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- 英国金融政策(11月MPC)-過度な金利上昇観測を牽制しつつ、利上げ幅を0.75%ポイントに拡大
1.結果の概要:8会合連続での利上げを決定
【金融政策決定内容】
・政策金利を3.00%に引き上げ(0.75%の利上げ、7対2で1人は2.50%への引き上げ、1人は2.75%への引き上げを支持)
【議事要旨等(趣旨)】
・GDP成長率見通しは、22年4.25%、23年▲1.5%、24年▲1%、25年0.5%(主に先行きを下方修正)
・CPI上昇率は、22年10.75%、23年5.25%、24年1.5%、25年0%(10-12月期の前年比、エネルギー価格保証策などを反映して全体的に下方修正)
・インフレ率を目標に持続的に戻すために政策金利のさらなる引き上げが要求されるが、金融市場予測よりもピークは低いだろう
2.金融政策の評価:利上げ幅は0.75%ポイントに拡大したが、過度な金利上昇観測は牽制
今回はMPCに合わせて金融政策報告書(MPR)も公表され、最新の成長率やインフレ率の見通しが提示された。成長率は特に24年が下方修正され暦年ベースで2年連続のマイナス成長、インフレ率は政府が公表したエネルギー価格保証を受けて、やや下方修正さている。
一方、声明文ではMPRにおける政策金利経路の前提している市場予測(23年7-9月期に5.25%前後のピーク)に関して、このピーク水準までの利上げは現時点で必要ではないと判断していることが明記された。インフレ率の上振れリスクは大きいという留保付きではあるが、市場が過度に利上げを織り込みすぎないようけん制したものと見られる。また、財政政策については10月17日時点で公表された政策(トラス前政権において「成長計画」として打ち出された大規模な減税策などについて、大部分が撤回された後の情報)を反映しており、11月17日に秋季財政報告として公表予定の政策は考慮されていないとしている。そのため、スナク新政権のマクロ経済運営が見通しとして正式に反映されるのは、12月のMPRということになる。
見通しの前提には注意する必要があるものの、来年にかけて成長率の下押し圧力が強まるなかで、(現時点では政府の政策支援を考慮しても)インフレ率の減速が急速には進まないとのイングランド銀行が評価していることが再確認されたと言え、景気減速下での利上げ継続という方針が改めて示された会合だったと言える。
3.金融政策の方針
- MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
- 委員会は政策金利(バンクレート)を0.75%ポイント引き上げ、3.00%とする(7対2で決定1)、1名は0.50%ポイント引き上げ2.75%にすることを主張し、1名は0.25%ポイント引き上げ2.50%にすることを主張した
- 11月の金融政策報告書で公表されている通り、MPCは英国経済について、経済活動とインフレの見通しをかなり厳しい見通しに改定している
- 前回のMPCの見通し以降、財政政策に関して重要な動きがあった
- 政府のさらなる介入によって英国の小売りエネルギー価格の見通しを取り巻く不確実性はやや和らいだ
- 11月の見通しでは、10月17日の政府発表にもとづき、政府のエネルギー価格保証(EPG:Energy Price Guarantee)が6か月間実施され、その後の2年間の家計のエネルギー価格は形式的な経路を辿ることを前提にしている(EPGの上限である2500ポンドと、ガス電力市場監督局(Ofgem)の定める上限価格である先物価格水準の和半としている2)
- このような支援は機械的にCPIインフレ率のエネルギー部分を大きく抑制し、変動幅を削減させる
- しかしながら、8月の見通しと比較して民間需要が喚起されるために、エネルギー以外の財やサービスのインフレ圧力を助長し得る
- 10月17日までに公表されたその他の財政支援策(国民保険料の引き上げ撤回、医療・介護負担金(Health & Social Care Levy)の導入撤回、印紙税課税基準の引き上げ、年間投資控除水準の維持3)も8月見通しと比較して需要の下支えとなる
- 11月17日の秋季財政報告(the Autumn Statement)で公表される予定の財政支援に関してはMPCの見通しでは織り込まれていない
- 8月の報告書以降、英国の資産価格は大きく変動した
- 一部分は世界的な動向を反映したものだが、この期間は英国固有の要因が重要な影響を及ぼした
