2023年03月17日

資金循環統計(22年10-12月期)~個人金融資産は2023兆円と過去最高を更新、日銀の国債保有割合も過去最高を更新

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.個人金融資産(22年12月末):前年比9兆円増、前期末比17兆円増

2022年12月末の個人金融資産残高は、前年比9兆円増(0.4%増)の2023兆円となり、過去最高であった昨年末1の水準を超え、4四半期ぶりに過去最高を更新した2。年間で見た場合、世界的な金融引き締め等に伴う内外株価下落などを背景に時価変動3の影響がマイナス23兆円(うち株式等がマイナス12兆円、投資信託がマイナス11兆円)発生したものの、資金の純流入が32兆円あり、個人金融資産残高を押し上げた。

四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(9月末)比で17兆円増と2四半期ぶりに増加した。例年、10-12月期は一般的な賞与支給月を含むことから資金の純流入が進む傾向があり4、今回も19兆円の純流入があった。一方、この間に米利上げ縮小観測などから内外の株価が持ち直したものの、急速な円高が進んだことで、時価変動の影響がマイナス2兆円(うち株式等がプラス4兆円、投資信託がマイナス1兆円、保険・年金がマイナス3兆円)発生し、資産残高をやや目減りさせた(図表1~4)。
(図表1) 家計の金融資産残高(グロス)/(図表2) 家計の金融資産増減(フローの動き)
(図表3) 家計の金融資産残高(時価変動)/(円/ドル) 
(資料)日本銀行、東京証券取引所
(図表5)家計の金融資産と金融純資産 なお、家計の金融資産は、既述のとおり10-12月期に17兆円増加したが、この間に金融負債が4兆円増加したため、金融資産から負債を控除した純資産残高は9月末比13兆円増の1644兆円となった(図表5)。
 
ちなみに、足元の1-3月期については、一般的な賞与支給月を含まないことから、例年、資金の純流出が進む傾向がある。一方、年初以降は主力である国内の株価こそやや上昇しているものの、円相場は横ばい圏、米国株価は下落とまちまちな状況になっている。

従って、月末にかけて市場動向に大きな変化がなければ、3月末時点の個人金融資産残高は昨年12月末と大差ない水準となる可能性が高い。
 
1 2021年12月末時点の個人金融資産は2014兆円。
2 今回、確報化に伴い、2022年7-9月期の計数が遡及改定されている。
3 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。
4 直近5年(2017~2021年)の10-12月期の平均は18.5兆円増。

2.家計の資金流出入の詳細:リスク性資産への投資積極化も一部で継続

10-12月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表6)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流入(積み増し)となったが、その規模は16.5兆円増と前年同期(20.6兆円増)や一昨年同期(22.1兆円増)を下回った。経済活動再開の流れが続き、サービス消費の回復基調が続いていることや、物価上昇の加速が影響したと考えられる。

内訳では、流動性預金(普通預金など)の純流入額が16.9兆円と前年同期や一昨年同期を下回った一方、定期性預金は前年並みである4兆円の純流出となった(図表7)。
 
定期性預金からの純流出は28四半期連続となり、この間の累計流出額は84兆円に達している。この結果、定期性預金が個人金融資産に占める割合は18.6%にまで低下している(図表8)。これと対照的に、この間の流動性預金への資金流入は245兆円に達しており、流動性預金が個人金融資産に占める割合は30.8%と過去最高に達している。
(図表6)家計資産のフロー(各年10-12月期)/(図表7)現・預金のフロー(各年10-12月期)
(図表8)流動性・定期性預金の個人金融資産に占める割合/(図表9)外貨預金・投信(確定拠出年金内)・国債等のフロー
預金金利がほぼゼロであるにもかかわらず、引き出し制限があって流動性の低い定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。12月に日銀は長期金利操作目標の許容上限を引き上げたが、今のところ、定期預金金利に大きな動きはみられない。定期性預金の残高は未だ377兆円もあるため、今後も大幅な資金流出が続くだろう。
 
次に、リスク性資産への投資フローを確認すると、代表格である株式等が0.3兆円の純流入(前年同期は0.6兆円の純流入)、投資信託も1.9兆円の純流入(前年同期は2.0兆円の純流入)となった(図表6)。それぞれ、前年同期との比較では大差ない状況だが、従来高齢化に伴う相続に絡む売却などで純流出が優勢となっていた株式は直近2年の流入額が1.9兆円と明確なプラスになっている。また、投資信託の純流入は11四半期連続で、この間の純流入額は13兆円に達するなど順調な資金流入が続いている。

