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- 英国金融政策(9月MPC)-2会合連続で0.50%ポイントの利上げ
1.結果の概要:7会合連続での利上げを決定
【金融政策決定内容】
・政策金利を2.25%に引き上げ(0.50%の利上げ、5対3対1で3人は2.50%への引き上げ、1人は2.00への引き上げを支持)
・英国債購入の残高を12か月で800億ポンド減少させ、7580億ポンドにする(全会一致)
【議事要旨等(趣旨)】
・政府のエネルギー価格保証(Energy Price Guarantee)を含む支援措置によってCPIインフレ率の急激な上昇はかなり抑制されるが、中期的なインフレ圧力が増す形になるだろう
・MPC直後に予定されている追加の成長計画(Growth Plan)について、需要やインフレへの影響を他のニュースとともに評価して金融政策への含意を見極める
2.金融政策の評価:0.50%ポイントの利上げは2会合連続
今回の声明文では、長期インフレ期待の固定化することの重要性について明文化され、期待インフレの抑制のための金融引き締めの重要性について改めて示されたと言える。一方で、英国では首相が交代し、トラス新政権下でエネルギー価格保証を含む大規模な支援措置が公表されている。イングランド銀行はこれらの措置によって短期的にはCPIインフレ率の急激な上昇が抑制されるとともに中期的なインフレ圧力の増加をもたらす可能性があることを明記している。また、MPC時点では未公表だった追加の成長計画(Growth Plan)について、需要やインフレへの影響を評価する必要がある点も強調されている。
この成長計画は、減税や社会保険料の引き下げなどを含む財政緩和措置であり、MPC後に公表された際には国債需給の悪化懸念から長期金利の急上昇が見られている(株や為替も下落)。積極的な財政緩和はイングランド銀行が指摘するように中期的なインフレ圧力を助長する可能性があり、実際、先物市場では政策金利が6%程度まで大幅に引き上げられることが織り込まれた(なお、MPC前に集計された上記市場参加者の見通し中央値では今回の利上げサイクルのピークは3.5%だった)。
次回のMPCは11月で、同時に金融政策報告書において経済見通しが公表される。新政権の財政政策に対する中央銀行の評価や金融政策への影響が引き続き注目される。
3.金融政策の方針
- MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
- 委員会は政策金利(バンクレート)を2.25%に引き上げる(5対3対1で決定2、0.50%ポイントの引き上げ)、3名は0.75%ポイント引き上げ、2.50%にすることを主張し、1名は0.25%ポイント引き上げ、2.00%にすることを主張した
- 委員会はまた、8月MPC会合の議事要旨で公表した戦略に沿って、英国債購入の残高を中銀準備預金の発行によって、先々12か月で800億ポンド減少させて、7580億ポンドにすることを決定した(全会一致で決定)
2 今回反対票を投じたのは、ディングラ委員(0.25%ポイントの引き上げを主張)および、ハスケル委員、マン委員、ラムズデン委員(それぞれ0.75%ポイントの引き上げを主張)。
- 8月の金融政策報告書にあるように、5月以降の卸売ガス価格の高騰と、それが英国の家計やCPIインフレ率に与える影響に鑑み、MPCは見通しを取り巻くリスクが外部要因と内部要因の双方で例外的に大きいことに注意している
- 8月以降、卸売ガス価格の変動はかなり大きく、金融市場も、国債金利の急上昇を含めて大きく動いた
- ポンド相場はこの間、大きく減価した
- それにもかかわらず、英国の小売エネルギー価格への不確実性は、政府のエネルギー価格保証(Energy Price Guarantee)を含む支援措置によって低下している
- この保証により、CPIインフレ率の急激な上昇はかなり抑制され、変動幅も低下する見込みである一方、委員会の8月の見通しと比較して民間需要の下支えとなるだろう
- 追加の成長計画(Growth Plan)公表はこのMPCの直後に予定されており、経済見通しに重要となるさらなる財政支援策が含まれると見られる
- 公表後には、11月のMPCの一部として、委員会はこれらの発表による需要やインフレへの影響を他のニュースとともに評価し、金融政策への含意を見極める
- 22年7-9月期については英国の基調的な成長率への緩やかな下方的なニュースがあり、より直近の指標や中銀エージェントの情報では、7-9月期に消費支出の水準がピークに達したことを示唆している
- 労働需要は弱くなっていることを示しているが、それにもかかわらず労働市場は夏の間はひっ迫しており、非労働力人口は予想よりもかなり多い
- 消費者サービス価格と名目賃金は予想よりも急に上昇している一方で、コア財のインフレ率は予想よりも低下している
- CPI成長率の前年比は8月に9.9%と7月の10.1%からわずかに下落し、MPCの声明と同時に公開された中銀総裁と財務相の間の書簡3を交わしている
- 政府のエネルギー価格保証を前提に、CPIインフレ率のピークは8月報告書で予想されていたよりも低下する公算で、10月にちょうど11%を下回るものと見込まれる
- しかしながら、エネルギー料金は依然として上昇しており、エネルギー価格の高騰による間接的な影響もあって、インフレ率は、低下が始まるまで先々数か月は10%を超える状況が続くと見られる
3 インフレ率が目標から乖離した理由と今後のインフレ見通し、インフレ目標を達成するための金融政策手段について説明する書簡(インフレ率が目標(2%)から1%以上乖離した場合に公開が要求される)。
- MPCの責務が、英国の金融政策枠組みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成であることは明らかである
- この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
- 経済はかなり大きなショックの中にある
