1万人で3か月前の3275.4万人から2.7万人の増加となった。
増減数は前月(2.7万人)と同じで、市場予想(±0万人)を上回った。
週平均賃金は、前年同期比6.4%で前月(6.2%)からやや加速、市場予想(6.2%)を上回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金・労働時間の推移
 
1 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
2 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは約85%のデータから推計(22年7月から推計方法変更)。 3 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:名目賃金の加速傾向は継続しているが、実質賃金はマイナス圏で横ばい推移

まず、12月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は22年10-12月の平均で116.1万件となり3-5月平均(130.0万件)をピークにした減少傾向が続いており(図表4)、産業別に見ても幅広い業種で求人数の減少が見られる。単月の求人数で見ると12月は103.2万件と21年7月(105.6万件)以来の100万件台に低下した4

給与所得者データでは、産業別に見ると12月は11月に続き卸・小売業が前月比で大幅マイナスとなる一方、事務・支援サービスや建設業が引き続き大きく増加し、全体でも増加した(図表4)。月あたり給与額(中央値)は前年同月比7.8%で11月(8.9%)から伸び率が大きく減速した。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
10月までのデータ(労働力調査)を確認すると、失業率は3.7%で横ばい推移しているが、就業者は微増、失業者と非労働力人口はそれぞれ微減となった。労働参加率は63.1%とやや改善したものの、コロナ禍後の最低値付近にとどまっている。コロナ禍前と比較すると、学生のほか、長期の病気のために非労働力人口となっている層が多い(図表5)。
(図表5)非労働人口となっている理由(コロナ禍前比)/(図表6)英国の労働争議件数と労働損失日数
労働時間は、31.6時間(前年同期差+0.1時間)、フルタイム労働者で36.2時間(同+0.2時間)となり緩やかな減少傾向にある(前掲図表2)。週間総労働時間は9-11月期時点でコロナ禍前ピーク(19年8-10月)から1.9%低い水準に留まり、足もとでは改善が止まっている。賃金は、名目賃金が22年9-11月の前年同期比で6.4%と高い伸び率が持続している。ボーナスを除く定期賃金の伸び率は名目で6.4%(8-10月期6.1%)と加速、ボーナスも依然として高い水準にある。ただし、実質賃金は▲2.6%(8-10月期▲2.6%)とマイナス圏で横ばい推移となっている(前掲図表2)。

また、物価高を受けて処遇改善を求めたストライキの件数も増加しており、11月は労働損失日数が46.7万日となった。これは年金改革への大規模な抗議ストライキが発生した11年11月以来の最高値となる(図表6)。
 
4 3か月平均のデータは季節調整値だが、単月データは未季節調整値のため季節性が除去されていないため留意が必要。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年01月18日「経済・金融フラッシュ」)

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