2023年03月15日

英国雇用関連統計(23年2月)-実質賃金伸び率はコロナ禍後の最低値を更新

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:失業率は横ばい推移が続き、雇用者数の増加も堅調

3月14日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【2月】
失業保険申請件数1前月(150.91万件)から1.12万件減の149.79万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は3.8%となり、前月(同3.8%)と同じだった
給与所得者数2前月(2995.20万人)から9.8万人増の3004.99万人となった。
増減数は前月(+4.2万人)から増加し、市場予想3(+6.5万人)も上回った。

【1月(22年11-23年1月の3か月平均)】
失業率は3.7%で前月(3.7%)から横ばい、市場予想(3.8%)を下回った(図表1)。
就業者は3283.9万人で3か月前の3277.3万人から6.6万人の増加となった。
増減数は前月(7.4万人)から減少したが、市場予想(5.3万人)を上回った。
週平均賃金は、前年同期比5.7%で前月(6.0%)から減速、市場予想(5.7%)と一致した(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金・労働時間の推移
 
1 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
2 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは約85%のデータから推計(22年7月から推計方法変更)。
3 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:実質賃金伸び率はコロナ禍後の最低値に

まず、2月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は22年12-23年2月の平均で112.4万件となり22年3-5月平均(130.0万件)をピークにした減少傾向が続いており(図表3)、産業別に見ても引き続き幅広い業種で求人数の減少が見られる。単月の求人数も2月は108.4万件となり、3か月連続で100万件台となった4

給与所得者データでは、2月の給与所得者数は製造業や卸・小売業が前月比でマイナスとなる一方、事務・支援サービスや居住・飲食サービスが増加し、全体でも増加した(図表4)。2月の月あたり給与額(中央値)は前年同月比6.7%で1月(7.1%)から伸び率が減速した。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
1月までのデータ(労働力調査)を確認すると、失業率は3.7%で横ばい推移している。就業者は微増、失業者と非労働力人口が微減だった。労働参加率は63.2%と前月からはほぼ横ばいとなった。足もとで非労働力人口の減少が進んでいるが、年齢別には16-24才の若年層中心で、理由別には「学生のため」や「引退したため」とした人で減少が目立つ。一方、「長期的な病気のため」として非労働力人口である人は依然として多い(図表5)。
(図表5)非労働人口となっている理由(コロナ禍前比)/(図表6)英国の労働争議件数と労働損失日数
労働時間は、31.8時間(前年同期差+0.1時間)、フルタイム労働者で36.4時間(同±0.0時間)となり、コロナ禍前ピーク(19年8-10月)から1.2%低い水準で、特にフルタイム労働者では労働時間がコロナ禍前水準に届かない状況が続いている(前掲図表2)。賃金は、名目賃金が22年11-23年1月の前年同期比で5.7%(10-12月期6.0%)とやや下落し、実質賃金は▲3.2%(10-12月期▲3.0%)とコロナ禍後の最低値を更新した(前掲図表2)。

1月の労働損失日数は21.9万日で、12月(82.2万日)より大きく減少したが、依然として処遇改善を求めたストライキが多く発生しており、歴史的に見ても高水準にある(図表6)。特に1月は公的部門でのストライキが多く、労働損失日数の大部分(96%)を占めている。
 
4 3か月平均のデータは季節調整値だが、単月データは未季節調整値のため季節性が除去されていないため留意が必要。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年03月15日「経済・金融フラッシュ」)

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