2023年05月19日

日米欧のコロナ禍後の資金循環

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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■要旨
 
  1. 欧米の部門別資金過不足を見ると、コロナ禍直後に家計部門の資金余剰、政府部門の資金不足がそれぞれ急拡大した。その後、家計部門の資金余剰は米国ではコロナ禍前を下回る水準まで低下、ユーロ圏ではコロナ禍前水準程度にとどまっている。これに対応する形で、政府部門の資金不足は米国ではコロナ禍前水準まで低下しているが、ユーロ圏では依然としてコロナ禍前水準を上回る状況にある。
     
  2. 日本の資金過不足は欧米と同様に、コロナ禍直後に家計部門の資金余剰、政府部門の資金不足がそれぞれ増加した。その後の推移はユーロ圏と類似しており、家計部門の資金余剰額は減少したものの「過剰貯蓄」の取り崩しはあまり進まず、政府部門の資金不足額(財政赤字額)もそれほど縮小していない。
     
  3. 欧米ではコロナ禍でも家計や企業の投資の落ち込みは限定的で、かつ迅速に回復した。しかし足もとでは、中銀による積極的な金融引き締めを反映して家計や企業の投資に減速感が見え始めている(図表1)。また、コロナ禍直後に急拡大した金融部門のバランスシートも足もとで拡大が止まっている。ただし、企業投資や金融機関貸出の鈍化はそれほど鮮明ではない(図表1・2)。
     
  4. 欧米中銀は金融引き締め姿勢を堅持しており、今後、さらに資金調達環境が厳格化し、投資の減速が鮮明になっていく可能性がある。半面、企業が収益力を維持し、投資の減速が緩やかなものにとどまる可能性もある。グリーン化や経済安全保障に関連した供給網の再構築への対応、デジタル化など人手不足に対応するのための労働生産性向上への取り組みは投資の底堅さに寄与する要因となる。この場合、利上げによる景気減速効果が限定的となり、インフレ率の鎮静化に時間を要するかもしれない。今後、金融引き締めの効果がどのようなペースで波及するかが注目される。
(図表1)家計・企業の投資動向/(図表2)金融機関の貸出動向
■目次

1.コロナ禍後の部門別資金過不足
  ・コロナ禍で家計の資金余剰、政府の資金不足が急拡大
2.家計・企業・金融機関の状況
  ・足もとの家計の貯蓄投資バランスに景気の減速感
  ・企業の貯蓄投資バランスに景気減速感は見られず
  ・金融部門では足もとの貸出に減速感
  ・金融引き締めの波及は道半ば
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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