2022年10月28日

米GDP(22年7-9月期)-前期比年率+2.6%と3期ぶりのプラス成長、市場予想も上回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:成長率は3期ぶりのプラス成長、市場予想も上回る

10月27日、米商務省の経済分析局(BEA)は22年7-9月期のGDP統計(1次速報値)を公表した。7-9月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、季節調整済の前期比年率1で+2.6%(前期:▲0.6%)と3期ぶりにプラスに転じた(図表1・2)。また、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+2.4%も上回った。
(図表1)米国の実質GDP成長率(寄与度)/(図表2)米国のGDP(項目別)
7-9月期の成長率を需要項目別にみると、個人消費が前期比年率+1.4%(前期:+2.0%)と前期から伸びが鈍化したほか、住宅投資が▲26.4%(前期:▲17.8%)とマイナス幅が拡大した(図表2)。また、在庫投資の成長率寄与度も▲0.70%ポイント(前期:▲1.91%ポイント)と前期からマイナス幅は縮小したものの、成長率を押し下げた。

一方、政府支出が前期比年率+2.4%(前期▲1.6%)と6期ぶりにプラスに転じたほか、設備投資が+3.7%(前期:+0.1%)と前期から伸びが加速した。さらに、当期は外需の成長率寄与度が輸出の大幅な増加もあって+2.77%ポイント(前期:+1.16%ポイント)と前期からプラス幅が拡大して成長率を大幅に押し上げた。

これらの結果、GDPから在庫投資と外需を除いた国内最終需要は前期比年率+0.5%(前期:+0.2%)と前期から伸びは小幅に加速したものの、マイナス成長となった前期に続き低成長に留まったことで国内需要が軟調となっていることを示した。

このように、当期は3期ぶりのプラス成長となったものの、外需による大幅な成長押上げの影響が大きく、国内最終需要の弱さにみられるように表面の数値が示すほど米経済は堅調ではない。FRBによるこれまでの金融引締めの効果に加え、今後の更なる金融引締めの影響によって米経済の減速は継続しよう。
 
1 以降、本稿では特に断りの無い限り季節調整済の実質値を指すこととする。

2.結果の詳細:

(個人消費・個人所得)財消費からサービス消費へのシフトが継続
7-9月期の個人消費は、財消費が前期比年率▲1.2%(前期:▲2.6%)と前期からマイナス幅が縮小したものの、3期連続のマイナス成長となった一方、サービス消費は+2.8%(前期:+4.6%)と前期からは鈍化したものの堅調な伸びを維持しており、個人消費の財からサービスへのシフトが継続していることを確認した(図表3)。

財消費では、耐久財が▲0.8%(前期:▲2.8%)と2期連続、非耐久財が▲1.4%(前期:▲2.5%)と3期連続のマイナスとなった。

耐久財では、家具・家電が+3.2%(前期:▲0.6%)と前期からプラスに転じたほか、娯楽・スポーツカーが+8.0%(前期:+1.4%)と前期から伸びが加速した。一方、自動車・自動車部品が▲11.8%(前期:▲10.3%)と前期からさらにマイナス幅が拡大して耐久財消費全体を押し下げた。

非耐久財は、衣料・靴が+4.8%(前期:+4.0%)と前期から伸びが加速した一方、食料・飲料が▲3.8%(前期:▲9.9%)とマイナス幅は縮小したものの、3期連続のマイナスとなったほか、ガソリン・エネルギーが▲5.9%(前期:▲2.2%)と前期からマイナス幅が拡大した。

サービス消費は、医療サービスが+2.9%(前期:+0.4%)と前期から伸びが加速した一方、住宅・公共料金が+0.3%(前期:+0.9%)、輸送サービスが+6.3%(前期:+7.1%)、娯楽サービスが+0.9%(前期:+9.1%)、飲食・宿泊サービスが+3.3%(前期:+16.1%)、金融サービスが+1.5%(前期:+1.8%)といずれもプラスを維持したものの、前期から伸びは鈍化した。

実質可処分所得は前期比年率+1.7%(前期:▲1.5%)と6期ぶりにプラスに転じた(前掲図表4)。一方、貯蓄率は3.3%(前期:3.4%)と前期から▲0.1%ポイント低下して、07年10-12月期(3.0%)以来の水準となった。
(図表3)米国の実質個人消費支出(寄与度)/(図表4)米国の実質可処分所得伸び率と貯蓄率
(図表5)米国の実質設備投資(寄与度)と実質住宅投資 (民間投資)設備機器投資が回復
7-9月期の民間設備投資は建設投資が前期比年率▲15.3%(前期:▲12.7%)と6期連続でマイナスとなったほか、前期からマイナス幅が拡大した(図表5)。一方、設備機器投資が+10.8%(前期:▲2.0%)と前期からプラスに転じたほか、知的財産投資が+6.9%(前期:+8.9%)と前期からは鈍化したものの、堅調な伸びを維持した。

建設投資では、資源関連が前期比年率▲8.8%(前期:+3.0%)と前期からマイナスに転じた。また、電力・通信が▲12.4%(前期:▲29.7%)とマイナス幅は縮小したものの、11期連続のマイナスとなったほか、商業・医療が▲20.1%(前期:▲12.7%)、製造業が▲24.9%(前期:▲11.8%)と前期からマイナス幅が拡大した。

