2023年03月24日

英国金融政策(3月MPC)-0.25%ポイント利上げ、見通しの不確実性は上昇

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:11会合連続での利上げを決定

3月22日、英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、23日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
政策金利を4.25%に引き上げ(0.25%の利上げ、7対2で2人は4.00%で据え置きを支持)

【議事要旨等(趣旨)】
FPCは英国金融システムが強靭であると評価している
23年4-6月期以降のCPIインフレ率は2月時点の予想を下回る見通しで、賃金上昇率も予想よりもいくらか早期に低下すると見ている
金融市場と経済の見通しを取り巻く不確実性は上昇している

2.金融政策の評価:金融システムリスクの経済への影響は次回5月会合で評価

イングランド銀行は今回のMPCで0.25%ポイントの利上げを決定した(4.00→4.25%)。利上げ幅は前回2月会合での決定(0.50%ポイントの利上げ)から縮小、市場予想(0.25%)とは一致した。なお、決定に際しては2名が据え置きを主張し、この2名は前回2月および前々回12月の会合でも据え置きを主張している。

今回のMPCは、米シリコンバレー銀行が経営破綻をした後の決定であり、声明文でも金融市場と経済の見通しを取り巻く不確実性は上昇しているとの評価が加えられたが、政策金利の引き上げは続けられた。直前にECBやFRBでも、金融システムリスクは注視するものの物価安定のための利上げを続けるという判断がなされており、イングランド銀行も同様の決定がなされた。

英国では依然としてインフレ圧力が強く、今回、イングランド銀行が指摘したように、2月のインフレ率は1月から再加速、依然として10%台で推移しており予想を大幅に上回る状況となっている。インフレ率の高さに鑑みると、現時点では利上げ停止の判断は難しいと見られる。

一方で、4-6月期以降は政府のエネルギー価格抑制策の延長や、卸売ガス価格の下落を受けてインフレ率が大きく低下することが見込まれている。また、賃金上昇圧力に緩和の兆しがある点も指摘している。こうしたインフレ圧力の低下が顕在化すれば次回の利上げ停止の根拠となるだろう。次回5月の会合は、金融システム不安の経済への影響も勘案した上で金融政策報告書(MPR)の作成がなされる。現時点ではインフレ率の上振れリスクも下振れリスクもともに大きいとみられることから、次回会合までの金融・経済状況がより注目されると見られる。

3.金融政策の方針

今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
 
  • MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
    • 委員会は政策金利(バンクレート)を0.25%ポイント引き上げ、4.25%とする(7対2で決定1)、2名は現状維持で4.00%とすることを主張した
 
  • 2月の金融政策報告書で予想されたよりも世界の成長率は強く、先進国のコア消費者物価指数上昇率は引き続き高い
    • 卸売ガス価格先物と石油価格は著しく下落した
 
  • 世界の金融市場は大きく変動しており、特にシリコンバレー銀行の経営破綻とUBSのクレディスイス買収以降は顕著であり、これらの出来事の拡大懸念を反映している
    • 総じて、前回の会合以降の国債利回りは変化しておらず、リスク性資産価格はやや下落した
 
  • 金融安定委員会(FPC:Financial Policy Committee)は、MPCに対して、世界的な銀行部門の状況について報告した
    • FPCは英国の金融システムは頑健な資本と強固な流動性を有しており、金利上昇を含む幅広いシナリオで引き続き経済を支えることができると判断している
    • FPCは英国金融システムが強靭であると評価している
 
  • これらの出来事を反映して、企業向けの資金調達コストは英国やその他先進国で上昇している
    • MPCは引き続き家計や企業が直面している信用状況への影響、マクロ経済とインフレ見通しへの影響を注視する
 
  • 春季財政報告で追加の財政支援策が公表された
    • 中銀スタッフは、2月の報告書と比較して、今数年間でGDPの水準が0.3%程度上昇すると暫定的に見積もっている
    • これらの措置が中期的な供給・需要にどのような影響を与えるかの完全な評価は、5月の金融政策報告書作成の前に実施する予定である
 
