2022年10月28日

ECB政策理事会-9月に続き0.75%ポイントの大幅利上げを実施

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:2会合連続で0.75%ポイントの利上げを実施

10月28日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
0.75%ポイントの利上げを決定(11/2から、主要3金利すべて引き上げ)
TLTROⅢの貸出条件変更および早期返済日の追加(11/23以降の付利について条件を変更、11/23以降に追加で3回の早期返済日を設定
最低準備への付利の扱いを変更(12/21以降、MRO金利から預金ファシリティ金利に変更)

【記者会見での発言(趣旨)】
12月にAPP削減の議論を進め、主要原則を決定する予定

2.金融政策の評価:データ依存の姿勢を強調

ECBは今回の会合で、0.75%ポイント利上げを決定した。市場も0.75%ポイントの利上げを見込んでいたため、利上げの決定内容は想定通りだった。これまで9月の0.75%ポイント、7月の0.50%ポイントの利上げを合わせて、政策金利を合計2.00%ポイント上昇させたことになる。

大幅な利上げを続けてきたことで、政策金利水準はこれまでECBが示してきた中立金利1市場参加者が予想する長期時点(longer-run)の政策金利水準2まで引き上げられたため、質疑応答では今後の利上げペースに関する質問が見られた。ラガルド総裁は中立金利を考慮するのではなく、会合毎にデータに依存して政策を決定する、というこれまでの方針を改めて強調した。

また、質疑応答では財政出動に関する質問も多く見られた。欧州ではエネルギー価格の高騰に伴い、ユーロ圏各国やEUで様々な対策が検討・実施されている一方で、英国では大規模な財政出動発表したことを発端に金融市場が大きく混乱したことが質問の背景にあると見られる。ラガルド総裁は、インフレ抑制を目的とした財政政策は、一時的(temporary)で対象を限定し(targeted)、目的に合った(tailored)ものが望ましいとしつつ、EUの対策は総じてこれらを順守しようとしており、金融政策と整合的であるとの考えを示した。

なお、今回は利上げと合わせてTLTROIIIの貸出条件の変更も決定された。11月下旬以降の借入残高に関する調達コストを引き上げるもので、合わせて早期返済日も追加されている。前回の声明では、「TLTROIIIの満期が金融政策の円滑な伝達を阻害しないよう保証する」との文言が記載されており、今回の会合で実際に条件を見直したことになる。ラガルド総裁は会見で、金融政策の伝達に鑑み、引き締めの金融政策スタンスと整合的となるよう調整するとともに、早期返済が進めば担保不足の問題にも寄与するとの見解を示している。

総じて、今回の決定は予想通りの内容となったが、次回12月の会合ではエネルギー需要の高まる冬の経済状況が一部明らかになる時期であり、ECBスタッフの新たな見通しも公表される。これまで0.75%ポイントの積極利上げを続けてきたECBの姿勢に変化が見られるのかが注目される。

3.声明の概要(金融政策の方針)

10月27日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
 
  • 本日、理事会は3つの主要な政策金利を0.75%ポイント引き上げることを決定した
    • 3回連続での主要金利の引き上げで、理事会は金融緩和の縮小に大きく前進した
    • 理事会の本日の決定と、今後のさらなる引き上げ予定(expects)により、インフレ率を中期的に2%の目標にすみやかに(timely)戻すことを確実にするだろう
    • 理事会は先々の政策金利経路をインフレ率と経済の見通しと会合毎のアプローチ(meeting-by-meeting approach)に基づいて行う
 
  • (今後数回(several)の会合でのさらなる利上げによって、需要抑制とインフレ期待の上方シフト防止するつもりとの記載は削除)
 
  • インフレ率は極端に高く(far too high)、また長期間(extended period)にわたって目標を上回るだろう
    • 9月のユーロ圏インフレ率は、9.9%に達した
    • この数か月、エネルギーと飲食料が高騰し、供給制約とコロナ禍後の回復による需要が広い物価上昇圧力となり、またインフレ率を押し上げている
    • 理事会の金融政策は需要支援を減らし、インフレ期待の持続的な上昇シフトのリスクを防ぐことを目的としている
 
  • 理事会はまた、貸出条件付長期資金供給オペ第三弾(TLTROIII)の利用条件を変更することを決定した
    • コロナ禍の急拡大期において、この手段は価格安定の下振れリスクに対抗するための重要な役割を果たした
    • 今日、予期しないインフレ率の急上昇を勘案して、金融政策正常化の過程と平仄を合わせ、利上げの銀行の貸出環境への伝達を補強するために、再調整(recalibrated)する必要がある
    • 理事会はしたがって、TLTROIIIへの適用金利を22年11月23日から調整し、あわせて任意の早期返済日を追加することを決定した
 
  • 最後に、ユーロシステムの信用機関(credit institutions)が保有する最低準備(minimum reserves、法定準備)への付利をより市場環境に近づけるために、理事会は最低準備への付利をECBの預金ファシリティ金利に一致させることを決定した
 
(政策金利、フォワードガイダンス)
  • 理事会は3つの政策金利を0.75%ポイント引き上げることを決定した(利上げの決定)
    • 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:2.00%
    • 限界貸出ファシリティ金利:2.25%
    • 預金ファシリティ金利:1.50%
    • 11月2日から適用
 
  • (二階層システムに関する記載は削除)
 
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
  • APPの元本償還分の再投資(変更なし)
    • APPの元本償還分は全額再投資を実施
    • 政策金利を引き上げ後、十分な流動性と適切な政策姿勢を維持するために必要な限り実施
 
