2022年12月16日

ECB政策理事会-0.50%ポイントの利上げとAPP残高縮小を決定

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:4会合連続の利上げを決定

12月15日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
0.50%ポイントの利上げを決定(12/21から、主要3金利すべて引き上げ)
政策金利について、今後も大幅に(significantly)、安定したペース(steady pace)で引き上げることを明記
23年3月初からAPPの保有残高を月150億ユーロ削減することを決定(23年6月末まで)
23年2月にAPP削減の詳細な数値を決定する予定

【記者会見での発言(趣旨)】
・スタッフ見通しは、GDP成長率を22年3.4%、23年0.5%、24年1.9%、25年1.8%と予想
(前回9月は22年3.1%、23年0.9%、24年1.9%
インフレ率を22年8.4%、23年6.3%、24年3.4%、25年2.3%と予想
(前回9月は22年8.1%、23年5.5%、24年2.3%
大幅で安定したペースとは、一定期間0.50%ポイント利上げと解釈すべきである

2.金融政策の評価:利上げ幅は縮小したが、タカ派姿勢は強まる

ECBは今回の会合で、0.50%ポイント利上げを決定した。利上げ幅は前回10月の0.75%ポイントより縮小されたが、市場も0.50%ポイントの利上げを見込んでいたため、決定内容は想定通りだった。これで7月以降、政策金利を合計2.50%ポイント上昇させたことになる。

また、今回は前回会合でアナウンスされていたAPPの削減についても、23年3月初から月150億ユーロのペースで減少させるという主要原則を決定した。

今回、利上げ幅は0.50%ポイントに縮小されたが、将来の引き締め姿勢に関してはタカ派スタンスを強めている。声明文では政策金利を「今後も大幅に(significantly)、安定したペース(steady pace)で引き上げる」ことが盛り込まれた。またラガルド総裁も市場が想定する政策金利では引き締めが十分ではないとの趣旨の発言している。実際、今回公表されたスタッフ見通しでは、24年のインフレ率が3%台、25年のインフレ率も2%をやや上回る予想となっている(四半期ベースでは25年7-9月期にインフレ率が2%に低下する見通しになっている1)。卸売ガス価格や電力価格は夏のピークよりも低下したものの、将来のインフレ減速が緩やかなペースに留まる背景には、ECBの警戒する期待インフレ率の上振れや、賃金上昇圧力も強まりがあると見られる。

一方で「データ次第」で政策決定を行うという原則は引き続き維持している。次回2月の会合までには冬場の景気後退の程度やインフレ圧力の状況も一部明らかになる。当面は成長率、インフレ率の双方で、先行きの不確実性は高いと見られることから、実際の経済データに注目が集まる状況が続くだろう。
 
1 なお、見通し作成時の市場金利が金利経路の前提になっており、具体的には3か月EURIBORで23年2.9%、24年2.7%、25年2.5%という前提。

3.声明の概要(金融政策の方針)

12月15日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
 
  • 本日、理事会は3つの主要な政策金利を0.50%ポイント引き上げることを決定し、大きく上方修正されたインフレ見通しに基づき、さらなる引き上げを行う予定(expects)であることを決定した
    • 特に、理事会は、政策金利をまだ大幅に(significantly)、安定したペース(steady pace)で引き上げ、2%の中期目標にすみやかに(timely)戻ることを確実にするような十分に引き締め的な水準まで到達させる必要がある
    • 政策金利を引き締め的な水準に維持することは、需要を抑制することで時間の経過とともにインフレを低下させ、インフレ期待が恒常的に上方シフトすることを防ぐ
    • 理事会の将来の政策金利決定は、引き続きデータに依存し、会合毎のアプローチ(meeting-by-meeting approach)に基づいて行う
 
  • ECBの政策金利は、金融政策姿勢を示す理事会の主要な手段である
    • 理事会はまた、本日、ユーロシステムの金融政策手段としての証券保有を正常化させる減速について議論した
    • 23年3月初以降、ユーロシステムは、償還額を全額は再投資せず、APP残高は秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で減少する予定である
    • この減少は、23年6月末までの平均で月額150億ユーロとなり、その後については、今後決定する予定である
 
