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資金循環統計(22年7-9月期)~個人金融資産は2005兆円と4期連続で2000兆円の大台を維持、日銀の長期国債保有割合が5割を突破
経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志
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1.個人金融資産(22年9月末):前年比16兆円増、前期末比2兆円減
四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(6月末)比で2兆円減と2四半期ぶりに減少した。例年、7-9月期は一般的な賞与支給月を含まないことから資金の純流入が進まない傾向があり4、今回も0.4兆円の純流入に留まった。一方、この間に主要中銀の相次ぐ利上げによる世界経済減速懸念等により、内外の株価が下落したことで、時価変動の影響がマイナス3兆円(うち株式等がマイナス3兆円、投資信託がマイナス1兆円、保険・年金がプラス1兆円)発生し、資産残高を目減りさせた(図表1~4)。
ちなみに、足元の10-12月期については、一般的な賞与支給月を含むことから、例年、資金の純流入が進む傾向がある。さらに、10月以降は米利上げ減速観測などから内外の株価が持ち直していることも資産の増加に寄与しているものとみられる。
従って、12月末時点の個人金融資産残高は過去最高を更新する可能性が高い。
1 2021年12月末時点の個人金融資産は2014兆円。
2 今回、確報化に伴い、2022年4-6月期の計数が遡及改定されている。
3 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。
4 直近5年(2017~2021年)の7-9月期の平均は1.4兆円増。
2.家計の資金流出入の詳細: リスク性資産への投資積極化も一部で継続
内訳では、流動性預金(普通預金など)が純流入(0.9兆円増)となった一方、定期性預金は純流出(3.6兆円減)となった(図表7)。
定期性預金からの純流出は27四半期連続で、この間の累計流出額は80兆円に達している。この結果、定期性預金が個人金融資産に占める割合は19.0%にまで低下している(図表8)。
預金金利がほぼゼロであるにもかかわらず、引き出し制限があって流動性の低い定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。定期性預金の残高は未だ381兆円もあるため、今後も大幅な資金流出が避けられない。
次に、リスク性資産への投資フローを確認すると、代表格である株式等が0.4兆円の純流出(前年同期は0.5兆円の純流出)となった一方、投資信託は1.0兆円の純流入(前年同期は1.5兆円の純流入)となった(図表6)。株式は高齢保有者の相続対策などが構造的な流出圧力になっていると推測される。一方、投資信託の純流入は10四半期連続で、この間の純流入額は11兆円に達するなど堅調な資金流入が続いている。
その他リスク性資産では、大幅な円安進行を受けた利益確定のための解約が優勢になった結果とみられるが、外貨預金(0.1兆円減)からの純流出が続いている。一方で、確定拠出年金内の投資信託が堅調な純流入(0.3兆円増)を続けているほか、対外証券投資も3期連続の純流入(0.04兆円増)となっている。
全体から見れば未だ限定的な動きではあるが、家計のリスク性資産への投資は従来よりも進みつつある。国内でも物価上昇が進んでいることを受けて、物価上昇リスクに敏感な一部の家計が、物価上昇に弱い現預金への資金配分を引き下げ、リスク性資産への配分を引き上げている可能性がある。
岸田政権は「資産所得倍増」を掲げており、足元ではそれに向けたNISAの拡充方針も決まっている。拡充は2024年からと少し先だが、こうした機運の高まりが先んじて家計の投資意欲向上に繋がるかが注目される。
5 2020年7-9月期はコロナ禍初期の行動制限や外出抑制によって支出が大幅に抑えられ、例外的に現預金への流入が進んだ。
3.その他注目点:企業が資金不足に転じる、日銀の長期国債保有割合が5割を突破
一方、家計部門の資金余剰は6.6兆円と前期(3.5兆円の資金余剰)からやや拡大した。消費の回復基調や物価の上昇が資金余剰を圧迫したものの、所得の改善や住宅投資の減少が押し上げに寄与したものとみられる。
また、政府部門の資金不足額は2.0兆円と前期(7.4兆円の資金不足)から大きく縮小している。行動制限が回避されたことで、コロナ対策としての財政出動が縮小したためと推測される。
なお、海外部門の資金不足が1.7兆円(前期は2.8兆円)と縮小傾向が続いている点については、資源・エネルギー価格上昇を受けた国内からの資金流出が反映されているとみられる。
なお、7-9月期の民間非金融法人による対外投資(フローベース)を確認すると、対外直接投資は3.8兆円と、4-6月期の5.0兆円からやや減少したが、4-6月期以降はコロナ前6の水準を概ね回復している(図表12)。一方、対外証券投資は4-6月期に3.4兆円であったものが7-9月期にはマイナス5.9兆円へと落ち込んでおり、大きく変動している。
主な経済主体の保有状況を見ると(図表13)、最大保有者である日銀の国債保有高が545兆円と6月末(542兆円)から2兆円増加し、全体に占めるシェアも44.9%(6月末は44.3%)とやや上昇した。さらに、このうち1年超の長期国債に限れば、日銀のシェアは50.3%(6月末は49.6%)と過去最高に達しており、初めて50%の節目を突破している。7-9月も利上げに伴う米金利の上昇や日銀の金融緩和縮小観測を受けて長期金利が日銀の許容上限(0.25%)に達し、日銀が指し値オペで大幅な買入れを実施したことが、国債保有高の増加に繋がった。
なお、海外部門の保有高は6月末から4兆円増加の171兆円となり、シェアも14.1%(6月末は13.6%)とやや上昇した。世界的に金利上昇に伴って債券投資への警戒感が強い状況が続いたが、海外投資家は円を調達する際に上乗せ金利を得られる状況が続いたことなどから、日本国債への投資が促されたとみられる。
ちなみに、銀行など預金取扱機関の保有高は160兆円と6月末比で20兆円も減少し、全体に占めるシェアも13.2%(6月末は14.7%)と大きく低下している。
6 2017~19年の四半期平均は4.1兆円
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(2022年12月19日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1870
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
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