- 金融政策により、これらのショックによる調整が続いてもCPIインフレ率が中期的に2%目標に安定して戻るようにする
- 金融政策はまた、長期のインフレ期待が2%目標で固定されるよう実施される
- 8月の報告書以降も国内でのインフレ圧力の上昇が続くさらなる兆しが見られる
- 政府のエネルギー価格保証は本質的にはCPIインフレ率を低下させ、ピークが前倒しされるだろう
- 保証期間においては、高インフレの長期化によって、国内の価格上昇圧力が強まるリスクを低下させると見られるものの、そうしたリスクは引き続き重大である
- 労働市場はひっ迫しており、国内の費用と物価上昇圧力は引き続き強い
- 価格保証策により短期的なインフレ率は低下するが、これはまた家計の支出が8月の報告書と比較して予測期間のはじめの2年については弱くならない見込みであることも意味する
- 他の条件が変わらなければ、予測に対して、中期的なインフレ圧力が増す形になるだろう
- この観点から委員会は、今回の会合で政策金利を0.50%ポイント引き上げ、2.25%とすることを決定した
- MPCは、その責務にもとづき、インフレ率を中期的な2%目標に安定的に戻すために必要な行動を実施するつもりである
- 政策金利経路は事前に設定されてはない
- 委員会は、常に、各会合で政策金利の妥当な水準を検討し、決定する
- 政策金利のさらなる変更の幅(scale)、ペース(pace)、時期(timing)は委員会の経済見通しとインフレ圧力の評価を反映する
- 見通しが、需要の強さを含めてインフレ圧力がさらに持続的になることを示唆するようであれば、委員会は必要に応じて強力な行動を実施する
- 8月の会合時点で、MPCは暫定的に英国債売却について、経済・市場環境が適切である前提のもとで、暫定的に9月会合直後に開始することを示していた
- この会合において、委員会はこの前提が適切であり、投票において資産購入策(APF:Asset Purchase Facility)で保有している英国債売却をこの会合直後に開始することを決定した
4.議事要旨の概要
(通貨・金融情勢)
- 英国の固定住宅金利は8月にすべてのLTV分類において、0.08から0.25%ポイント上昇した
- これは、主に21年秋以降の無リスク金利の上昇への反応であるが、高LTV住宅ローン金利はコロナ禍期間中のピーク程度に戻ったのみであった
- 住宅ローンの利用低下としては、貸し手のリスク許容度よりも主に経済見通しの悪化が影響していることが示唆されている
- 家計の無担保借入への金利もまた上昇しているが、通常通り、参照される無リスク金利よりも小幅となっている
- 同様に参照無リスク金利の預金へのパススルーは定期預金が要求払預金で大きかった
- 委員会は最近の英国での金融引き締めによる現時点での広範な影響について議論した
- 21年秋以降の無リスク市場金利の上昇は、世界金融危機前に典型的に見られたようなほぼ完全なパススルーの度合いで、顧客向けの銀行貸出金利の上昇をもたらした
- 過去の金融引き締め局面と比較して、住宅ローン債務は固定金利のシェアが大きいため、しばらくは高い金利から守られるだろうが、借り換えが必要となる局面では金利の急上昇に直面するだろう
- 家計はこの期間、持ち家の価格上昇を経験するかもしれず、これが消費支出への影響を抑制する可能性がある
- MPCは引き続き金融政策の伝達について注視する
- エネルギー価格保証策の導入は短期的にCPIインフレ率の上昇をより抑制し、10月のインフレ率は11%をちょうど下回る程度と予想される
- インフレ率の上昇は保証価格水準までCPIのエネルギー価格がさらに上昇することを反映している
- 政府の発表では、年間を通じて上昇してきたエネルギー価格の上昇によるCPIのヘッドラインインフレへの貢献が大きく削減されると見られる
- エネルギー価格のCPIインフレへの直接的な貢献は、22年10-12月期において、8月報告書時点の6.5%前後から、現在は約4%ポイント前後と想定される
- 23年初までに短期的なインフレ見通しは、家計のエネルギー料金に関して、ガス電力市場監督局(Ofgem)によって公表されていた10月の上限価格引き上げとこれまでの枠組みで予想されていた卸売ガス価格を前提にした1月の上限価格引き上げを前提にしたものよりも5%ポイントをやや上回る程度、低下すると想定される
- 労働市場に関して、労働力調査での雇用伸び率は5-7月期に0.1%となり、4-6月期の0.5%から鈍化した
- これはMPCの8月報告書での予想よりも弱い結果だった
- 雇用伸び率の鈍化は、採用の難しさに加えて、もしかしたら特に製造業部門において労働需要がやや弱くなっているという初期の兆候が反映されている可能性がある
- 8月は経済全体で、求人数のわずかな減少が見られた
- 中銀エージェントは最近、採用の難しさがやや緩和していると報告している
- 雇用関連調査はここ数か月、弱くなっている
- しかしながら、過去の平均に近い水準に留まっており、雇用の継続的なプラス成長と整合的な状況にある
- 労働力調査における失業率は5-7月期には3.6%まで低下し、74年以降で最も低い水準となり、8月の報告書の見通しよりも低かった
- しかしながら22年初以降、失業率はほとんど横ばいとなっている
- 6月と7月の結果では、非労働力人口が8月報告書時点での予想よりもかなり高く、特に7月には上昇した
- MPCは労働市場のひっ迫における重要な要素であり続けている非労働力人口の驚くべき強さについて議論した
- 最近は労働力人口からの流出が強い一方、流入も引き続き多い
- 労働力調査では労働力人口の増加の大部分が、64才以上の労働者もしくは雇用を望まない世代の増加となっている
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(2022年09月26日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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