  • 2月の理事会で、理事会はAPP残高の削減に関する詳細な数値(parameters)を決定する予定である
    • 理事会は定期的にAPP残高の削減ペースを評価し、金融政策戦略と姿勢と整合的であるようにし、市場機能を守り、短期金融市場環境をしっかり制御する
    • 2023年末までに、理事会はまた短期金利操作の運用枠組みを見直し、バランスシートの正常化手続きの終了に関する情報を提供する予定である
 
  • 理事会は本日、政策金利の引き上げを決定し、インフレ率が相当高く、長期間目標より上方にとどまる見通しであることから、さらに大幅に引き上げる予定であることを決定した
    • Eurostatの速報値では、11月のインフレ率は10.0%となり、10月に記録した10.6%からわずかに低下した
    • この低下は主にエネルギーインフレが低かったことによる
    • 食料インフレと基調的なインフレ圧力は経済全体で強まっており、また持続的になりつつある
    • 大きな不確実性がある中で、ユーロシステムのスタッフはインフレ見通しを大幅に上方修正した
    • インフレ率は22年平均で8.4%に達した後、23年には年を通じて大きく低下し6.3%となると見ている
    • その後、24年は3.4%、25年は2.3%と予想する
    • エネルギーと飲食料を除くコアインフレは22年に3.9%となった後、23年は上昇して4.2%となり、その後下落して24年2.8%、25年2.4%と予想する
 
  • ユーロ圏経済は、エネルギー危機、高い不確実性、世界経済の鈍化と金融環境の引き締まりによって、この四半期と次の四半期は縮小する可能性がある
    • 最新のユーロシステムのスタッフ見通しでは、景気後退は短く(short-lived)、浅い(shallow)と見ている
    • しかしながら成長率は、来年は振るわないと見られ、前回の見通しと比較して大幅に下方修正した
    • 先々については、成長率は現在の逆風が解消することで回復すると予想する
    • ユーロシステムのスタッフ見通しでは経済成長率を22年3.4%、23年0.5%、24年1.9%、25年1.8%と見ている
 
(政策金利、フォワードガイダンス)
  • 理事会は3つの政策金利を0.50%ポイント引き上げることを決定した(利上げの決定)
    • 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:2.50%
    • 限界貸出ファシリティ金利:2.75%
    • 預金ファシリティ金利:2.00%
    • 12月21日から適用
 
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
  • APPの元本償還分の再投資(APPの再投資削減を決定
    • APPの元本償還分は23年2月末まで全額再投資を実施(期間を明示
    • その後は償還額を全額は再投資せず、APP残高は秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減させる
    • この削減は23年6月末まで平均月額150億ユーロのペースとなり、その後については、今後決定する予定削減ペースを追加
    • (APP償還再投資の実施条件「政策金利を引き上げ後、十分な流動性と適切な政策姿勢を維持するために必要な限り実施」の記載は削除)
 
  • PEPP元本償還分の再投資実施(変更なし)
    • PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2024年末まで実施(変更なし)
    • 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する(変更なし)
 
  • PEPP償還再投資の柔軟性について(変更なし)
    • 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
 
(資金供給オペ)
  • 流動性供給策の監視(記載内容を変更)
    • 銀行が貸出条件付長期資金供給オペ下での借入額の返済を行うなか、理事会は条件付貸出オペが金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する(銀行の返済行動を追記
    • (TLTROⅢの条件変更についての記載は削除)
 
(その他)
  • 金融政策のスタンスとTPIについて(内容の変更なし)
    • インフレが2%の中期目標に戻るよう、すべての手段を調整する準備がある
    • 伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう(変更なし)

4.記者会見の概要

政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
 
(冒頭説明)
  • (声明文冒頭に記載の利上げとスタッフ見通しへの言及)
 
  • 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい

(経済活動)
  • ユーロ圏の成長率は7-9月期に0.3%に鈍化した
    • 高いインフレ率と引き締め的な金融環境を受けて、家計の実質所得が減少し企業の費用が増したことで、支出や生産が鈍化した
 
