2022年10月11日

米雇用統計(22年9月)-雇用者数の伸びは鈍化も依然として堅調な労働市場を確認する結果

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を上回ったほか、失業率は横這い予想に反して低下

10月7日、米国労働統計局(BLS)は9月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+26.3万人の増加1(前月:+31.5万人)と前月を下回った一方、市場予想の25.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)は小幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.5%(前月:3.7%、市場予想:3.7%)と前月からの横這いを見込んだ市場予想に反し、前月から▲0.2%ポイント低下した(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.3%(前月:62.4%、市場予想:62.4%)と前月から横這いを見込んだ市場予想に反し、前月から▲0.1%ポイント低下した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用者数の伸びは鈍化も、全般的に堅調な労働市場の持続を確認

9月の非農業部門雇用者数(前月比)は過去3ヵ月の月間平均増加ペースが37.2万人増と、22年前半の平均である44.4万人増、21年の平均である56.2万人増から明確に鈍化した。もっとも、新型コロナ流行前(19年3月~20年2月)の平均である19.8万人増を大幅に上回る堅調な雇用増加が続いている。

労働参加率は8月が労働力人口の大幅な増加を伴って上昇したものの、9月は労働力人口が減少する中で前月から低下しており、労働供給の回復は足踏みとなった。失業率は50年ぶりの水準に低下し、労働需給が引続き逼迫していることを確認した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.3%(前月:+0.3%、市場予想:+0.3%)と前月、市場予想に一致した。前年同月比は+5.0%(前月:+5.2%、市場予想:+5.0%)と、こちらは前月を下回った一方、市場予想に一致した(図表1)。この結果、前年同月比は22年3月の+5.6%をピークに低下基調が持続しているものの、低下ペースは非常に緩慢となっている。

このようにみると、9月は雇用増加ペースの伸び鈍化は続いているものの、低水準の失業率や緩慢な賃金上昇率の低下など堅調な労働市場が持続していることを確認する結果と言えよう。このため、9月の雇用統計の結果からは11月のFOMC会合で政策金利の引上げ幅が前回並みの0.75%に維持される可能性が高いとみられる。

3.事業所調査の詳細:娯楽・宿泊業や医療・社会扶助サービスが堅調な伸び

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+24.4万人(前月:+24.0万人)と前月から雇用の伸びが小幅に加速した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊業が前月比+8.3万人(前月:+3.1万人)、医療・社会扶助サービスが+7.5万人(前月:+6.0万人)と前月から伸びが加速するなど、堅調な雇用増加を維持した。また、専門・ビジネスサービスが+4.6万人(前月:+5.4万人)と前月から小幅鈍化も堅調な伸びを維持した。一方、運輸・倉庫が▲0.8万人(前月:+0.5万人)、金融サービスが▲0.8万人(前月:+0.7万人)、小売業が▲0.1万人(前月:+4.3万人)と小幅ながら減少に転じた。

財生産部門は前月比+4.4万人(前月:+3.5万人)と前月から伸びが加速した。製造業が+2.2万人(前月:+2.7万人)と小幅に伸びが鈍化した一方、建設業が+1.9万人(前月:+1.1万人)と伸びが加速した。

政府部門は前月比▲2.5万人(前月:+4.0万人)と前月から減少に転じた。内訳をみると、連邦政府が+0.2万人(前月:▲0.2万人)と前月から小幅な増加に転じたものの、州・地方政府が▲2.7万人(前月:+4.2万人)と減少に転じて政府部門全体を押し下げた。
前月(8月)と前々月(7月)の雇用増加数(改定値)は前月が+31.5万人(改定前:+31.5万人)と改訂が無かった一方、前々月が+53.7万人(改定前:+52.6万人)と+1.1万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+1.1万人の小幅な上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って10月5日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+20.8万人(前月改定値:+18.5万人、市場予想:20.0万人)と+13.2万人から大幅に上方修正された前月、市場予想を上回った。この結果、9月の雇用増加数はADP社が雇用統計を下回ったものの、雇用増加ペースが鈍化した雇用統計に対してADP社は雇用増加ペースが加速するなど不整合となった。
 
9月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が32.46ドル(前月:32.36ドル)となり、前月から+10セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.5時間)とこちらは前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,119.87ドル(前月:1,116.42ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働力人口の小幅な減少を伴い労働参加率は低下

家計調査のうち、9月の労働力人口は前月対比で▲5.7万人(前月:+78.6万人)と前月から小幅ながら減少に転じた。内訳を見ると、就業者数が+20.4万人(前月:+44.2万人)と前月から伸びが鈍化したほか、失業者数が▲26.1万人(前月:+34.4万人)と減少幅が就業者数の増加幅を上回った。非労働力人口は+22.9万人(前月:▲61.3万人)と増加に転じた。これらの結果、労働参加率は62.3%と前月から▲0.1%ポイント低下しており、9月は労働供給の回復が足踏み状態となったことを示した(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は9月が82.7%(前月:82.8%)と3ヵ月ぶりに低下した。男女の内訳は、男性が88.8%(前月:88.6%)と前月から+0.2%ポイント上昇した一方、女性が76.6%(前月:77.2%)と▲0.6%ポイントの大幅な低下となって全体を押し下げた。

失業率の低下は労働力人口の減少が影響しているものの、それでも50年ぶりの低水準を維持しており、労働需給は依然として非常にタイトであることを示している。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
9月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は106.7万人(前月:113.7万人)と前月から▲7.0万人の減少となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは18.5%(前月:18.8%)と前月から▲0.3%ポイント低下した(図表7)。平均失業期間は20.2週(前月:22.3週)と前月から▲2.1週短期化した。

最後に、周辺労働力人口(160.0万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(384.3万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、9月が6.7%(前月:7.0%)と前月から▲0.3%ポイント低下した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.2%ポイント(前月:+3.3%ポイント)と前月から▲0.1%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年10月11日「経済・金融フラッシュ」)

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