2022年12月16日

欧州経済見通し-高インフレによる下押し圧力が増す欧州経済

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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■要旨
 
  1. 欧州経済は、コロナ禍からの回復を着実に進める一方、ロシアがウクライナに侵攻して以降はエネルギーの供給懸念や価格高騰の影響を大きく受けている。
     
  2. 欧州で台頭していたガス不足懸念は短期的には後退しているが、今後も供給不安は残り、ガスの調達価格は低下しにくい状況が続くと見られる。
     
  3. インフレ率は10月に10%超を記録、高い伸び率となっていることに加え、物価上昇の裾野が広がっている。また、雇用にひっ迫感があることから、その持続性も高まっている。
     
  4. 各国ではエネルギー価格の高騰を受けて、エネルギー減税、卸・小売価格の制限、ぜい弱層向けの所得支援といった財政面からの支援を拡充している。
     
  5. 足元のユーロ圏は景気後退に陥りつつある。マイナス成長は浅く、期間は短いが、その後の回復も緩慢にとどまり、23年の経済成長率は▲0.2%と予想する。インフレ率はピークアウトするが、低下ペースは遅く、ECBの目標である2%まで低下するのは24年末と予想する(図表1・2)。
     
  6. リスクは成長率では下方、物価では上方により大きい。外部要因として、ロシア・ウクライナ戦争の激化、エネルギー危機の深刻化、世界経済の見通し悪化、域内要因として、物価と賃金のスパイラル化、金融引き締めの副作用の拡大、政策協調の失敗が挙げられる。
     
  7. ECBは高インフレに対抗するために7月以降、合計2.50%の利上げを決定した。インフレ率が目標を大きく上回り、期待インフレ率も上向いているため、当面はタカ派姿勢を続けることが想定される。

 
(図表1)ユーロ圏の実質GDP/(図表2)ユーロ圏の物価・金利・失業率見通し
■目次

1.実体経済の概況・見通し
  ・概況:コロナ禍はほぼ克服したが高インフレの影響で成長率は減速
  ・経済状況の振り返り:7-9月期はプラス成長を維持
  ・ガス需給:今冬のガス不足リスクは後退したが、高止まりする価格が経済の重しに
  ・インフレ:インフレの持続性が高まっている
  ・財政支援:生活費対策としての財政支援を実施
  ・見通し: 冬場は高インフレでマイナス成長に
2.金融政策・長期金利の現状・見通し
  ・金融政策:ECBは積極利上げでインフレ抑制姿勢を強調
  ・長期金利:インフレ警戒感から上昇余地
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