  • 世界経済もまた、地政学的な不確実性、特にロシアによる正当化されないウクライナやその市民への侵攻と、世界全体で金融環境が引き締まっていることを受け、減速している
    • 輸入物価の上昇が、輸出物価の上昇を上回っていることを反映して、交易条件が悪化したことは、引き続きユーロ圏の購買力に対する重しとなっている
 
  • 良い面としては、雇用者数が7-9月期は0.3%増加し、失業率も10月には6.5%と歴史的な低水準を記録した
    • 上昇する賃金は購買力低下の回復に寄与し、消費を支えている
    • しかしながら、経済が弱まることで、雇用創造は鈍化し、失業率は先々数四半期にかけて上昇する可能性が高い
 
  • 高いエネルギー価格の衝撃から経済を守る財政支援策は、一時的で、対象を絞り、エネルギー消費抑制のインセンティブがあるようにすべきである
    • これらの原則を満たさない財政支援策はインフレ圧力を悪化させ、より強力な金融政策で対応する必要が求められる
    • さらに、EUの経済ガバナンス枠組み(economic governance framework)に沿えば、財政政策は我々の経済をより生産的にし、高い公的債務を段階的に削減させる方向に向かうべきである
    • ユーロ圏の特にエネルギー部門における生産余力を強化させる政策は、中期的な物価上昇圧力の削減に寄与するだろう
    • この点に関して、政府は次世代EUの下での投資や構造改革を迅速い実行すべきである
    • EUの経済ガバナンス枠組みの改革は迅速に完了されるべきである
 
(インフレ)
  • インフレ率は主にエネルギーインフレが低下、サービスインフレも低下したために11月に10%に減速した
    • しかしながら、食料品製造における原材料価格の上昇が消費者物価に転嫁されたことで、食料品価格は13.6%とさらに上昇した
 
  • 価格上昇圧力は、様々な部門で引き続き強く、一部は高いエネルギー費用の影響が経済全体に広がった結果と言える
    • エネルギーと飲食料を除くインフレ率は、11月は5.0%と横ばいで、他の基調的なインフレ指標もまた高い
    • 家計が直面する高いエネルギー価格とインフレ率を埋め合わせるための財政措置は来年にかけてインフレ率の抑制となるが、措置が終了された場合には上昇するだろう
 
  • 供給制約は段階的に緩和されているが、依然としてインフレ率に寄与しており、特に財価格を押し上げている
    • コロナ禍に関連した制限の解除も同様であり、影響は弱くなっているが、ペントアップ需要が依然として特にサービス部門で価格を押し上げている
    • 今年のユーロの減価もまた、引き続き消費者物価に寄与している
 
  • 堅調な労働市場と、高いインフレに対する労働者への補償としての賃金のキャッチアップ(catch-upに)後押しされて、賃金伸び率は強まっている
    • これらの要因は引き続き実施されており、ユーロシステムのスタッフ見通しでは、見通し期間にわたって、賃金上昇率が歴史的に見た平均よりかなり高くなり、インフレ率を押し上げると見ている
    • ほとんどの長期のインフレ期待の指標が現在は2%付近にあるが、いくつかの指標では、さらに目標を上回る修正がされており、引き続き注視している
(リスク評価)
  • 成長率見通しへのリスクは特に短期において下方にある
    • ウクライナでの戦争は引き続き経済への渋滞なリスクである
    • エネルギーと飲食料価格が予想よりも高止まりする可能性がある
    • もし世界経済の減速が予想よりも急激に進めば、ユーロ圏の成長への追加的な重しになる可能性がある
 
  • インフレ見通しを取り巻くリスクは主に上方にある
    • 短期的にはエネルギーと飲食料に関して、既存の価格転嫁圧力が予想よりも小売り価格を押し上げる可能性がある
    • 中期的には、主に、インフレ期待が持続的に目標から高止まりする、あるいは賃金上昇が予想よりも高いといった域内要因から生じる
    • 対照的に、エネルギー価格の下落、もしくは需要のさらなる低迷は価格上昇圧力を弱めるだろう
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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