  • 年末年始のGDPは横ばいで推移していると見られ、4-6月期には、2月の報告書では0.4%の下落が予想されていたが、現在はやや上向くと予想している
    • 政府のエネルギー価格保証(EPG:Energy Price Guarantee)は4月以降の3か月間は2500ポンドに維持され、家計の実質可処分所得は、短期的には急落せずに横ばいとなるだろう
    • 労働市場は引き続きひっ迫しており、前回のMPC会合以降の情報は、23年4-6月期の雇用の伸びが予想より強く、失業率も上昇せず横ばいになることを示唆している
 
  • CPIインフレ率は前年比で12月の10.5%から1月には10.1%に低下したが、2月は再び上昇して10.4%となり、2月の報告書の予想よりも0.6%ポイント高い
    • その結果、MPCの声明と同時に中銀総裁と財務相の間の書簡2が公開された
    • 消費者物価のサービスインフレは2月に6.6%となり、2月報告書の予想よりも0.1%ポイント弱いが、食料とコア財インフレ率は予想よりも著しく高い
    • コア財の驚くべき強さの大部分は衣類によるものであり、この要素は変動が大きいため、持続的ではないと見られる
    • 民間部門の定期賃金伸び率は22年11月-23年1月期の前年比で7%と緩和し、2月報告書の見通しよりも0.1%ポイント低い
 
  • CPIインフレ率は23年4-6月期には急激に低下し、2月報告書での予想を下回ると見られる
    • この予想を下回る伸び率となる要因の大部分は、春季財政報告に含まれているエネルギー価格保証と卸売エネルギー価格の下落によるものである
    • サービスインフレは短期的には横ばいで推移すると見られるが、賃金上昇率は2月の報告書よりもいくらか早期に低下すると見ている
 
  • MPCの責務が、英国の金融政策枠組みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成であることは明らかである
    • この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
    • 経済はかなり大きく重なったショックの中にある
    • 金融政策により、これらのショックによる調整が続いてもCPIインフレ率が中期的に2%目標に安定して戻るようにする
    • 金融政策はまた、長期のインフレ期待が2%目標で固定されるよう実施される
 
  • 委員会は、今回の会合で政策金利を0.25%ポイント引き上げ、4.25%とすることを決定した
    • 最新のCPIインフレ率は予想に反して上昇したが、今年の残りの期間にかけて急低下すると見られる
    • サービスインフレ率は総じて予想通りに推移している
    • 労働市場は引き続きひっ迫しており、GDPと雇用の短期的な経路は以前の予測よりもいくらか強くなるだろう
    • 名目賃金上昇率は予想よりも弱いものの、費用と物価の上昇圧力は依然として強い
 
  • 国内のインフレ圧力の緩和具合は、これまでの政策金利の大幅な引き上げの影響も含めて、経済動向に依存する
    • 金融市場と経済の見通しを取り巻く不確実性は上昇している
 
  • MPCは、労働市場のひっ迫感や賃金上昇率、サービスインフレの動向といったインフレ圧力が永続的かの指標について引き続き注視する
    • 仮により永続的な圧力があるのであれば、より引き締め的な金融政策が必要となる
 
  • MPCは金融市場と銀行部門の最近の出来事が経済に及ぼす影響といった、2月の報告書以降の情報の完全な評価を5月の見通し作成の一部として実施する予定である
 
  • 将来にわたって、MPCは、その責務にもとづき、インフレ率を中期的な2%目標に安定的に戻すために必要な政策金利の調整を行う
 
1 今回反対票を投じたのは、ディングラ委員およびテンレイロ委員。前回もディングラ委員およびテンレイロ委員は反対票を投じて現状維持を主張した。
2 インフレ率が目標から乖離した理由と今後のインフレ見通し、インフレ目標を達成するための金融政策手段について説明する書簡(インフレ率が目標(2%)から1%以上乖離した場合に公開が要求される)。

