2022年11月04日

米FOMC(22年11月)-4会合連続で政策金利の0.75%引上げを決定。利上げ幅縮小の可能性を示唆

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:予想通り、0.75%の利上げ、利上げ幅縮小の可能性を示唆

連邦公開市場委員会(FOMC)が11月1-2日(現地時間)に開催された。FRBは市場の予想通り、前回会合(9月)に続き4会合連続で政策金利を0.75%引上げ3.75-4.00%とした。バランスシート政策に変更はなかった。今回発表された声明文では、景気の現状判断部分や見通し部分に関する変更はなかった。一方、フォワードガイダンス部分では「継続的な利上げが適切」との表現が残された一方、「将来の目標レンジの引上げペースを決定する際に、委員会は金融政策の累積的な引締め、金融政策が経済活動やインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する」との表現が追加され、累積的な引締めや時間差に言及されたことから、利上げは継続するものの、今後の会合で利上げ幅を縮小する可能性が示唆された。

今回の金融政策方針は全会一致での決定となった。

2.金融政策の評価:前回会合に続き、非常にタカ派的な内容

政策金利の0.75%の引上げは予想通り。9月のFOMC参加者による政策金利見通しで12月は利上げ幅の縮小が示されていたことから、利上げ幅の縮小を示唆する声明文にも大きなサプライズは無かった。

一方、パウエル議長によるFOMC会合後の記者会見では、これまでの大幅な金融引締めによっても労働市場やインフレ動向が想定以上に底堅いとの認識が示された。また、金融政策に関して「利上げ停止を検討するのは時期尚早」との見方が示されたほか、FOMC参加者の政策金利見通しが12月会合で上方修正される可能性が示されるなど前回会合に続き非常にタカ派的な内容となった。これは今後の利上げ幅の縮小を受けて、金融市場が将来の金融緩和政策への転換を織り込み、金融環境が緩和することで金融引締め効果が減殺することを避ける動きとみられる。

今回のFOMC会合を受けて、当研究所はこれまで通り、今後発表されるインフレ指標が予想外に大幅な上昇とならない限り、12月のFOMC会合では政策金利の引上げ幅を0.5%に縮小すると予想する。一方、23年は従前予想の1-3月期に0.25%利上げから、0.25%の利上げを2回実施し、年末の政策金利を4.75%~5.00%に0.25%上方修正する。

足元の経済状況は底堅いものの、FRBによる金融引締めの影響で年末から来年にかけて米国経済は景気後退が不可避だろう。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを3.00-3.25%に引き上げることを決定(今回削除)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを3.75-4.00%に引き上げることを決定(今回追加)
  • 加えて、5月に公表された「連邦準備のバランスシート削減計画」に記載されている通り、財務省証券、エージェンシー債、エージェンシーの住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(変更なし)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • 目標レンジの継続的な引き上げが適切であることを期待している(今回削除)
  • インフレ率を長期的に2%に戻すために十分に抑制的な金融政策スタンスを達成するためには目標レンジの継続的な引上げが適切であろう(今回追加)
  • 将来の目標レンジの引上げペースを決定する際、委員会は金融政策の累積的な引締め、金融政策が経済活動やインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する予定である(今回追加)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会はインフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(変更なし)
 
(景気判断)
  • 最近の指標は消費と生産の緩やかな伸びを示している(変更なし)
  • 雇用の伸びはこの数ヵ月堅調で、失業率は低いままだ(変更なし)
  • パンデミックに関連する需給不均衡、食料品とエネルギー価格の上昇、より広範な価格圧力を反映してインフレは高止まりしている(変更なし)
 
