2023年02月01日

世界各国の市場動向・金融政策(2023年1月)-中国のウィズコロナ急転換が株高を後押し

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.概要:株高・ドル安が進む

23年1月の各国1の株価・為替の動きは以下の通り。
 

【株価・対ドル為替レートの動き】
・1月は、米国金融政策が注目されるなかで景気後退回避や早期のインフレ鎮静化を予想する楽観論が優勢で、中国がウィズコロナに急転換したこともあり、株高・ドル安が進んだ(図表1)。
(図表1)株・為替の上昇率(22年12月末~23年1月末日時点)

(図表2)世界株価の動向/(図表3)対ドル為替レートの動向
 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する47か国・地域について確認する。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。本文中の先進市場と新興市場の区分についてはMSCIの分類に基づく。

2.ロシアの金融市場と商品価格

まず、ロシアのウクライナ侵攻後に大きく変動したロシアの金融市場や商品価格について概観しておきたい2

ロシアの金融市場について(図表4)、1月は、株は横ばい圏で推移した。為替は、12月5日にEUのロシア産原油の禁輸(一部パイプライン輸入を除く)と、G7・豪州による上限価格の設定がされた際にやや低下し、それ以降1月まで1ドル70前後で推移している。

金利は、22年の年央以降の緩やかな上昇圧力が依然として続いており、11%に迫る水準までじわじわと上昇している(図表5)。
(図表4)ロシアの株価指数と為替レート/(図表5)ロシアの長期金利
(図表6)金属先物価格(ロンドン)/(図表7)農作物先物価格(シカゴ市場)
(図表8)エネルギー価格の推移 次にロシアが主要な供給源となっている商品の動向を追うと、金属(アルミ、ニッケル)価格のうちアルミが1月にやや上昇した(図表6)。生産国の中国で、電力不足により工場稼働率が低下するとの見方から需給のひっ迫感が強まった(図表6)。一方、農作物価格は横ばい圏で推移している(図表7)。

エネルギー価格(石炭、原油、天然ガス)は、欧州の天然ガス価格が引き続き下落、石炭も低下傾向が鮮明になっている(図表8)。欧州が暖冬でガス消費が抑制されたことでガス価格が下落、それにつられる形で石炭価格の低下にも波及した形となっている。
 
2 ロシアのウクライナ侵攻と経済・金融制裁を受けて、22年3月にロシアはMSCI ACWIから除外されているが、世界の金融市場に大きな影響を及ぼしたその後の状況を確認するため、本節で概観する。

3.株価(MSCI)・為替レートの動き

(図表9)MSCI ACWI構成銘柄の国別騰落数 MSCI ACWIの月間騰落率は、全体では前月比7.1%、先進国が前月比7.0%、新興国が前月比7.9%となり、いずれの地域も上昇した(前掲図表2)。

国別の株価の動きを見ると、1月は対象国の47か国中、36か国が上昇している(図表9)。
(図表10)各国の株価変動率
米FRBによる金融政策に関して、景気後退回避しつつ早期のインフレ鎮静化、FRBの金融緩和への転換を予想する楽観論と、FRBの引き締め姿勢継続を予想する慎重論が交錯しているが、1月は楽観論が優勢となり、株高材料にもなっている。

また、中国がゼロコロナ政策からの急転換を進めており、世界経済の需要を下支えするとの期待が高まっており、中国株や欧州株を中心に上昇要因となった。
(図表11)MSCI ACWI構成通貨の通貨別騰落数 通貨の騰落率を見ると、ドルの27カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が前月比2.3%、60カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比1.7%となりややドル安が進行した3(前掲図表3)。
(図表12)各国の対ドル為替レート変動率
MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、景気やインフレに対する楽観論の台頭が幅広くドル要因となっており、1月は36通貨中対ドルで上昇(ドル安)したのは28通貨、下落(ドル高)したのは8通貨となった(図表11・12)。

一方で、外貨不足のなかで、IMFに金融支援要請し、昨年10月に柔軟な変動為替相場制に移行することを公表したエジプトでは、年初以降に通貨下落圧力が高まり、大きく下落した。
 
3 名目実効為替レートは1月30日時点の前月末比で算出。

4.金融政策:日本は緩和姿勢を強調

最後に、主要地域の金融政策を見ていく(図表13)。
(図表13)主要地域の金融政策
1月はG7では、日本とカナダで金融政策を決定する会合が開かれた。

カナダは利上げ幅を縮小しつつ8会合連続の利上げを決定した。一方、日本は長短金利の目標水準や許容幅は現状を維持する一方で、資金供給オペを拡充し、金利低下を促す姿勢を見せた。日本は12月に長期金利の変動許容幅の上限を拡大し、「事実上の利上げ」を実施していたことから、今回の決定に注目が集まったが、緩和姿勢を強調する結果となった。

G7以外の国では、韓国、インドネシア、南アフリカで利上げが決定された。一方、ポーランドやハンガリーはそれぞれ4会合連続で政策金利を据え置いており、様子見姿勢を続けている。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年02月01日「経済・金融フラッシュ」)

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