設備機器投資は、産業機器が▲12.7%(前期:▲6.1%)と2期連続のマイナスとなった一方、情報処理関連が+10.0%(前期:▲6.3%)とプラスに転じたほか、輸送機器が+92.1%(前期:+11.6%)と前期から伸びが大幅に加速した。

知的財産投資では、娯楽・文学等が+17.9%(前期:+24.3%)と2桁の伸びを維持したほか、ソフトウエアが+8.0%(前期:+10.2%)と前期から伸びは鈍化も堅調な伸びを維持した。一方、研究・開発が+4.4%(前期:+5.0%)と前期から伸びが鈍化した。

最後に住宅投資は、戸建てが前期比年率▲36.3%(前期:▲9.5%)と2期連続のマイナスとなったほか、前期から大幅にマイナス幅が拡大した。集合住宅は▲5.5%(前期:▲5.8%)と5期連続のマイナスとなった。
(図表6)米国の実質政府支出(寄与度) (政府支出)連邦、州・地方政府支出ともに回復
7-9月期の政府支出は、州・地方政府が前期比年率+1.7%(前期:▲0.6%)、連邦政府が+3.7%(前期:▲3.4%)といずれも前期からプラスに転じた(図表6)。

連邦政府支出では、非国防支出が+2.3%(前期:▲9.2%)と前期からプラスに転じたほか、国防関連支出が+4.7%(前期:+1.4%)と前期から伸びが加速した。
(貿易)輸出入ともに外需の成長率を押上げ
 7-9月期の輸出入は輸出が前期比年率+14.4%(前期:+13.8%)と前期からさらに伸びが加速した一方、輸入は▲6.9%(前期:+2.2%)とこちらはマイナスに転じており、当期は輸出入ともに外需の成長率寄与度を拡大する方向に働いた。

輸出を仔細にみると、サービス輸出が前期比年率+8.3%(前期:+9.9%)と堅調ながらも前期から伸びが鈍化した一方、財輸出が+17.2%(前期:+15.5%)と前期から伸びが加速して全体を押し上げた(図表7)。

財輸出では、食料・飲料が▲27.9%(前期:+30.5%)と前期から大幅なマイナスに転じたほか、自動車関連が+1.3%(前期:+11.8%)、消費財(食料、自動車関連除く)が+2.7%(前期:+21.8%)と前期から伸びが鈍化した。一方、資本財(自動車関連除く)が+12.9%(前期:+1.4%)と前期から伸びが加速したほか、工業用原料が+33.0%(前期:+23.7%)と前期からさらに伸びが加速した。とくに、工業用原料では石油・石油製品が+52.4%(前期:+22.6%)と大幅な伸びとなったことが大きい。

サービス輸出では、輸送が+3.5%(前期:+20.5%)と前期から大幅に伸びが鈍化した一方、旅行が+28.9%(前期:+142.4%)と前期から鈍化したものの、大幅な伸びを維持した。

一方、輸入はサービス輸入が+2.3%(前期:+16.6%)と前期から伸びが鈍化したほか、財輸入が▲8.7%(前期:▲0.4%)と前期からマイナス幅が拡大して全体を押し下げた(図表8)。

財輸入では、工業用原料が+0.3%(前期:▲5.1%)、資本財(自動車関連除く)が7.4%(前期:▲1.4%)と前期からプラスに転じたほか、自動車関連が+12.5%(前期:+15.5%)と前期から小幅鈍化も高い伸びを維持した。一方、食料・飲料が▲10.6%(前期:+20.0%)、消費財(食料、自動車関連除く)が▲34.5%(前期:▲1.3)と2桁のマイナスとなり、財輸入を押し下げた。

サービス輸入は、輸送が▲24.4%(前期:+21.9%)と前期からマイナスに転じたほか、旅行も+47.7%(前期:+238.1%)とこちらも前期の3桁の伸びからは鈍化した。
(図表7)米国の実質輸出(寄与度)/(図表8)米国の実質輸入(寄与度)
(物価・名目値)PCE価格数の総合、コアともに前期比、前年同期比ともに前期から低下
7-9月期のGDP価格指数は前期比年率+4.1%(前期:+9.0%)と前期から大幅に低下したほか、市場予想(同+5.3%)も下回った。この結果、名目GDP成長率は前期比年率+6.7%(前期:+8.5%)と前期から低下した(図表9)。

一方、FRBが物価の指標として注目するPCE価格指数2は、前期比年率+4.2%、前年同期比+6.3%(前期:+7.3%、+6.6%)と前期比、前年同期比ともに前期から低下した(図表10)。また、物価の基調を示す食料品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数は、前期比年率+4.5%、前年同期比+4.9%(前期:+4.7%、+5.0%)となり、こちらも総合指数同様、前期比、前年同期比ともに前期からは低下し、依然として高水準ではあるものの、当期は物価上昇圧力が幾分和らいだことを示した。
(図表9)米国の名目と実質の成長率/(図表10)米国のPCE価格指数伸び率
 
2 現在、FOMCのメンバーは四半期に一度物価見通しを公表しており、そこで物価の指標として採用されている指数がPCE価格指数とコアPCE価格指数である。見通しは年単位で、各年の10-12月期における前年同期比が公表されている。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年10月28日「経済・金融フラッシュ」)

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