(景気見通し)
  • ロシアの対ウクライナ戦争は、多大な人的および経済的困窮を引き起こしている(変更なし)
  • 戦争とそれに関連する出来事は、短期的にはインフレに対する追加的な上昇圧力を生み出したほか、世界経済に重くのしかかっている(変更なし)
  • さらに、中国における新型コロナウイルス関連のロックダウンは、サプライチェーンの混乱を悪化させる可能性が高い(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 本日、FOMCは政策金利を75ベーシスポイント引き上げたが、我々は引き続き継続的な引上げが適切であると予想している。
    • 米国経済は昨年のペースから大幅に減速した。実質GDP成長率は前期に+2.6%だったが、今年に入ってからは横這いとなっている。最近の指標は当期の支出と生産が緩やかな伸びとなったことを示している。
    • 成長が鈍化しているにもかかわらず、労働市場は極めてタイトな状況が続いている。失業率が50年ぶりの低水準にある中、求人数は依然として多く、賃金上昇率も上昇している。労働市場は依然として均衡を欠いており、需要が労働力の供給を大幅に上回っている。
    • 9月のPCE価格指数は前年同月比+6.2%と長期目標の2%を大幅に上回っている。価格圧力は広範な財とサービスにわたって依然として明白だ。一方、インフレ率の上昇にもかかわらず、長期的なインフレ期待は固定されているようにみえる。ただし、現在のような高インフレが長引けば長引くほど、インフレ期待が定着する可能性は高まる。
    • 我々の政策行動を受けて金融環境は大幅に引締まり、住宅など最も金利に敏感な経済分野の需要に影響を与えている。しかし、金融抑制の効果が完全に発揮されるには、とくにインフレに対しては時間がかかる。インフレ率を目標の2%まで下げるのに十分引締め的な金利水準に近づくにつれて、いずれは利上げペースを落とすことが適切になるだろう。前回の会合以降に入ってきたデータによると、最終的な金利水準はこれまでの予想より高くなる見込みだ。
    • インフレ率を低下させるには、潜在成長率を下回る成長率の持続と、労働市場の軟化が必要だ。歴史的な記録では、時期尚早な政策緩和を強く戒めており、我々は仕事が完了するまでその方針を維持する。
 
  • 主な質疑応答
    • (利上げペース減速の条件は、12月会合までに良いインフレデータが続くことか、それとも金融政策効果の時間差を考慮してデータと無関係に減速を進めるのか)インフレ率が毎月低下していくことは我々全員がみたいことだが、それは利上げペース鈍化の適切なテストではない。我々は中期的にインフレ率を目標の2%まで低下させるために、政策スタンスを十分に引締め的なスタンスにもっていく必要がある。金融環境がどの程度引締ったか、引締めが実体経済やインフレに実際にどのような影響を及ぼしているかという評価に基づいて、あらゆる分析とデータを考慮する。時間差については、例えばイールドカーブ全般にわたる実質金利やその他すべての金融情勢を検討し、その評価を行う。
    • (PCE価格指数は4%台後半から5%近い水準となっているが、インフレを抑制するために政策金利をそれ以上に引上げる必要があると考えているか)政策金利を実質金利がプラスになるような水準まで引上げたいと考えている。ただし、政策金利だけが試金石ではない。イールドカーブ全体にもある程度の重点を置くことになる。また、クレジットスプレッドは拡大しており、金融情勢はかなりタイトになっている。これらの点は重要だと考えている。
    • (金融政策効果の時間差について、どのように判断しているのか)金融政策が長く変動する時間差をもって機能するというのは長い間、一般的に考えられてきた。まず金融情勢に、次に経済活動に、そしておそらくそれよりも遅れてインフレに作用する。金融政策効果の時間差は不確実性が高い。リスク管理の観点から適切な判断を下そうと考えている。もし、過剰な引締めを行えば、経済を支えるために強力な手段を用いることを念頭に置いている。しかし、もし引締めが不十分でインフレをコントロールできなければ、インフレが定着し、とくに雇用コストははるかに高くなる可能性がある。このため、リスク管理の観点からは十分な引締めに失敗したり、あまりにも早く政策を緩めたりするような誤りは犯さないようにしたい。
    • (インフレに関連する労働市場の見方について、賃金はインフレの重要な原動力となっているのか)我々は非常に広範な労働関連指標を注視している。賃金は2%のインフレ率と整合的な水準を大幅に上回って横這いとなっている。労働市場は需要が供給を上回り過熱した状況にあるというのが大局的な見方だ。一方、賃金は足元の物価上昇の主要因ではない。また、賃金とインフレのスパイラルもみられない。我々は現状のデータから労働市場は軟化する可能性があると考えている。
    • (FOMCの結果を受けて株式や債券市場は上昇しているが、これは望んだことなのか)我々は特定の1つや2つの指標を目標にしている訳ではない。我々のメッセージは明確だ。我々には政策金利の引上げ余地がある。9月に予想した政策金利水準は、今後さらに上昇することを示唆するデータも入ってきている。利上げ停止を検討するのは時期尚早だ。強力な政策の早過ぎる撤回のような過ちを犯さないようにしたい。
    • (米経済のソフトランディングの可能性について)可能性は狭まっているが、不可能ではない。我々はこれまでずっと困難だと言ってきた。しかし、金利上昇が長く続くほど、その道筋をみるのが難しくなっている。景気後退が起こるかは誰にも分からない。足元でコアインフレの上昇が続くなど、足元のインフレの状況は困難になってきており、政策をより引締め的にする必要があるため、ソフトランディングへの道を狭めている。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年11月04日「経済・金融フラッシュ」)

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