2022年12月07日

世界各国の市場動向・金融政策(2022年11月)-11月は全面的に株も為替も反発

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.概要:11月は株価が上昇、為替はドル安

22年11月の各国1の株価・為替の動きは以下の通り。
 

【株価・対ドル為替レートの動き】
・11月は米国の利上げ幅縮小観測と中国がゼロコロナ政策を緩和するとの思惑を受けて、多くの国で株価が大きく上昇し、ドル安が進んだ(図表1)。

(図表1)株・為替の上昇率(22年10月末~11月末日時点)

(図表2)世界株価の動向/(図表3)対ドル為替レートの動向
 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する47か国・地域について確認する。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。本文中の先進市場と新興市場の区分についてはMSCIの分類に基づく。

2.ロシアの金融市場と商品価格

まず、ロシアのウクライナ侵攻後に大きく変動したロシアの金融市場や商品価格について概観しておきたい2

初めに、ロシアの金融市場を確認すると、11月は株・為替・金利ともに比較的安定した動きとなった(図表4・5)。
(図表4)ロシアの株価指数と為替レート/(図表5)ロシアの長期金利
次にロシアが主要な供給源となっている商品の動向を追うと、金属(アルミ、ニッケル)価格がやや上昇、農作物は小麦を中心に下落した(図表6・7)。金属価格は中国のゼロコロナ政策の解除とそれに伴う需要増の思惑で上昇が促されたと見られる。なおニッケルはインドネシアのニッケル工場で火災が発生したとのうわさで一時的に急騰する局面があった3

農作物価格は10月29日にロシアが黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意について一方的に参加停止を発表したことを受けて小麦価格が上昇していたが、11月2日には合意に復帰することを表明し、下落傾向を辿っている。なお、この合意は11月19日に期限を迎える予定だったが、17日に120日間の延長で合意した(図表7)。
(図表6)金属先物価格(ロンドン)/(図表7)農作物先物価格(シカゴ市場)
(図表8)エネルギー価格の推移 10月のエネルギー価格(石炭、原油、天然ガス)は、欧州の天然ガスが10月末を底にやや反発している(図表8)。秋は欧州の気候が穏やかで、ガス在庫蓄積も進展したため、価格が下落していたが、冬の需要期に入り、また寒波の気候予測も台頭してきたことで、価格の上昇圧力が強まった。
 
2 ロシアのウクライナ侵攻と経済・金融制裁を受けて、3月にロシアはMSCI ACWIから除外されているが、世界の金融市場に大きな影響を及ぼしたその後の状況を確認するため、本節で概観する。
3 例えば、日本経済新聞「ニッケル、半年ぶり高値 一時15%高LMEの値幅制限上限到達」2022年11月15日(22年12月6日アクセス)。

3.株価(MSCI)・為替レートの動き

(図表9)MSCI ACWI構成銘柄の国別騰落数 MSCI ACWIの月間騰落率は、全体では前月比7.6%、先進国が前月比6.8%、新興国が前月比14.6%となり、特に新興国の上昇が目立った(前掲図表2)。

国別の株価の動きを見ると、11月は対象国の47か国中、10月に続きほとんどの国が上昇しており、下落した国は5か国のみだった。11月は10月に下落していた中国株が大幅に上昇している(図表10)。
(図表10)各国の株価変動率
中国では、当局が新型コロナの濃厚接触者の隔離期間を短縮することなどが発表され、ゼロコロナ政策が緩和されるとの思惑が広がったことが株の押し上げ材料となった。

また、米国で公表された10月のCPIが予想よりも鈍化したことが、12月の利上げ幅縮小観測を強めることとなり、株の押し上げ材料となった。
(図表11)MSCI ACWI構成通貨の通貨別騰落数 通貨の騰落率を見ると、ドルの27カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が前月比3.7%、60カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比4.4%となりドル安が進行した4(前掲図表3)。

MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、36通貨中対ドルで上昇(ドル安)したのは32通貨、下落(ドル高)したのは4通貨となった(図表11)。米国のインフレ率下振れと利上げ幅縮小観測で多くの通貨に対してドル安が進んだ(図表12)。中国のゼロコロナ政策の緩和期待も特にアジア通貨の買い材料として働いたと見られる。
(図表12)各国の対ドル為替レート変動率
 
4 名目実効為替レートは11月30日時点の前月末比で算出。

4.金融政策:多くの国で利上げが続くが、様子見姿勢に転じる国も

最後に、主要地域の金融政策を見ていく(図表13)。
(図表13)、主要地域の金融政策
10月はG7では、米国と英国で金融政策を決定する会合が開かれた。

米国FRBは6会合連続、英国イングランド銀行は8会合連続となる利上げでいずれも利上げ幅は0.75%ポイントと大幅だった。

G7以外の国でも多くの国で利上げを決定しているが、チェコ、ポーランド、ハンガリーは政策金利の据え置きを決めている。チェコは3会合連続の据え置き、ポーランドとハンガリーは2会合連続の据え置きであり、これまで進めてきた利上げの効果を見極める姿勢を講じている。

また、トルコはエルドアン大統領の意向を受けた低金利政策が続いており、4会合連続での利下げを決定、政策金利は1桁台となり、政策金利はエルドアン大統領が要求してきた水準まで下げられた。中国は政策金利を据え置く一方で、預金準備率の引き下げを決定しており、金融面での景気の下支えを図っている。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年12月07日「経済・金融フラッシュ」)

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