2023年04月03日

世界各国の市場動向・金融政策(2023年3月)-金融不安の高まりでドル安に、株はまちまち

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.概要:ドル安が進む

23年3月の各国1の株価・為替の動きは以下の通り。
 

【株価・対ドル為替レートの動き】
・3月は、金融不安が浮上し、米国の金融引き締めに関して慎重姿勢が強まるとの見方からドル安が進んだ。株は銀行株中心に下落したものの、底堅かった国も見られる(図表1)。

(図表1)株・為替の上昇率(23年2月末~3月末日時点)

(図表2)世界株価の動向/(図表3)対ドル為替レートの動向
 
1 本稿では金融政策はG20について確認する。また、株価・為替についてはMSCI ACWIの指数を構成する47か国・地域について確認する。中国と記載した場合は中国本土を指し香港は除く。また、香港等の地域も含めて「国」と記載する。本文中の先進市場と新興市場の区分についてはMSCIの分類に基づく。

2.ロシアの金融市場と商品価格

まず、ロシアのウクライナ侵攻後に大きく変動したロシアの金融市場や商品価格について概観しておきたい2

ロシアの金融市場について(図表4)、3月は、為替はゆるやかな下落傾向が続く一方、株はやや持ち直した。また、金利は横ばい圏での推移となった(図表4・5)。
(図表4)ロシアの株価指数と為替レート/(図表5)ロシアの長期金利
(図表6)金属先物価格(ロンドン)/(図表7)農作物先物価格(シカゴ市場)
(図表8)エネルギー価格の推移 次にロシアが主要な供給源となっている商品の動向を追うと、3月は金属(アルミ、ニッケル)、農作物(小麦・トウモロコシ)、エネルギー(原油・天然ガス・石炭)ともに大きな変動はなかった(図表6-8)。

なお、3月18日に期限を迎えた黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意については延長が決まったが、延長期間についてはウクライナ(120日を主張)とロシア(60日を主張)で見解が異なっている3
 
2 ロシアのウクライナ侵攻と経済・金融制裁を受けて、22年3月にロシアはMSCI ACWIから除外されているが、世界の金融市場に大きな影響を及ぼしたその後の状況を確認するため、本節で概観する。
3 例えば、ジェトロビジネス短信「ウクライナ産穀物輸出合意の延長、ロシア側は60日間と主張」2023年03月29日(23年4月3日アクセス)

3.株価(MSCI)・為替レートの動き

(図表9)MSCI ACWI構成銘柄の国別騰落数 MSCI ACWIの月間騰落率は、全体では前月比2.8%、先進国が前月比2.8%、新興国が前月比2.7%となり、上昇した(前掲図表2)。

国別の株価の動きを見ると、3月は対象国の47か国中、22か国が上昇、25か国が下落とまちまちだった(図表9)。
(図表10)各国の株価変動率
なお、3月は上旬に米シリコンバレー銀行が破綻、その後クレディスイスの経営不安に飛び火し、UBSが同社を救済合併したものの一部劣後債(AT1債)が全損するなど、金融不安が高まった。ただし、その後金融不安が大きく波及しなかったこともあり、銀行株を中心に下落したものの株価指数全体ではプラスで終えた国も多い。こうした状況の中で、銀行関連株のウエイトの大きいオーストリアやギリシャの下落幅が大きくなった。

通貨の騰落率を見ると、ドルの27カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Narrow)が前月比0.8%、60カ国の貿易ウエイトで加重平均した実効為替レート(Broad)が前月比1.2%となり、3月はドル安が進行した4(前掲図表3)。

金融不安の高まりを受け米FRBの金融引き締め姿勢がハト派的に修正されるとの見方がドル安を後押ししたものと見られる。
(図表11)MSCI ACWI構成通貨の通貨別騰落数 MSCI ACWIの構成通貨別に見ると、3月は36通貨中対ドルで上昇(ドル安)したのは6通貨、下落(ドル高)したのは30通貨となり、幅広い通貨に対してドルが安くなった(図表11・12)。
(図表12)各国の対ドル為替レート変動率
 
4 名目実効為替レートは1月21日時点の前月末比で算出。

4.金融政策:主要国のうちカナダ中銀も利上げ停止

最後に、主要地域の金融政策を見ていく(図表13)。
(図表13)主要地域の金融政策
3月はG7のすべてで金融政策を決定する会合が開かれた。FRB、ECB、イングランド銀行はシリコンバレー銀行破綻以降の金融不安が燻る中での会合となったが、金融システムリスクに配慮しつつもインフレに対処するための利上げを継続した。一方、カナダ銀行はシリコンバレー銀行破綻前の会合だったが、これまでの金融引き締めの効果を見極めるために、利上げを停止し政策金利を維持した。日本は黒田総裁のもとでの最後の金融政策決定会合であり、一部ではイールドカーブコントロールのさらなる柔軟化を行うとの観測も浮上していたが、現状の大規模緩和を維持する結果だった。

G7以外の国では、ドルペッグやユーロペッグを採用しているサウジアラビアやデンマークのほか、オーストラリア、アルゼンチン、メキシコ、南アフリカで利上げが決定された。一方、ポーランド、インドネシア、ロシア、ブラジル、ハンガリー、チェコは利上げ後の様子見姿勢を続けている。その他、トルコは先月に大地震を受けて利下げを決定したが、今月は政策金利を維持した。中国は政策金利を据え置いたものの、国内経済下支えのために、預金準備率を引き下げている。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年04月03日「経済・金融フラッシュ」)

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