その他リスク性資産では、円安反転を受けて解約を急ぐ動きが優勢になった結果とみられるが、外貨預金が引き続き純流出(0.3兆円)となっている。一方で、確定拠出年金内の投資信託が堅調な純流入(0.3兆円)を続けているほか、対外証券投資も4期連続の純流入(0.2兆円)となっている。 

個人金融資産全体からすれば限定的な動きではあるが、家計のリスク性資産への投資は従来よりも進みつつある。国内でも物価上昇が加速したことを受けて、物価上昇による資産価値の目減りを危惧した一部の家計が、インフレヘッジ機能が期待できるリスク性資産への配分を引き上げている可能性がある。

岸田政権は「資産所得倍増」を掲げており、それに向けたNISAの拡充方針も決まっている。拡充は2024年からと少し先だが、こうした機運の高まりが先んじて家計の投資意欲向上に繋がるかが注目される。

3.その他注目点:企業の資金不足が14年ぶりの規模に、日銀の国債保有割合が最高を更新

(図表10)部門別資金過不足(季節調整値) 10-12月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表10)、まず、民間非金融法人の資金不足が4.4兆円(7-9月期は0.8兆円の資金不足)へと拡大している。4.4兆円という資金不足額は2008年10-12月期以来の規模にあたる。詳細は不明だが、原燃料価格の高騰に伴う海外への所得流出や人手不足に伴う人件費の増加が影響した可能性が高い。

また、家計部門の資金余剰は5.3兆円と7-9月期(7.7兆円の資金余剰)からやや縮小した。経済活動再開前の平均(20年1-3月期~22年1-3月期・8.6兆円の資金余剰)と比べてもやや低い水準にある。所得の増加が下支えになったものの、消費の回復や物価上昇の加速が資金余剰を圧迫したものとみられる。

また、政府部門の資金不足額は9.6兆円と前期(1.8兆円の資金不足)から大きく拡大している。コロナ第8波や物価高対策費用などの財政出動が増加したためと推測される。

なお、海外部門の資金不足は2.8兆円(7-9期は1.6兆円)とやや拡大したものの、2020年以前と比べれば依然として小幅に留まっており、原燃料価格高騰を受けた国内からの資金流出が反映されているとみられる。
12月末の民間非金融法人の借入金残高は485兆円と9月末(476兆円)から9兆円増加する一方、債務証券の残高はほぼ横ばい(0.3兆円減)となった(図表11)。このように、借入金が増加したにもかかわらず、民間非金融法人の現預金残高は321兆円と、過去最高であった9月末(330兆円)から8兆円減少している。例年、10-12月期は現預金が減りやすいという季節的な傾向があるものの、今回の減少幅は相対的に大きい。ここでも原燃料高に伴う海外への所得流出が影響している可能性が高い。

なお、10-12月期の民間非金融法人による対外投資(フローベース)を確認すると、対外直接投資は4.3兆円と、7-9月期の3.6兆円からやや拡大しており、昨年4-6月期以降はコロナ前5の水準を概ね回復、堅調な投資フローが確認できる(図表12)。一方、対外証券投資は7-9月期にマイナス5.6兆円(回収超)であったものが10-12月期には2.2兆円へと回復している。
(図表11)民間非金融法人の現預金・借入・債務証券残高/(図表12)民間非金融法人の対外投資額(資金フロー)
(図表13)預金取扱機関と日銀、海外の国債保有シェア 12月末時点の国債(国庫短期証券を含む)発行残高は1198兆円と、9月末(1214兆円)からやや減少した。資金循環統計は時価ベースのため、国債利回りの上昇が残高を目減りさせた。

主な経済主体の保有状況を見ると(図表13)、最大保有者である日銀の国債保有高が555兆円と9月末(545兆円)から10兆円増加し、全体に占めるシェアも46.3%(9月末は44.9%)へと上昇、過去最高を更新した。さらに、このうち1年超の長期国債に限れば、日銀のシェアは52.0%(9月末は50.3%)まで引きあがる。

10-12月も日銀の金融緩和縮小観測などを受けて長期金利の上昇圧力が強い状態が続き、日銀が指し値オペや国債買入れの増額で抑制を続けたことが、国債保有高の増加に繋がった。
なお、海外部門の保有高は9月末から5兆円減少の166兆円となり、シェアも13.8%(9月末は14.1%)へと低下した。海外投資家の間では日銀の緩和縮小観測が根強く、積極的に国債を売り越したためと見られる。

ちなみに、銀行など預金取扱機関の保有高も149兆円と9月末比で12兆円も減少し、全体に占めるシェアも12.5%(9月末は13.2%)と大きく低下している。国債市場で金利上昇圧力が高まるなか、価格下落を懸念して持ち高を減らしにかかったと推察される。
 
5 2017~19年の四半期平均は4.1兆円
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2023年03月17日「経済・金融フラッシュ」)

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