  • PEPP元本償還分の再投資実施(変更なし)
    • PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2024年末まで実施(変更なし)
    • 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する(変更なし)
 
  • PEPP償還再投資の柔軟性について(政策の変更なし)
    • 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
 
(資金供給オペ)
  • 流動性供給策の監視(条件の変更)
    • 理事会はTLTROIIIに適用される金利を調整することを決定した(条件変更の決定)
    • 22年11月23日から満期もしくは早期返済日まで、TLTROIIIの残高への付利は、その期間における主要金利の平均と連動される(条件変更期間)
    • 理事会はまた、任意の早期返済日を銀行に追加する(早期返済日の追加)
    • 理事会は条件付貸出オペが金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する(内容の変更なし)
    • (理事会による資金調達環境の監視とTLTROIIIが金融政策の円滑な伝達を阻害しないよう保証する記載を削除)
 
(その他)
  • 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
    • インフレが2%の中期目標に向け推移するよう、すべての手段を調整する準備がある
    • 伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう(変更なし)
 
なお、同日の会見後、TLTROIIIおよび最低準備の取り扱いに関する決定も公表された。概要は以下の通り
 
(TLTROIIIの条件変更)
  • 22年11月23日から満期もしくは早期返済日におけるTLTROIIIの残高への付利は、その期間における主要金利の平均と連動される3
    • 22年11月22日までは既存の金利計算方法
  • 追加で3回の早期返済日が導入され、TLTROIII借入の満期前に一部もしくは全部の返済機会が与えられる4
 
(最低準備の付利変更)
  • 最低準備への付利は預金ファシリティ金利で行われる
    • 22年12月21日の積み期間から適用
    • これまでは主要リファイナンスオペ(MRO)金利が適用されていた
 
 
3 優遇金利は預金ファシリティ金利の平均、そうでない場合は主要リファイナンスオペ金利の平均。
4 受渡日ベースで22年11月23日、23年1月25日、23年2月22日が追加された。もともと3か月おきに早期返済日が設定されていたが、22年11月から3月までは毎月早期返済日が設定されたことになる(全10回実施されたTLTROIIIオペのうち、最後の3回のオペが対象。22年12月21日および22年3月29日には従来から早期返済日が設定されていた)。

4.記者会見の概要

政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
 
(冒頭説明)
  • (声明文冒頭に記載の利上げとスタッフ見通しへの言及)
 
  • 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい

(経済活動)
  • ユーロ圏の経済活動は今年7-9月期に大きく減速し、今年の残りと来年初はさらに弱くなる見込みである
    • 人々の実質所得が減少し、企業の費用が押し上げられることで、高インフレは引き続き支出や生産を鈍化させている
    • ガス供給のひどい混乱はさらに悪化しており、消費者および企業の景況感は急速に悪化し、経済の重しになっている
    • サービス需要は、コロナ禍関連の制限からの再開による影響を受けて数四半期にわたって強い状況となった後に鈍化しており、サーベイ調査では製造業部門の新規受注の落ち込みが見られる
    • 加えて、世界経済の成長もより減速し、地政学的な不確実性が続いていること、とりわけロシアの正当化されないウクライナに対する戦争によって、金融環境が引き締まっている
    • 交易条件は悪化しており、輸出収入よりも輸入支出の伸びが大きいことが、ユーロ圏所得の重しとなっている
 
  • 7-9月期の労働環境は引き続き良好で、8月の失業率は歴史的な低水準の6.6%にとどまっている
    • 短期の指標では7-9月期の労働が引き続き増加することが示唆されているが、経済活動の減速によって将来の失業率は増加すると見られる
 
  • インフレ高進のリスクを制限するための、高いエネルギー価格の衝撃から経済を守る財政支援策は一時的かつ弱者を対象にしたものであるべきである
    • 政策立案者はエネルギー消費の低下とエネルギー供給の拡大という動機付けを提供するべきである
    • 同時に、政府は高い債務割合を段階的に引き下げることにコミットしていることを示す財政政策を追求すべきである
    • 構造改革は、ユーロ圏の潜在成長率と供給力を引き上げ、強靭性を強化することで、中期的な物価圧力を削減することに貢献するものであるべきである
    • 次世代EUの下での投資や構造改革の迅速な実行は、これらの目的に大きく貢献するだろう
 
(インフレ)
  • インフレ率はすべての構成要素がさらに上昇したことを反映して、9月には9.9%まで上昇した
    • エネルギー価格はガスや電気価格の上昇を受けて、40.7%と引き続き全体のインフレ率の主要な要素となった
    • 食料品価格もさらに上昇し、11.8%と高い原材料価格が食品生産をより高価にしている
 
  • 供給制約は段階的に緩和されているが、時間差を伴いつつ依然としてインフレに寄与している
    • ペントアップ需要の影響は弱まっているが、依然としてサービス部門の価格上昇を引き起こしている
    • ユーロの減価もインフレ圧力を助長させている
 
  • 価格上昇圧力は、一部は高いエネルギー価格が経済全体に影響することから、明らかにより多くの部門で見られている
    • 基調的なインフレ率の指標は引き続き高い水準を維持し、そのような指標のなかで、コアインフレ率は9月に4.8%まで上昇している
 
  • 堅調な労働市場は、高いインフレへのキャッチアップ(catch-up)とともに高い賃金上昇を促すとみられる
    • 最新のデータと直近の校長賃金の指標は、賃金上昇を示唆している可能性がある(may)
    • 多くの長期のインフレ期待の様々な指標が現在は2%付近にあるが、いくつかの指標で最近は目標を上回る修正がされており、引き続き注視が必要である
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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