4.議事要旨の概要

議事要旨の概要(上記金融政策の方針で触れられていない部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り。

(通貨・金融情勢)
  • SVB問題が広く伝わった後、リスクセンチメントは逆転し、市場の変動幅が拡大、世界的に国債利回りがかなり再低下した
    • 利回りの低下は、変動の拡大の鎮静化を待ち、安全資産へ逃避したことを反映しており、見通しとインフレ率への下方リスクが増加したと考えられた
 
  • 英国では市場参加者の大多数が今回のMPC会合での0.25%ポイントの利上げを予想しており、MPC直前の2月CPIデータの公表後にその予想経路は上昇していた
    • 市場予想の政策金利経路は23年8月に4.5%まで上昇する想定となっており、ピークは前回のMPC会合からやや上昇している
 
(需要と生産)
  • 3月15日に春季財政報告が実施され、合わせて予算責任局(OBR)が経済・財政見通しを公表した
    • 家計・企業へのエネルギー支援策を含む追加の支援策が公表され、23-24年と25-26年に実施される適格設備投資の100%を税控除の対象とし、労働市場参加者を増やすための一連の措置、防衛支出の増加と燃料税の凍結といった措置が含まれている
 
(供給、費用、価格)
  • ここ数か月で民間部門の定期平均週給(3か月平均の3か月前比)は急激に低下している
    • KPMG/REC調査による新規採用者への賃金といったその他の賃金指標は、民間部門の定期賃金が2月の報告書の見通しよりいくぶん弱いことを示唆している
    • 2月の報告書では、現状において弛み(slack)の変化よりも重要とみられるインフレ期待が低下することで賃金上昇率を押し下げ、今年下半期には賃金上昇率が弱まると予想されている
 
  • エネルギー価格保証の変更は、家計のエネルギー価格に対する下押しとなり、23年4-6月期のCPIインフレ率見通しを1%ポイント程度、直接的に引き下げる
    • 春季財政報告に含まれる燃料税の凍結といったその他の公表された措置は、4月以降のインフレ見通しを0.33%ポイント程度引き下げると見られる
 
  • 中銀スタッフは卸売ガスの先物価格が大幅に低下したため、CPIインフレ率が23年4-6月期以降も低下すると見ている
    • 仮に先物価格がこのままであれば、エネルギー価格保証が7月からは家計のエネルギー価格を拘束しないことを意味する
    • その後は、ガス電力市場監督局(Ofgem)の上限価格が国内のエネルギー料金価格を規定することになり、Ofgemの定める方法により3か月ごとに価格が見直される
    • 中銀スタッフの最新の推計では、CPIインフレ率への直接的なエネルギーの貢献は今年末までにマイナスになるとされている
 
(当面の政策決定)
  • 7人の委員が政策金利を0.25%ポイント引き上げ、4.25%にすることが妥当だと判断した
    • これらのメンバーはこれまで上昇していたエネルギー価格が低下するという要因で、国内・世界の需要見通しが強まることを重視している
    • エネルギーインフレの波及効果が軽減したとしても、労働需要が依然として強く、消費者物価における持続的なコスト上昇を持続的にさせている
 
  • 2名の委員は4.00%で政策金利を維持することを希望した
    • エネルギー価格やその他のコストプッシュショックが解消されることで、CPIインフレ率は23年に大きく低下し、国内の価格設定に関連した上昇圧力も軽減する
    • 同時に、金融政策の効果のラグにより、過去の利上げの効果が依然として顕在化していないことを意味する
    • 現在の政策金利でも、中期的にはインフレ率を2%から大きく下方に押し下げると見られる
    • 金融姿勢はより制限的になっているため、足もとの金利引き上げが、将来の逆転換をもたらすことになる
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年03月24日「経済・金融フラッシュ」)

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