- MPCの政策金利見通しは10月25日までの7営業日における市場の金利予測に基づいている(通常は15営業日4)
- この経路は23年7-9月期に5.25%前後のピークに達し、その後下落している
- 総じて、8月時点の見通しと比較して先々3年間の経路が2.25%ポイント程度高くなっている
- 高い市場イールドカーブが住宅ローン金利を急激に押し上げている
- 金融環境は著しく引き締まっており、見通し期間にわたる経済活動の下押しとなる
- GDPは、世界的なエネルギーや貿易財価格の上昇を受けた実質所得の減少を部分的に反映して、22年下半期で0.75%程度まで下落すると見られる
- ただし、年末ごろの経済活動の下落は、EPGの支援を反映して、8月に予想されていたよりも軽微であると見られる
- 労働市場は、労働需要が緩和する兆しが見られるものの、引き続きひっ迫している
- CPIインフレ率は9月に10.1%に達し、22年10-12月期には11%付近まで上昇すると見られるが、これはEPGの影響を反映して8月見通しで予想されていたよりも低い
- サービス物価は上昇している
- 民間部門の名目定期賃金上昇率は6-8月期で前年比6.2%に上昇しており、8月報告書時点での見通しより0.6%ポイント高い
- 市場の政策金利予測を前提にした11月報告書の中央見通しでは、エネルギー価格の高騰と金融環境の引き締まりが支出の重しになるため、GDPは23年および24年の上半期まで下落が続くと見られる
- GDP成長率の前年比は、見通し期間終盤には0.75%付近まで上昇する
- 現在は、大きな超過需要が発生していると見られるが、支出の減速によって来年前半からは経済の余剰(slack)が増加し始め、失業率も上昇するだろう
- 労働力調査ベースの失業率は見通し期間の終わりには6.5%まで上昇し、経済の潜在GDPに対する余剰(slack)は3%まで増加するだろう
- MPCの中央見通しでは、エネルギー価格の前年比での低下を受けて、インフレ率が来年初から低下し始めるとしている
- 国内のインフレ圧力は、今後数四半期は依然として強いがその後は解消される
- CPIインフレ率の見通しは今後2年間で2%目標を下回るほど急激に下落し、3年後にはさらに目標を下回って低下するだろう
- 政策金利が3%から変化しないという前提では、GDPは依然として23年末に減少すると見られるものの、市場金利を前提とした見通しよりも経済活動は強い
- CPIインフレ率は2年目の終わりでは目標をやや上回るが、3年目の終わりでは目標を1%ポイント以上下回る
- 双方の見通しにおけるインフレ率を取り巻くリスクは、いずれも中期的には上方に傾いていると判断されており、一部は賃金と物価がより持続的になる可能性が反映されたものである
- MPCの責務が、英国の金融政策枠組みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成であることは明らかである
- この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
- 経済はかなり大きなショックの中にある
- 金融政策により、これらのショックによる調整が続いてもCPIインフレ率が中期的に2%目標に安定して戻るようにする
- 金融政策はまた、長期のインフレ期待が2%目標で固定されるよう実施される
- 労働市場は引き続きひっ迫し、国内の物価と賃金がより強く持続性する可能性があり、強固なインフレ率が続くことが示唆されている
- 現在公表されている財政政策は、MPCの前提になっているものも含め、8月の見通しと比較して需要を支援するものである
- 委員会は政府の秋季財政報告における追加上昇を12月の会合と、次回2月の見通しで考慮する予定である
- この観点から委員会は、今回の会合で政策金利を0.75%ポイント引き上げ、3.00%とすることを決定した
- 委員会の大部分は、経済活動が広く金融政策報告書の見通しに沿ったものであれば、インフレ率を目標に持続的に戻すためには、金融市場予測よりもピークは低いものの政策金利のさらなる引き上げが要求されるだろう(may be)と判断した
- しかしながら、見通しには大きな不確実性がある
- 委員会は引き続き、仮にインフレ圧力がより持続的であるのであれば、必要に応じて力強い対応を行うつもりであると判断している
- MPCは、その責務にもとづき、インフレ率を中期的な2%目標に安定的に戻すために必要な行動を実施するつもりである
- 委員会は、常に、各会合で政策金利の妥当な水準を検討し、決定する
- (政策金利経路は事前に設定されてはないとの表現は削除)
