2023年05月08日

ECB政策理事会-利上げ幅は縮小したがタカ派的内容が目立つ

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:7会合連続の利上げを決定

5月4日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
0.25%ポイントの利上げを決定(5/10から、主要3金利すべて引き上げ)
APPの償還再投資について、7月以降は実施しない予定であることを決定

【記者会見での発言(趣旨)】
標準的な利上げ幅(0.25%ポイント)に戻ることが合理的であるが、カバーすべき領域(さらなる利上げの必要性)はまだある
0.50%ポイントが適切としたメンバーもいたが、ゼロ%が適切だとした意見はなかった
金融政策は金融面に波及しているが、実体面への波及は確信が持てない(十分に見られない)
APPの償還再投資が停止されれば、残高は平均的には月250億ユーロずつ縮小される
APPの削減による金融引き締め効果はそれほど大きくない

2.金融政策の評価:利上げ幅は縮小したが、今後の利上げ継続を示唆

ECBは今回の会合で、0.25%ポイント利上げを決定した。利上げ幅は前回3月の0.50%ポイントから縮小した。これで22年7月以降、政策金利を合計3.75%ポイント上昇させたことになる。

今回の利上げの決定は、前回の声明文で提示した反応関数((1)最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、(2)基調的なインフレ動向、(3)金融政策の伝達状況)をもとに、最新データに依存して判断した形となった。

質疑応答では、データを吟味した結果、利上げ幅を標準の0.25%ポイントにするものの、今後もさらなる利上げが必要であるとの判断がなされたとの発言があった。また、今回の決定においても0.50%ポイントの利上げ幅が適切としたメンバーはいたものの、据え置き(ゼロ%)を主張したメンバーはいなかったとした。加えて、6月の会合を待たずに、7月にAPP償還再投資停止を予定することを決定しており、利上げ幅こそ0.25%ポイントに縮小されたが、総じてタカ派的な姿勢が目立った。

実際、前回会合時に懸念が高まった金融市場の緊張については、現時点ではユーロ圏の成長率やインフレ率を大きく下押ししていないと見られる。特に、インフレ見通しについては、おおむね3月時点のベースライン見通し(シリコンバレー銀行の破綻前に作成された見通し)から不変であるとの認識を示している。また、貸出動向調査の結果を受け、利上げが金融面に波及すると評価する一方で、実体経済面への波及はまだ確信が持てず、賃金上昇の強さや企業の利益確保など、インフレの上振れリスクへの警戒感をにじませている。金融市場の混乱を経ても、ECBがインフレ鎮静化に軸足を置いていることを再認識させる内容だったと言える。

3.声明の概要(金融政策の方針)

5月4日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
 
  • インフレ見通しは引き続き高すぎる状況が長期間続くとみられる
    • 継続する高インフレ圧力に照らして、理事会は本日、3つの主要な政策金利を0.25%ポイント引き上げることを決定した
    • 総じて、新たな入手情報は、前回の会合で共有された理事会の中期的なインフレ見通しの評価を広く支持するものとなった
    • ヘッドラインインフレ率はここ数か月で下落したが、基礎的なインフレ圧力は引き続き強い
    • 同時に、過去の利上げがユーロ圏の金融環境に強力に伝達されているものの、実体経済への伝達のラグと強さは引き続き不透明である
 
  • 理事会の将来の決定に関して、中期的に2%というインフレ目標への回帰を速やかに達成するため、十分に制限的な水準に政策金利を設定し、必要な期間その水準で維持するつもりである
    • 理事会は、制限的な水準と期間に関して適切に決定するため、引き続きデータ依存のアプローチを続ける
    • 特に、理事会の政策金利の決定は、引き続き、最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、基調的なインフレの動向、金融政策の伝達状況によって決定する
 
  • ECBの政策金利は、引き続き、金融政策姿勢に関する理事会の主要な道具である
    • 並行して、理事会はユーロシステムの資産購入策(APP)ポートフォリオの、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)での削減を続ける
    • これらの原則に則して、理事会は、23年7月にAPPの償還再投資を停止するつもりである
 
(政策金利、フォワードガイダンス)
  • 理事会は3つの政策金利を0.25%ポイント引き上げることを決定した(利上げの決定)
    • 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:3.75%
    • 限界貸出ファシリティ金利:4.00%
    • 預金ファシリティ金利:3.25%
    • 5月10日から適用
 
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
  • APPの元本償還分の再投資(7月以降の再投資停止予定を明記
    • APP残高は償還額を全額は再投資せず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
    • この削減は23年6月末まで平均月額150億ユーロのペースとなる
    • 理事会は7月にAPPの償還再投資を停止する予定である
 
  • PEPP元本償還分の再投資実施(変更なし)
    • PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2024年末まで実施(変更なし)
    • 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する(変更なし)
 
  • PEPP償還再投資の柔軟性について(変更なし)
    • 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
 
(資金供給オペ)
  • 流動性供給策の監視(変更なし)
    • 銀行が貸出条件付長期資金供給オペ下での借入額の返済を行うなか、理事会は条件付貸出オペが金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する
 
