2022年12月19日

英国金融政策(12月MPC)-利上げ幅を0.50%ポイントに縮小

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:9会合連続での利上げを決定

12月14日、英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、15日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
政策金利を3.50%に引き上げ(0.50%の利上げ、6対3で2人は3.00%で据え置き、1人は3.00%への引き上げを支持)

【議事要旨等(趣旨)】
労働市場は引き続きひっ迫、国内の物価と賃金がより強く持続するようなインフレ圧力の証拠が見られていることから、さらに強固な金融政策が正当化され得る

2.金融政策の評価:ハト派意見とタカ派意見も見られる

イングランド銀行は今回のMPCで0.50%ポイントの利上げを決定した(3.00→3.50%)。利上げ幅は前回11月会合での決定(0.75%ポイントの利上げ)より縮小したが、市場予想(0.50%)と一致、想定内の決定だった。なお、決定に際しては2名が据え置き、1名が0.75%ポイントの利上げを主張しており、決定内容よりタカ派とハト派の意見も見られた。

今回の会合で政策金利は市場参加者の想定する中立金利(中央値で3.00%1)を上回り、政策金利引き上げのピークが意識される状況になっているが、声明文や議事録ではピーク水準を示唆する内容は少なかった。前回11月の会合ではトラス前政権の「成長計画」公表とそれを受けた金利の急上昇が見られた後の市場の織り込み(23年7-9月期に5.25%前後のピーク)に対して高すぎるという判断がなされていた。一方、今回の会合時点での政策金利予想は、市場参加者調査で23年上半期に4.25%、市場予想で23年中盤に4.75%となり、声明文からは政策金利の市場予測に対する判断コメントは削除されている。

今回の決定では利上げの到達地点を示唆する内容に乏しく、ハト派な投票内容も見られてはいるが、基本路線は利上げ継続と言える。声明文では「委員会の大部分は…(中略)…政策金利のさらなる引き上げが要求されるだろう(may be)と判断した」とする追加利上げを示唆する前回と同様の一文が残された。また、国内の物価と賃金のスパイラル的な上昇も見られていることから、「さらに強固な金融政策が正当化され得る」との記載も追加され、インフレ率が持続的になり金融引き締めを強化するリスクにも言及されている。

次回23年2月の理事会では、その時点の市場予測を前提にした成長率やインフレ見通しが公表される。利上げ到達地点として、現在の市場参加者予想である4%台が意識されるなか、2月の決定とそこで公表される見通しが注目される。

3.金融政策の方針

今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
 
  • MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
    • 委員会は政策金利(バンクレート)を0.50%ポイント引き上げ、3.50%とする(6対2対1で決定2)、2名は現状維持で3.50%とすることを主張し、1名は0.75%ポイント引き上げ3.50%にすることを主張した
 
2 今回反対票を投じたのは、マン委員(0.75%ポイントの利上げを主張)、およびディングラ委員、テンレイロ委員(いずれも現状維持を主張)。前回は0.75%ポイントの利上げが決定され、ディングラ委員(0.50%ポイントの引き上げを主張)およびテンレイロ委員(0.25%ポイントの引き上げを主張)が反対票を投じていた。
  • 11月の金融政策報告書にある通り、その時点での市場の政策金利予測を前提に、英国経済は長期間にわたって景気後退入りし、CPIインフレ率は短期的にかなり高い状況が続くとされている
    • インフレ率は23年半ばに急速に低下し、予測期間の2年後および3年後は2%を下回ると見られている
    • これは、エネルギー価格による押し下げ寄与、経済の弛み(slack)増加と失業率の規則的な上昇を反映している
    • インフレ率のこの低下基調を取り巻くリスクは上方にあると判断されている
 
  • 国内の賃金と価格上昇圧力は増している
    • 11月の報告書以降の国内・海外の経済データは限定的である
 
  • 世界的な供給制約に関する多くの指標が緩和されているが、世界的なインフレ圧力は依然として高い
    • 家計消費は引き続き弱く、住宅市場に関する指標は引き続き弱まっている
    • 投資意欲に関する調査もまたさらに弱まっている
 
  • 労働需要は弱まっているものの、引き続きひっ迫している
    • 失業率は8-10月期に若干上昇し、3.7%となった
    • 求人数は低下したが、欠員失業比率(vacancies-to-unemployment ratio)は依然としてかなり高い水準にある
    • 民間部門の定期賃金は8-10月期にさらに上昇して6.9%に達し、11月の報告書の見通しよりも0.5%ポイント高い
 
  • CPIインフレ率は前年比で10月の11.1%から11月に10.7%に低下した
    • 11月の数値は11月の報告書時点の見通しをやや下回っている
    • MPCの声明と同時に中銀総裁と財務相の間の書簡3が公開された
    • 10月に導入された政府のエネルギー価格保証(EPG:Energy Price Guarantee)はCPIインフレ率の上昇を抑制しているものの、家計のエネルギー費用の寄与はインフレ率をさらに押し上げている
    • エネルギー価格がすでに上昇しており、他の財価格も前年比では低下に向かうと見られることから、CPIインフレ率は23年1-3月期にかけて緩やかな低下が続くと見られる
 
 
3 インフレ率が目標から乖離した理由と今後のインフレ見通し、インフレ目標を達成するための金融政策手段について説明する書簡(インフレ率が目標(2%)から1%以上乖離した場合に公開が要求される)。
  • 秋季財政報告(the Autumn Statement)におけるエネルギー価格保証の延長を受けて、家計のエネルギー価格は、典型的な電気・ガスの一括請求(dual-fuel bill)で23年4月から24年3月まで3000ポンドで固定されるため、11月の報告書の想定を短期的にやや下回ると見られる
    • その他の条件が変わらなければ、これによりCPIインフレ率は23年4-6月期で0.75%ポイント程度押し下げられるだろう
 
