2022年11月02日

世界各国の市場動向・金融政策(2022年10月)-10月の株価は反発、為替は横ばい

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.概要:10月の株価は反発、為替は横ばい

22年10月の各国1の株価・為替の動きは以下の通り。
 

【株価・対ドル為替レートの動き】
・10月は米国の金融引き締めペース鈍化の観測が強まるなか、中国などの一部を除き株価が上昇する国が多かった(図表1)。一方、通貨は横ばい圏での推移となった。

(図表2)世界株価の動向/(図表3)対ドル為替レートの動向
 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する47か国・地域について確認する。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。本文中の先進市場と新興市場の区分についてはMSCIの分類に基づく。

2.ロシアの金融市場と商品価格

まず、ロシアのウクライナ侵攻後に大きく変動したロシアの金融市場や商品価格について概観しておきたい2
(図表4)ロシアの株価指数と為替レート/(図表5)ロシアの長期金利
ルーブル相場は、8月以降1ドル60ルーブル前後での安定した推移が続いており、10月も横ばい圏での推移が継続している。株価指数は9月下旬からロシア・ウクライナ戦争に関連して、脱走や徴兵忌避などの違反に対する罰則を強化する法案の承認や部分的な動員が開始されたことを受けて下落していたが、10月はやや反発した。なお、動員については10月28日に終了したと報じられている(図表4)。長期金利も9月下旬には一時10%を超える上昇を見せたが、10月に入り9%台で安定した推移を見せている(図表5)。
(図表6)金属先物価格(ロンドン)/(図表7)農作物先物価格(シカゴ市場)
次にロシアが主要な供給源となっている商品の動向を追うと、金属(アルミ、ニッケル)価格は横ばい圏で安定的に推移している(図表6)。農作物価格はロシア・ウクライナ戦争の緊迫化で小麦価格が10月半ばまで上昇傾向を辿っている。その後は一時下落的にしたものの、10月29日にロシアが黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意について一方的に参加停止を発表したことを受け、月末に再び急上昇している3(図表7)。
(図表8)エネルギー価格の推移 10月のエネルギー価格(石炭、原油、天然ガス)は、欧州の天然ガスが9月に続いて大きく下落したほか、これまで上昇傾向を辿ってきた石炭も緩やかに低下している(図表8)。

天然ガス価格の急下落は欧州のガス在庫蓄積の進展がさらに進み、また温暖な気候によって消費も抑えられたために貯蔵余力が少なくなってきたことが背景にあると見られる4
 
2 ロシアのウクライナ侵攻と経済・金融制裁を受けて、3月にロシアはMSCI ACWIから除外されているが、世界の金融市場に大きな影響を及ぼしたその後の状況を確認するため、本節で概観する。
3 例えば、日本経済新聞「ロシア、食糧危機演出で揺さぶりか 穀物合意を停止」2022年10月30日(22年11月2日アクセス)。国連、トルコ、ウクライナはロシア抜きでの管理を模索したが、ロシアが反発しており先行きの不透明感は高まっている。例えば、日本経済新聞「穀物回廊のロシア参加停止、貨物船200隻超に影響も」2022年11月1日(22年11月2日アクセス)、日本経済新聞「黒海穀物回廊、2日は航行見合わせ ロシア反発で」2022年11月2日(22年11月2日アクセス)。
4 例えば、ウォールストリートジャーナル(日本語版)「ガス不足懸念の欧州、暖冬の影響で供給過剰へ?」2022年10月28日(22年11月2日アクセス)。ただし受渡日の近い先物の価格下落幅が大きいことに対して、受渡日が将来の先物の価格下落は相対的に限定的となっている。

3.株価(MSCI)・為替レートの動き

(図表9)MSCI ACWI構成銘柄の国別騰落数 MSCI ACWIの月間騰落率は、全体では前月比6.0%、先進国が前月比7.1%、新興国が前月比▲3.2%となり、先進国株式は上昇したが新興国株式は下落が続いた(前掲図表2)。

国別の株価の動きを見ると、10月は対象国の47か国中、ほとんどの国が上昇しており、下落した国は中国など6か国のみだった。上述の新興国株式の下落は中国株が主導した結果と言える(図表10)。
(図表10)各国の株価変動率
株価については、米国における利上げペースが鈍化するとの思惑が浮上したことが株の買い材料になった。なお、英国では9月23日にトラス政権が大規模な財政緩和策を発表したことで金利上昇と株・為替の下落に見舞われていたが、減税策の大半を撤回し、トラス氏も辞任したことで相場の混乱は収まっている。

一方、中国や香港では、中国新指導部の習近平総書記への権限集中によって規制強化懸念が強まったことが株式の売り圧力につながったと見られる。

通貨の騰落率を見ると、ドルの27カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が前月比0.0%、60カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比▲0.6%となりほぼ横ばい圏での推移となった5(前掲図表3)。
(図表11)MSCI ACWI構成通貨の通貨別騰落数 MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、36通貨中対ドルで上昇(ドル安)したのは21通貨、下落(ドル高)したのは15通貨となった(図表11)。米国における利上げペース鈍化という見方を受け、10月は特に先進国通貨を中心に自国通貨高になる国が多かった(図表12)。ただし、日本では断続的に円買い・ドル売り介入を実施したものの、前月比では円安・ドル高となっている。また、エジプトは27日に柔軟な変動為替相場制に移行することを公表した後、通貨が大幅に切り下がった6
(図表12)各国の対ドル為替レート変動率
 
5 ただし、名目実効為替レートは10月25日時点の前月末比で算出。
6 同日にIMFからの金融支援(30億ドル)に関する実務者間の合意に達したと報じられている。例えば、エジプトとIMF、30億ドル支援で実務者合意」2022年10月27日(22年11月2日アクセス)

4.金融政策:徐々に利上げサイクルが終了に

最後に、主要地域の金融政策を見ていく(図表13)。
(図表13)主要地域の金融政策
10月はG7では、カナダ、ユーロ圏、日本で金融政策を決定する会合が開かれた。

このうち、カナダ銀行は6会合連続の利上げ、ECBは3会合連続の利上げを決めている。ECBは市場予想と同じ0.75%ポイントの利上げだったが、カナダ中銀は市場予想より小幅な0.50%ポイントの利上げだったため、中銀の利上げペース鈍化の見方を強めたものと言える。

G7以外の国でも多くの国で利上げを決定しているが、利上げサイクルの終了が視野に入っている国もある。オーストラリア、韓国、インドネシアで利上げが継続される一方、ブラジルは9月に引き続き10月も政策金利の据え置きを決定した。また、アルゼンチンも政策金利を据え置いた(アルゼンチンは9月まで9か月連続で利上げを実施している)。ハンガリーは14日に政策金利コリドーの上限金利である貸出金利について9.5%ポイントの大幅引き上げを決定した後7、25日の会合では政策金利を据え置いている。

ロシアはウクライナ侵攻後の経済・金融制裁とインフレ圧力の高まりに対抗するために20%まで政策金利を引き上げてきたが、9月にかけて段階的に7.5%まで引き下げた後、10月は政策金利を据え置いた。

一方、トルコはエルドアン大統領の意向を受けた低金利政策が続いており、3会合連続での利下げを決定している。
 
7 通貨売り防衛との見方がある。例えばFinancial Times, Hungary’s overnight interest rates jump in attack against forint short sellers, October 14 2022(22年11月2日アクセス)
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年11月02日「経済・金融フラッシュ」)

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