- (政策金利のさらなる変更の幅(scale)、ペース(pace)、時期(timing)は委員会の経済見通しとインフレ圧力の評価を反映するとの表現は削除)
1 今回反対票を投じたのは、ディングラ委員(0.50%ポイントの引き上げを主張)、テンレイロ委員(0.25%ポイントの引き上げを主張)。前回は0.50%ポイントの利上げが決定され、ディングラ委員(0.25%ポイントの引き上げを主張)および、ハスケル委員、マン委員、ラムズデン委員(それぞれ0.75%ポイントの引き上げを主張)が反対票を投じていた。
2 報告書の記載に基づく。
3 報告書の記載に基づく。
4 報告書の記載に基づく。
4.議事要旨の概要
5 適宜、報告書の内容も記載。
- GDP成長率見通しは、2022年4.25%、23年▲1.5%、24年▲1%、25年0.5%
(8月時点では22年3.5%、23年▲1.5%、24年▲0.25%)- CPI上昇率は、2022年10.75%、23年5.25%、24年1.5%、25年0%(10-12月期の前年比)
(8月時点では、22年13%、23年5.5%、24年1.5%) - 失業率は、2022年3.75%、23年5%、24年5.75%、25年6.5%(10-12月期)
(8月時点では、22年3.75%、23年4.75%、24年5.75%)
- CPI上昇率は、2022年10.75%、23年5.25%、24年1.5%、25年0%(10-12月期の前年比)
- 見通しの前提として、卸売りガス価格について、以前の6か月間は先物価格に基づきそれ以降は横ばいとする前提ではなく、見通し期間にわたって先物価格に基づくと想定している
(通貨・金融情勢)
- MPCの会合直前における政策金利の市場予測は23年後半に4.75%となっており、9月会合時のピークと概ね一致していた
- 10月19日から21日に実施された市場参加者調査(MaPS: Market Participants Survey)における政策金利見通しは市場予測よりも引き続き低いが、前回9月調査と比較すると相対的に高まった
- 現在の政策金利見通し中央値は23年5月に4.5%であり、前回調査のピークである3.5%よりも1%ポイント高い
- 回答者は、その後、市場予測よりもやや急速に政策金利が低下し、3年後には中央値で3%まで低下すると予想した
- 英国では、中期のブレークイーブンインフレ率(inflation compensation)が、前回の会合以降に非常に大きく変動し、急激に下落した
- しかしながら、これらの動きは長期および物価連動(index-linked)の英国債価格の変動が大きく、これによるLDIファンドに生じた影響のために歪められていた
- MaPSの回答者は市場参加者間にインフレ期待の代替となる数値を提示していた
- CPIインフレ期待に関する回答者の中央値は3年および5年の期間においてそれぞれ上昇し、3%と2.5%だった
(需要と生産)
- 銀行スタッフはGDPについて、22年10-12月期に0.5%縮小すると予想しており、8月報告書の見通しよりも0.9%ポイント低い
- 9月時点で女王の国葬による銀行休業の追加は予想されていたものの、主に基調的な生産の弱さが反映された
- この弱さは、高いエネルギーや貿易財価格を受けた家計の実質所得や支出の減少を部分的に反映している
(供給、費用、価格)
- 最新のKPMG/REC英国雇用調査では、従業員の需要は増加しているが、そのペースは鈍化している
- 中銀エージェントの調査では、採用停止や自然体での人員削減を計画している先が増加しているが、多くの企業は採用難が続いているため、解雇(redundancies)は消極的であると報告されている
(当面の政策決定)
- ある委員は0.5%ポイントの引き上げを希望した
- 金融政策の影響に関するラグを考慮すると、過去の利上げによる大きな影響が依然として生じることを意味する
- より小幅な利上げが深く長い景気後退(recession)を生み出すことを防ぐために必要とされる
- ある委員は0.25%ポイントの引き上げを希望した
- 重要な点は過去1年の金融引き締めの大部分が実体経済にまだ波及していないことである
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年11月04日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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