(その他)
  • 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
    • インフレが2%の中期目標に戻り、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
    • ECBには必要があればユーロ圏の金融システムに流動性を供給する十分な手段がある
    • 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう

4.記者会見の概要

政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
 
(冒頭説明)
  • (声明文冒頭に記載の利上げとスタッフ見通しへの言及)
 
  • 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい

(経済活動)
  • ユーロ圏経済は、ユーロスタットの速報値で23年1-3月期に0.1%増加した
    • エネルギー価格の低下と、供給制約の緩和、企業・家計への財政支援策が経済の強靭性に貢献した
    • 同時に、民間の国内需要、特に消費は引き続き弱かったと見られる
 
  • 企業と家計の信頼感はここ数か月、着実に回復しているが、ロシアのウクライナとその国民に対する不当な戦争の開始間よりは依然として低い
    • 経済の部門ごとの格差が見られる
    • 製造部門は受注残を消化しているが、見通しは悪化している
    • サービス部門は、特に経済再開により、より強く成長している
 
  • 家計所得は堅調な労働市場から恩恵を受けており、失業率は3月に6.5%と低下し、過去最低水準を更新した
    • 雇用は引き続き伸びており、総労働時間はコロナ禍前水準を超えた
    • 同時に平均労働時間はコロナ禍前水準をやや下回っており、22年半ばから失速している
 
  • エネルギー危機の解消に伴い、政府は強調して関連する支援策を迅速に終了させ、中期的なインフレ圧力を強め、さらに強力な金融政策での対応する事態を避けるべきである
    • 財政支援策は、我々の経済をより生産的にし、高い公的債務を段階的に削減させる方向に向かうべきである
    • ユーロ圏の、特にエネルギー部門での、生産余力を強化させる政策は、中期的な物価上昇圧力の削減に寄与するだろう
    • この点に関連して、我々は、欧州委員会のEUの経済統治枠組み(economic governance framework)の改革法案を歓迎しており、迅速に完了させるべきである
 
(インフレ)
  • ユーロスタットの速報値によると、インフレ率は2月の8.5%から3月に6.9%まで低下した後、4月には7.0%となった
    • ベース効果により、エネルギーインフレ率が3月の▲0.9%から4月に2.5%と、やや上昇したが、ロシアのウクライナへの戦争開始後の記録を大きく下回っている
    • しかしながら、食料インフレは引き続き強く、3月に15.5%、4月に13.6%に達している
 
  • インフレ圧力は引き続き強い
    • エネルギーと食料品を除くインフレ率は4月に5.6%となり、3月から若干低下して、2月の水準まで戻った
    • 非エネルギー財のインフレ率は3月の6.6%から4月は6.2%となり、ここ数か月で初の低下となった
    • インフレ率は過去のエネルギー費用の上昇と供給制約が、段階的に転嫁されていることで依然として上昇している
    • 特にサービスでは、ペントアップ需要と賃金上昇も押し上げている
    • 3月までの利用可能な情報によれば、インフレ基調は引き続き高い
 
  • 労働市場の堅調さと、労働市場の堅調さと雇用者が高インフレによる購買力低下の埋め合わせを求めていることから、賃金上昇圧力はさらに強まっている
    • さらに、供給と需要のミスマッチ、高い不確実性、インフレ率が大きく変動していることを背景に、いくつかの部門では企業は利益率を上昇させることができている
    • ほとんどの長期的なインフレ期待の指標は、現在は2%付近にあるものの、いくつかの指標は上昇しており、引き続きの注視が必要である
 
(リスク評価)
  • 金融市場の緊張が再発し持続的であれば、予想以上に、広範囲に信用状況が緊迫化し、また景況感が悪化するため、成長率の下方リスクとなる
    • ロシアのウクライナへの戦争もまた、引き続き、経済の大きな下方リスクである
    • しかしながら、最近は過去の負の供給ショックから反転しており、もし継続すれば、景況感を改善させ、現在の予想よりも経済を下支えする可能性がある
    • 引き続き労働市場が強靭であることは、家計の景況感や支出を改善させ、予想よりも高い成長率を促す可能性がある
 
  • インフレ見通しには依然として、大きな上方リスクがある
    • これは、短期的には、既存の価格転嫁圧力が小売物価を予想以上に上昇させることが含まれている
    • さらに、ロシアのウクライナへの戦争はエネルギーや食料価格を再度押し上げる可能性がある
    • インフレ期待が我々の目標を継続的に上回ること、もしくは賃金や利益率の予想以上の上昇もまた、中期的に見てもインフレ率を押し上げる可能性がある
    • 最近の賃金交渉の結果は、利益率が高い状態であれば特に、インフレ率の上方リスクである
    • 下方リスクには、金融市場の緊張が予想よりも早くインフレ率を低下させる可能性が含まれる
    • 例えば、銀行貸出のより急激な減速や、金融政策が協力に伝達されることで、需要が弱まり、特に中期的には現在の見通しよりもインフレ圧力が低くなる可能性がある
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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