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ウクライナ侵攻開始から1年-加速し複雑化する供給網再編を巡る動き-
                                                経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり
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- ウクライナへの軍事侵攻からの1年で、世界的な低インフレ、低金利局面は唐突に終わり、世界経済は減速、グローバルな供給網の再編圧力は強まっている。
 - 西側とロシアの制裁・対抗措置ばかりでなく、経済安全保障強化、環境・人権など持続可能な経済成長のための規制強化も分断の圧力となる。
 - グローバルな供給網が、西側の民主主義国家対中ロの権威主義国家に単純に二分化されるとは思えない。数の上では、どちらか一方のブロックに属する国の方がむしろ少数である。中ロは、西側への不満では共通するが、一枚岩ではない。
 - 西側のパートナーシップも安全保障分野と経済分野では性格が異なる。米欧の同盟は安全保障分野ではNATOという強固な制度的な枠組みがある。経済は企業の活動を通じて深く結びついているが、FTAは締結されておらず、当面締結の見込みはない。
 - 米国とEUが21年に立ち上げた政策対話・規制協力の枠組み「貿易技術評議会(TTC)」は、規制や規格協力、半導体供給網強靭化などで具体的取り組みも進展している。
 - 航空機補助金など米欧間の懸案には取り組みが進展したものもある一方、米国のインフレ抑制法(IRA)の大規模な税額控除や補助金の地理的要件という新たな火種もある。
 - EUの欧州委員会はネットゼロ技術と持続可能な製品のEU域内の製造能力の拡大を支援する「グリーンディール産業計画」を打ち出した。計画は、(1)規制環境の改善、(2)金融アクセスの迅速化、(3)労働者のスキルの強化、(4)公正な貿易の促進の4本の柱からなり、(2)の一環として規制緩和や新たな基金の提案などで、補助金をより積極的に活用する方針を示した。
 - 「グリーンディール産業計画」は、IRAではなく、中国の不公正な補助金と長期にわたる市場の歪曲への対抗措置と位置付けられた。
 - 規制や補助金によるグローバル経済の断片化は、効率性の低下、コスト高につながる。ごく限定した範囲に留めることが理想であり、当局者間では思いは共有されている。しかし、中国への対抗や国内・域内の政治的な事情を抱え、産業政策は、国内回帰「リショアリング」や隣接する地域での供給網構築「ニアショアリング」に傾きやすい。
 - 補助金を活用した産業政策が期待通りの実行され、成果を上げるかも不確かだ。
 - 供給網再編と戦略産業の投資誘致を巡る競争は、民主主義対権威主義という単純な図式には収まらない複雑な様相を呈している。
 
(2023年02月28日「Weekly エコノミスト・レター」)
                                        03-3512-1832
- ・ 1987年 日本興業銀行入行 
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2015~2024年度 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017~2024年度 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022~2024年度 Discuss Japan編集委員
・ 2022年5月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
・ 2024年10月~ 雑誌『外交』編集委員
・ 2025年5月~ 経団連総合政策研究所特任研究主幹 
伊藤 さゆりのレポート
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