2023年02月09日

貸出・マネタリー統計(23年1月)~貸出の伸びが大きく拡大した一方、預金の伸びは鈍化、日銀の資金供給量は急増

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:貸出の伸びが大幅に拡大⇔預金の伸びは鈍化

(貸出残高)                                                                  
2月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、1月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比3.47%と前月(同3.00%)から大きく拡大した。(小数点以下第2位まで見た場合)伸び率の上昇は8ヵ月連続となる(図表1)。業態別では、都銀の伸び率が前年比3.89%(前月は3.03%)と急上昇したほか、地銀(第2地銀を含む)の伸び率も同3.12%(前月は2.98%)とやや上昇した(図表2)。1月も円高が進んだことで、外貨建て貸出の円換算額の嵩上げ部分は剥落しつつあるとみられる。一方で、コロナ禍からの経済活動再開や原材料・燃料価格高騰(による仕入れコスト増)に伴う資金需要の増加が貸出増加に繋がっていると考えられる(図表1・3)。また、貸出が急増した都銀では、M&Aなどに絡む大口の貸出が実行された可能性が高い。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)貸出先別貸出金
(図表5)貸出と預金の伸び率比較 なお、1月の預金(実質預金+CD)の伸びは前年比2.38%と前月(同2.51%)を下回った。

通常、預金は貸出によって創造されるため、預金の伸びは貸出の伸びとの連動性することが多い。ただし、最近では貸出の伸び率が上昇する一方で預金の伸び率が低下し、貸出の伸び率(1月は前年比3.47%)を下回っている点には留意が必要だ。円安や資源高による多額の貿易赤字によって、貸出で創造された預金の一部が海外へ流出していることを示唆している可能性が高いためだ(図表5)。

2.マネタリーベース:多額の国債買入れで急増

2月2日に発表された1月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比▲3.8%となり、前月(同▲6.1%)からマイナス幅が大きく縮小した(図表6)。前年割れは5カ月連続ながら、3カ月連続でマイナス幅が縮小している。

マイナス幅縮小の主因はマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金のマイナス幅縮小(前月▲8.1%→当月▲5.2%)である。1月も日銀のさらなる緩和縮小観測を背景とする市場の金利上昇圧力が極めて強く、金利の上昇を抑えるために日銀が指し値オペ等で多額の国債買入れを続けたことを受けて、長期国債買入れ額が23.7兆円と過去最高を大きく更新し、その分日銀当座預金への資金供給が進んだ(図表7)。また、昨年半ばにマネタリーベースを大きく減少させたコロナオペの回収が、既に残高が大きく縮小したことに伴って一服しており、当座預金が減りにくくなっている面もある。

その他の内訳では、貨幣流通高の伸びが前年比▲4.0%(前月は▲4.2%)とマイナス幅を縮小したこともマネタリーベースの伸び率抑制に働いた(図表6)。伸び率の上昇は14カ月ぶりとなる。銀行等での硬貨預け入れ手数料の広がりによる貯金需要減少を受けたものとみられるが、貨幣流通高は減少基調が続いてきたが、一巡しつつある可能性も出てきた。日銀券発行高の伸びは前年比2.7%(前月も2.7%)と横ばいであった。

なお、12月のマネタリーベースは季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)で見ると、前月比19.2兆円増(前月は同1.0兆円減)と単月としては過去最高の増加を記録している(図表9)。金利上昇圧力の高まりを受けて、マネタリーベースの実勢は急増している。
 
コロナオペの残高は昨年3月の86.8兆円をピークとして既に9.8兆円まで減少し、減少余地が縮小していることに加え、日銀の緩和縮小観測が続いて日銀の国債買入れ額が膨らみやすいことから、当面はマネタリーベースの増勢(前年比でのマイナス幅縮小)が予想される。
(図表6) マネタリーベースと内訳(平残)/(図表7)日銀の国債買入れ額とコロナオペ(月次フロー)/(図表8)マネタリーベース残高の伸び率/(図表9)マネタリーベース残高と前月比の推移

3.マネーストック:市中通貨量の伸びがさらに鈍化

2月9日に発表された1月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比2.72%(前月は2.94%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.32%(前月は2.51%)と、ともに2カ月連続で低下した(図表10)。伸び率の水準はM2、M3ともに2020年1月以来の低水準にあたる。

M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月5.0%→当月4.8%)の伸び率が低下したほか、CD(譲渡性預金・前月▲5.5%→当月▲9.9%)のマイナス幅が拡大し、全体の伸び率低下に繋がった。一方、準通貨(定期預金など・前月▲1.4%→当月▲1.3%)の伸び率はマイナス幅を若干縮小、現金通貨(前月2.6%→当月2.6%)の伸びは横ばいであった(図表11・12)。

既述の通り、銀行貸出は堅調に増勢を続けており、その分預金も創造されているものの、資源・エネルギー輸入額の高止まりによって多額の貿易赤字が続いていることが、預金の伸び率鈍化を通じて通貨量の伸び率鈍化に働いているとみられる。
(図表10) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表11) 現金・預金の伸び率
(図表12)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比3.52%(前月は3.59%)とM2やM3と同様に低下したが、低下幅は相対的にやや小幅に留まった(図表10)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びが低下したほか、国債(前月6.2%→当月6.0%)、外債(前月20.7%→当月17.0%・為替変動の影響を含む)の伸び率も低下し、全体の伸び率の押し下げ要因となった。一方で規模の大きい金銭の信託(前月7.0%→当月7.8%)や投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月3.0%→当月3.2%)の伸びが上昇し、一定の下支えとなった。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2023年02月09日「経済・金融フラッシュ」)

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