2022年10月12日

IMF世界経済見通し-成長率は下方、インフレ率は上方修正

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.内容の概要:23年で前年比2.7%に下方修正

10月11日、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通し(WEO:World Economic Outlook)を公表し、内容は以下の通りとなった。
 

【世界の実質GDP伸び率(図表1)】
2022年は前年比3.2%となる見通しで、7月時点の見通し(同3.2%)から変更なし
2023年は前年比2.7%となる見通しで、7月時点の見通し(同2.9%)から下方修正

(図表1)世界の実質GDP伸び率/(図表2)先進国と新興国・途上国の実質GDP伸び率

2.内容の詳細:リスクは引き続き下方に傾く

IMFは、今回の見通しを「生活費危機への対処(Countering the Cost-of-Living Crisis)」と題して作成した1

世界経済成長率(ベースライン)は、22年は変更されなかったが23年は下方修正(2.9→2.7%)された

成長率の下方修正の要因としては、これまでの見通しで言及してきた下振れリスクの一部が顕在化したこと、具体的には主要中銀の利上げ積極化期待による金融環境の引き締まり、中国の都市封鎖(ロックダウン)延長による成長減速と不動産危機の深刻化、ウクライナでの戦争の波及効果としてのロシアから欧州へのガス供給削減、が挙げられている

IMFは、短期的には22年もしくは23年にテクニカルリセッション(2四半期連続のマイナス成長)となる国がおよそ43%あり2、経済規模では3分の1を占める見込みであると指摘している。さらに、22年の供給ショックと政策の引き締めによる影響は、長期にわたって続くことが想定されており、年初(1月)時点の見通しと比較すると26年までの累積で3%近く生産量が失われると推計している。

一方、インフレ率の見通しは22年および23年ともに上方修正(22年8.3→8.8%、23年5.7→6.5%)され、当初予想よりも高止まりが続くとした。IMFではインフレ率のピークを22年末(四半期ベースでは22年7-9月期の9.5%)と想定している。

なお、IMFはベースライン見通しの前提として、ロシアから欧州への天然ガスの供給が現在の8割減よりも減少しないこと、長期的なインフレ期待が安定的に推移し続けること、インフレ抑制のための金融引き締めによって広範囲な景気後退や金融市場の混乱が引き起こされないこと、を含むものとしている
(図表3)主要国・地域の成長率と実質GDP水準
成長率見通しを地域別に見ると(前掲図表2、図表3)、先進国(22年2.5→2.4%、23年1.4→1.1%)は22・23年ともに下方修正され、新興国・途上国(22年3.6→3.7%、23年3.9→3.7%)については22年が小幅に上方修正され23年が下方修正されている。

先進国では、米国(22年2.3→1.6%、23年1.0→1.0%)が4-6月期のマイナス成長を反映して22年の成長率が大幅に下方修正された。ユーロ圏(22年2.6→3.1%、23年1.2→0.5%)は、22年の成長率は観光関連サービスや工業生産の回復で上方修正されたものの、23年はロシア産ガス供給の削減を受けて大幅に下方修正され、特にガス供給の影響を受けやすいドイツやイタリアではマイナス成長見通しとなった日本(22年1.7→1.7%、23年1.7→1.6%)の修正幅は限定的であった。なお、英国(22年3.2→3.6%、23年0.5→0.3%)は23年が下方修正されたが、23日の大規模財政出動を織り込む前に作成された見通しであるとしている。

新興国・途上国では大国の中国(22年3.3→3.2%、23年4.6→4.4%)やインド(22年7.4→6.8%、23年6.1→6.1%)でやや下方修正されている。一方、戦争当事者であるロシア(22年▲6.0%→▲3.4%、23年▲3.5→▲2.3%)は成長率が上方修正されている。IMFはロシア経済について、原油輸出が底堅く、金融・財政措置により内需が持ちこたえており、金融システムの信頼性も回復しているため、経済の落ち込みが予想よりも深刻ではないとしている。
(図表4)先進国と新興国・途上国のインフレ率 インフレ率の地域別の見通しについては先進国(22年6.6→7.2%、23年3.3→4.4%)、新興国・途上国(22年9.5→9.9%、23年7.3→8.1%)となり、いずれの地域でも大幅に上方修正されている(前掲図表1、図表4)。
 
また、IMFは見通しに対するリスクは引き続き下方に傾いているとしており、具体的な要因として「政策の誤り(金融引き締めの不足や過剰)」「経済政策の違いとドル高」「インフレ圧力の長期化」「新興市場での債務問題」「欧州へのガス供給停止」「世界的な健康不安の再燃」「中国不動産問題の深刻化」「世界経済の分断化による国際協調の阻害」を挙げている。
 
今回、IMFは過去のショックをもとにベースライン予測に関する不確実性の分布を推計しており、82年のような高インフレと成長減速といったショックの可能性を高く見積もった場合、約25%の確率で23年の成長率が2%を下回ると試算している(図表5)。

さらに、下方リスクを踏まえて、下記を織り込んだ悲観シナリオも用意している

(1) 原油価格の上昇(ベースライン比で23年は30%、24年は15%高い)
(2) 中国の不動産部門(ベースライン比で固定資本投資が24年までに9%低下)
(3) 労働市場の混乱長期化による潜在生産量の低下(労働参加率低下とマッチング効率の悪化)
(4) 世界的な金融環境のタイト化(クレジットリスクプレミアムの上昇や通貨下落)
(図表5)悲観シナリオによる見通し IMFはこれらのリスクが顕在化した場合、成長率は23年に1.1%まで低下するとしている(図表5)。また、インフレ率は23年に1.3%ポイント押し上げられる一方、24年は1.0%ポイント押し下げられるとしている。
 
最後に、今回の見通しでは特集として商品価格の動向および、食料品価格の分析をしている。

今回の特集では、国際的な食料品価格の上昇により、食料インフレは平均して21年に5%ポイントを押し上げられ、今後は22年には6%ポイント、23年には2%ポイント押し上げられる見込みであるとの推計を提示した上で、国際価格上昇による影響は、低所得国や貿易の開放度が高い国で大きい点を示している。
 
1 同日に「世界経済の雲行きが悪化し始めた今、政策当局者にはしっかりした舵取りが求められる(Policymakers Need Steady Hand as Storm Clouds Gather Over Global Economy)」との題名のブログも公表している。
2 四半期ベースでの見通しを作成している72の国・地域のうち、31の国・地域。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年10月12日「経済・金融フラッシュ」)

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