2022年11月10日

貸出・マネタリー統計(22年10月)~銀行貸出の伸びが加速、久々に預金の伸びを上回る

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:貸出の伸びが加速、預金の伸びを上回る

(貸出残高)                                                                  
11月9日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、10月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.97%と前月(同2.62%)を大きく上回った。伸び率の上昇は5ヵ月連続で、この間の伸び率の上昇幅は2.09%に達するなど、銀行貸出の増加基調が強まっている(図表1)。コロナ禍からの経済活動再開や原材料・燃料価格高騰(による仕入れコスト増)などが資金需要の増加を通じて貸出増加に繋がっている模様だ。また、円安が進んだことで外貨建て貸出の円換算額が大きく嵩上げされ、直近では0.7%程度、伸び率を押し上げていると推測される(図表1・3)。

業態別では、都銀の伸び率が前年比3.14%(前月は2.43%)と急伸したほか、地銀(第2地銀を含む)の伸び率も同2.84%(前月は2.78%)とやや上昇している(図表2)。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)貸出と預金の伸び率比較
なお、貸出の伸びが急拡大する一方、預金(実質預金+CD)の伸び(前年比2.60%)は鈍化基調になっていることで、2019年7月以来約3年ぶりに貸出の伸び率が預金の伸び率を上回った(図表4)。原材料・エネルギーの輸入額増加が資金需要を促す一方で、対外支払い増加による国内預金減少に繋がっている可能性がある。
(主要銀行貸出動向アンケート調査)
日銀が10月24日に発表した主要銀行貸出動向アンケート調査によれば、2022年7-9月期の(銀行から見た)企業の資金需要増減を示す企業向け資金需要判断DIは5と前回(4-6月期)の3からやや上昇した。同DIがプラス(「(やや)増加」とする回答が優勢)となったのは2四半期連続で、水準は2021年1-3月以来の高水準にあたる。銀行から見た資金需要は緩やかに持ち直している(図表5)。

企業規模別では、大企業向けが6(前回は4)、中小企業向けが4(前回は1)とそれぞれ上昇した。業種別では製造業と建設・不動産で上昇が目立つ。

需要が「(やや)増加した」と答えた先にその要因を尋ねた問いでは、大企業向けでは「手許資金の積み増し」、中小企業向けでは「手許資金の積み増し」と「設備投資の拡大」を挙げた先が最多であった(「その他」を除く)。資源・エネルギー高と円安に伴う仕入コスト上昇を受けて、借入れによって手許資金を積み増す動きが出ているとみられる。

一方、個人向け資金需要判断DIは▲4と前回の▲5からほぼ横ばいとなり、2四半期連続でマイナス(「(やや)減少」とする回答が優勢)となった(図表5)。内訳では、住宅ローンが▲5(前回は▲6)、消費者ローンが▲1(前回も▲1)とともにマイナスとなっている。前者の減少理由としては、住宅着工の伸び悩みを反映し、「住宅投資の減少」を挙げた先が多かった。
 
今後3ヵ月の資金需要については、企業向けDIが8と引き続き堅調な需要が見込まれているほか、個人向けDIも1と減少が止まるとの見立てになっている(図表5)。
(図表5)資金需要判断DI/(図表6)資金需要判断DI (大・中小企業)

2.マネタリーベース:マイナス幅は15年ぶりの大きさに

11月2日に発表された10月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比▲6.9%と、前月(同▲3.3%)を下回り、7カ月連続で低下した(図表7)。マネタリーベース(平残)が前年を割り込むのは2カ月連続、前年比でのマイナス幅は2007年4月以降の大きさとなる。

低下の主因はマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金の伸び率がマイナス幅を広げた(前月▲4.7%→当月▲9.0%)ことである。10月も市場の金利上昇圧力が強く、指し値オペの応札が続いたことなどを受けて、長期国債買入れ額は12.6兆円と平時の倍レベルに膨らんだ(図表8)。一方、制度の一部打ち切りに伴うコロナオペの残高減少(前月▲21.5兆円→当月▲0.0兆円)は一服したものの、前月月中の減少が当月はフルに寄与したことで、平残ベースの当座預金が前月より押し下げられた。

その他の内訳では、日銀券発行高の伸びが前年比2.9%(前月は3.0%)とほぼ横ばいになった一方、貨幣流通高の伸びが前年比▲3.2%(前月は▲3.0%)と低下したこともマネタリーベースの伸び率低下に繋がった(図表7)。貨幣の減少幅拡大については、小口決済のキャッシュレス化進展に加え、銀行等での硬貨預け入れ手数料の広がりによって、家庭での貯金需要が減少したためとみられる。

なお、10月のマネタリーベースは季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)で見ても、前月比▲20.7兆円と大幅に減少している。

一方、長期国債の買入れ増加やコロナオペ減少の一服を受けて、末残ベースのマネタリーベース残高は、10月末時点で620兆円と前月末比で2.8兆円増加している(図表10)。
 
コロナオペの残高は今年3月の86.8兆円をピークとして既に10.8兆円まで減少しているが、今後も減少余地があること、前年比では、当面、前年の増加の反動が出ることから、前年比でのマイナス幅は拡大しやすい。今後もマネタリーベースの伸び率の押し下げ要因になるだろう。
(図表7) マネタリーベースと内訳(平残)/(図表8)日銀の国債買入れ額(月次フロー)/(図表9)マネタリーベース残高の伸び率/(図表10)マネタリーベース残高と前月比の推移

3.マネーストック:市中通貨量の伸びが鈍化傾向に

11月10日に発表された10月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.06%(前月は3.28%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.64%(前月は2.84%)と、ともに低下した(図表11)。伸び率の低下はM2が2カ月連続、M3が3カ月連続のこととなる。

M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月5.6%→当月5.2%)の伸び率が大きく低下したほか、現金通貨(前月2.9%→当月2.8%)やCD(譲渡性預金・前月6.1%→当月4.6%)の伸びも鈍化し、全体の伸び率低下に繋がった。一方、準通貨(定期預金など・前月▲2.2%→当月▲2.0%)の伸び率はマイナス幅をやや縮小している(図表12・13)。

既述の通り、資源・エネルギー輸入の増加により貿易収支の赤字が膨らんでいることが通貨量の伸び率鈍化に働いているとみられる。
(図表11) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表12) 現金・預金の伸び率
(図表13)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比3.73%(前月は3.92%)とM2やM3と同様に低下した(図表11)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びが低下したほか、規模の大きい金銭の信託(前月7.33%→当月7.28%)や投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月5.1%→当月3.2%)の伸び率も低下している。一方で、国債(前月2.5%→当月3.1%)、外債(前月18.6%→当月22.0%・円安の影響を含む)の伸びが上昇し、一定の下支えとなった。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2022年11月10日「経済・金融フラッシュ」)

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