  • 秋季財政報告ではその他に短期的な追加財政支援が公表され、また24-25年度以降には財政は徐々に引き締められる予定になっている
    • 総じて、中銀スタッフはエネルギー価格保証を含むこれらの措置によってGDPの水準は、11月の報告書と比較して、1年目に0.4%ほど上昇し、2年目はおおよそ不変で、3年目には0.5%ほど減少すると試算している
    • CPIへの影響は見通し期間全体においては小さいと試算される
 
  • MPCの責務が、英国の金融政策枠組みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成であることは明らかである
    • この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
    • 経済はかなり大きなショックの中にある
    • 金融政策により、これらのショックによる調整が続いてもCPIインフレ率が中期的に2%目標に安定して戻るようにする
    • 金融政策はまた、長期のインフレ期待が2%目標で固定されるよう実施される
 
  • 委員会は、今回の会合で政策金利を0.50%ポイント引き上げ、3.50%とすることを決定した
    • 労働市場は引き続きひっ迫し、国内の物価と賃金がより強く持続するようなインフレ圧力の証拠が見られており、したがって、さらに強固な金融政策が正当化され得る
 
  • 委員会の大部分は、経済活動が広く11月の金融政策報告書の見通しに沿ったものであれば、インフレ率を目標に持続的に戻すためには、政策金利のさらなる引き上げが要求されるだろう(may be)と判断した
    • (政策金利について「金融市場予測よりもピークは低いものの」という一文は削除)
 
  • 見通しには大きな不確実性がある
    • 委員会は引き続き、仮にインフレ圧力がより持続的であるのであれば、必要に応じて力強い対応を行うつもりであると判断している
 
  • MPCは、その責務にもとづき、インフレ率を中期的な2%目標に安定的に戻すために必要な行動を実施するつもりである
    • 委員会は、常に、各会合で政策金利の妥当な水準を検討し、決定する

4.議事要旨の概要

記者会見の冒頭説明原稿および議事要旨の概要(上記金融政策の方針で触れられていない部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り。
 
(通貨・金融情勢)
  • 市場参加者調査(MaPS:Market Participants Survey)の中央値では政策金利のピークは23年上半期に4.25%となり、23年にわたってその水準を維持することが見込まれていた
    • 市場予想では23年中盤に4.75%程度まで上昇し、23年にわたってそれに近い水準にとどまるとされた
    • 市場予想の経路は市場参加者調査の中央値よりもやや高いものの、その差は10月中旬時点よりも縮小している
 
  • 英国の固定持ち家住宅ローン金利は前回の会合から低下しているが、夏と比較するとかなり高い水準にある
    • 新規の固定住宅ローン金利は、前回11月のMPCから0.40-0.80%程度低下しており、無リスク金利が政府の成長計画(Growth Plan)公表を受けて9月下旬に急上昇し、そこから低下したことを反映している
    • 利用可能な住宅ローン商品数は、10月に見られた低水準からの回復が続いているが、引き続き夏の水準を下回っている
 
(需要と生産)
  • 中銀スタッフは22年10-12月期のGDPが0.1%減少すると予想しており、11月の報告書よりも0.2%ポイント強い
    • これは、四半期ベースの基調的な成長率が▲0.25-▲0.5%程度に弱まる一方、10月の追加の銀行休業日(bank holiday)が終了し、政府支出がGDPにプラスの寄与をすることで一部弱さが相殺されることと整合的である
 
  • 委員会は予算責任局(OBR)の最新のマクロ経済見通しと11月報告書の見通しの比較について議論した
    • OBRのGDP見通しは、1年目は総じてMPRと類似している
    • その後の見通しは大きく異なり、OBRのGDPは25年10-12月期には11月報告書の見通しよりも5%程度高くなると予想されている
    • この違いはOPRが中期的にMPRよりも需要、供給ともに強いと見ていることが反映されている
    • 生産性はOBRの見通しが1.5%程度高くなるとされており、一部は設備投資と資本蓄積のより強いという見通しが反映されている
 
(当面の政策決定)
  • 11月17日の秋季財政報告では、OBRの経済・財政見通しと、更新した予算責任憲章(Charter for Budget Responsibility)での新しい財政ルールも公表された
    • 財務相は総裁に対し、政府の更新した経済戦略を含めたMPCの責務についての書簡を送った
    • この書簡において、イングランド銀行法は財務相が年次でMPCの責務を再確認(reaffirm)することを求めているが、現政府が物価安定の定義を変更しないことを確認したことする財務相の宣言が盛り込まれている
 
  • 2名の委員は3.00%で政策金利を維持することを希望した
    • 金融政策の効果のラグにより、過去の引き上げのかなりの影響が生じる
    • 現在の政策金利はインフレ率を目標に戻すには十分で、中期的には目標を下回る
    • 政策姿勢は制限的になっており、リスク管理の見地からは、さらなる引き締めには十分な根拠がない
 
  • ある委員は0.75%ポイントの引き上げを希望した
    • 賃金決定とインフレ期待に埋め込まれ、コアサービスやその他の基調的インフレ率を押し上げているインフレ心理に対抗するため、より強い金融引き締めにより現在の引き締め姿勢を強化する必要がある
    • 今、前倒しで金融政策を行うことで、来年、景気がさらに減速するなかで政策金利をさらに引き上げるというリスクが軽減される
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年12月19日「経済・金融フラッシュ」)

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