2023年04月13日

貸出・マネタリー統計(23年3月)~貸出残高の伸びは堅調、長期貸出金利は日銀の政策修正を受けて上昇

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:貸出残高の伸びは堅調、貸出金利は日銀政策修正後に上昇

(貸出残高)                                                                  
4月12日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、3月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比3.34%と前月(同3.61%)から低下した。(小数点以下第2位まで見た場合)10カ月ぶりに伸び率が低下したことになるが、3%台の高い伸びを維持している(図表1)。業態別では、都銀、地銀(第2地銀を含む)ともに伸び率が同3.34%となったが、前月(都銀が同3.96%、地銀が同3.31%)からの変化で見ると、都銀が大きく低下する一方、地銀は若干上昇した(図表2)。

コロナ禍からの経済活動再開の流れを受けて運転・設備資金などの前向きな資金需要が発生していると考えられるほか、原材料・燃料価格高騰(による仕入れコスト増)に伴う資金需要も貸出増加に繋がっているとみられる。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)貸出先別貸出金
(図表5)国内銀行の新規貸出平均金利 なお、2月の新規貸出金利については、短期(一年未満)が0.373%(1月は0.435%)、長期(1年以上)が0.827%(1月は0.939%)とともにやや低下した。

当統計は月々の振れが大きいため、移動平均でトレンドを見ると(図表5)、短期には殆ど動きがないものの、長期貸出金利は直近で0.1~0.2%ほど水準が切り上がっている。日銀が昨年12月に長期金利の許容上限を引き上げたことに伴う国債利回りの上昇が既に貸出金利に波及していることがうかがわれる。

2.マネタリーベース:高水準の国債買入れが増加要因に

4月4日に発表された3月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比▲1.0%となり、前月(同▲1.6%)からマイナス幅が縮小した(図表6)。前年割れは7カ月連続ながら、5カ月連続でマイナス幅が縮小している。

マイナス幅縮小の主因はマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金のマイナス幅縮小(前月▲2.5%→当月▲1.6%)である。3月も日銀のさらなる緩和縮小観測を背景とする市場の金利上昇圧力が燻り、金利の上昇を抑えるために日銀が積極的に国債買入れを行ったことを受けて、長期国債買入れ額が11.1兆円と平時(緩和縮小観測が台頭していなかった昨年年初までは6兆円前後で推移)を上回り、その分日銀当座預金への資金供給が進んだ(図表7)。金利抑制のために1月に拡充した共通担保オペなど資金供給オペの増加も寄与した。また、昨年半ばにマネタリーベースを大きく減少させたコロナオペの回収が、既に峠を越えたことで、当座預金が減りにくくなっている面もある。

その他の内訳では、貨幣流通高の伸びが前年比▲3.7%(前月は▲3.8%)とマイナス幅を若干縮小する一方、日銀券発行高の伸びが同2.1%(前月は2.6%)と低下している(図表6)。
 
なお、3月のマネタリーベースは、季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)で見ると、前月比7.0兆円増(前月は同14.7兆円増)と年初以降、増加が続いている(図表9)。今後も日銀の緩和縮小観測は払拭されにくく、同観測によって金利上昇圧力が高まる場面では、それを抑制するための国債買入れがマネタリーベースの増加を促すだろう。
(図表6) マネタリーベースと内訳(平残)/(図表7)日銀の国債買入れ額とコロナオペ(月次フロー)
(図表8)マネタリーベース残高の伸び率/(図表9)マネタリーベース残高と前月比の推移

3.マネーストック:市中通貨量は緩やかな増加基調

4月13日に発表された3月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比2.56%(前月は2.57%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.14%(前月は2.16%)と、ともに若干低下した(図表10)。(小数点以下第2位まで見た場合)伸び率の低下はM2、M3ともに4カ月連続となるが、前月からはほぼ横ばいの動きとなっている。

M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月4.6%→当月4.8%)の伸び率は上昇したものの、現金通貨(前月2.3%→当月1.8%)、準通貨(定期預金など・前月▲1.3%→当月▲1.6%)、CD(譲渡性預金・前月▲10.5%→当月▲12.6%)のマイナス幅が拡大し、全体の伸びを抑制した(図表11・12)。
(図表10) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表11) 現金・預金の伸び率
通貨量は実態として緩やかな増加基調にある。既述の通り、銀行貸出は比較的高い伸びを続けており、その分預金も創造されているものの、多額の貿易赤字が続いていることが、預金の伸び率抑制を通じて通貨量の伸び率抑制に働いているとみられる。
(図表12)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比3.76%(前月は3.88%)とM2やM3と同様に低下したが、低下幅は相対的にやや大きめであった(図表10)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びがわずかに低下したほか、規模の大きい金銭の信託(前月9.8%→当月9.4%)、外債(前月21.3%→当月18.4%・為替変動の影響を含む)の伸び率も低下し、追加的な伸び率押し下げ要因となった。ちなみに、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月5.0%→当月5.0%)の伸びは前月から横ばいであった(図表12)。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2023年04月13日「経済・金融フラッシュ」)

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