2023年03月03日

日銀による「YCC修正の選択肢」とそれぞれの「長所・短所」

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. 昨年12月に日銀は債券市場の機能度改善を目的として突如長期金利の変動許容幅を拡大、その後も追加措置も講じたものの、イールドカーブ(以下、YC)の歪み解消や市場機能の大幅な改善には未だ至っていない。日銀が近い将来に再び金利上昇を許容するとの市場の観測が根強いことが背景にあり、その払拭は容易ではない。
     
  2. 筆者の予想も市場の予想に反するものではない。物価目標が持続的に達成され、金融政策を正常化することは困難であるものの、YCの歪みや市場機能の悪化した状態が続き、その是正のために近い将来にさらなる緩和修正に踏み切らざるを得なくなるだろう。
     
  3. その際、市場機能低下をもたらしている長期金利の操作目標の修正が優先されると考えられるが、市場で主に想定されている選択肢としては3つが挙げられる。
     
  4. まず、最も抜本的な修正方法は「長期金利操作目標の撤廃」だ。YCの歪み解消と市場機能の顕著な改善が期待できるという「長所」がある一方、長期金利の上昇幅が大きくなるという「短所」があり、景気や金融機関の財務などに対する負の影響が危惧される。金利上昇が主因ではなかったとしても、撤廃後に景気が悪化して物価が下振れたりすることになれば、日銀への批判が高まり、日銀の信認が低下する可能性も否定できない。
     
  5. 2つ目の修正方法は「長期金利操作目標変動幅のさらなる拡大」、つまり、許容上限のさらなる引き上げで、例えば上限を「0.75%程度」へ引き上げることが想定される。この方法の「長所」は金利上昇幅を抑制でき、景気などへの負の影響も抑えることができることだ。一方で「短所」としては、小刻みに許容上限を上げることによって市場でさらなる修正観測が続き、YCの歪みや市場機能の改善に殆ど寄与しない可能性があることだ。仮に許容上限を大幅に引き上げればこの問題は緩和するが、その際は「操作目標の撤廃」と実態があまり変わらなくなり、同じリスクを抱えることになる。
     
  6. 3つ目の修正方法は「長期金利操作目標の年限短期化」で、操作目標を5年国債利回りなど短い年限へ変更することが想定される。この方法の「長所」は、現在YCに生じている10年ゾーン付近の歪みの解消が見込めるうえ、5年以下の金利上昇を回避することで経済への負の影響を抑える効果が期待できることだ。一方で「短所」は新たなYCの歪みが発生したり、5年超の金利が想定以上に上昇してしまったりするリスクがあることだ。
     
  7. このように、それぞれの選択肢には長所とともに短所がある。「どの効果を重視して、どのリスクを許容するのか」によって採るべき選択肢が変わってくる。来月発足する日銀新体制はいきなり難題と向き合うことになりそうだ。

 
■目次

1.トピック: YCC修正の選択肢とそれぞれの長所・短所
  1)長期金利上限引き上げ後の状況
  2)さらなる緩和修正の選択肢と各長所・短所
2.日銀金融政策(2月)
  ・(日銀)現状維持(開催なし)
  ・受けとめと今後の予想
3.金融市場(2月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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