2022年12月21日

日銀が想定外の緩和修正を決定、ドル円への影響は?~マーケット・カルテ1月号

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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※ 12/20の日銀金融政策決定会合を受けて、見通しを修正しております
為替・金利 3ヶ月後の見通し
1ドル136円台で始まった今月のドル円は円高が進んでいる。月初から中旬にかけては、米物価上昇率の鈍化(ドル安要因)、利上げ継続姿勢が強調されたFOMC(ドル高要因)、利上げに伴う米景気後退懸念(ドル安要因)が交錯して一進一退が続いた。しかし、20日に日銀が想定外の緩和修正を決定、長期金利の許容上限を引き上げたことで本邦長期金利が急上昇して円高が進み、足元では132円台前半にある。

緩和修正について黒田日銀総裁は「市場機能の改善を目的としたもので、利上げではない」と説明しているが、一段の金利上昇を許容する措置であることから、事実上の利上げの側面が強い。今後もさらなる修正への思惑は燻り続けるものの、連続的に実施する類のものではないことから当面の一層の金利上限引き上げは考えにくい。円高の動きはまもなく一服するだろう。

その後は市場のメインテーマが米国の金融政策とその背景となる物価・景気に戻ることになるが、不透明感が強いため市場の見方が定まりづらく、ドル円のトレンドは出にくそうだ。そうした中、足元の市場における米利上げ停止とその先の利下げの織り込みはやや行き過ぎているため、年初にかけて修正が入ることでドルが一旦やや持ち直すと予想している。しかし、その後は米物価上昇圧力の緩和を示すデータが徐々に増え、利上げ停止が視野に入ることでドル安基調になるとみている。この結果、3か月後は現状比横ばい圏の132円前後になると見ている。

1ユーロ142円台で始まった今月のユーロ円は上下しつつやや下落し、足元は140円台前半にある。ECBが利上げ継続への強い意欲を示したことや欧州でのガス不足懸念後退がユーロの追い風となったが、日銀の緩和修正に伴う円高圧力が上回った。今後についてもECBの利上げ継続はユーロの支えとなるものの、既に投機筋によるユーロ買いは積み上がっており、さらなる積み増し余地は乏しい。むしろ、今後は欧州の景気後退が露わになり、ユーロ売りがやや優勢になる可能性が高い。3ヵ月後の水準は138円台に弱含むと見ている。

今月の長期金利は0.25%付近で膠着を続けた後、日銀の長期金利上限引き上げを受けて0.4%台に急騰している。今後も米金利の高止まりや日銀によるさらなる緩和修正への思惑によって金利上昇圧力が燻るものの、日銀は各種オペによって今回設定した新たな上限である「0.5%程度」を死守するだろう。従って、3か月後の水準も0.4%台と見ている。
 
(執筆時点:2022/12/21)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2022年12月21日「基礎研マンスリー」)

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