NEW
2025年11月12日

貸出・マネタリー統計(25年10月)~銀行貸出がコロナ禍以来の高い伸びに

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

文字サイズ

■要旨

10月の銀行貸出は前年比4.51%増と6カ月連続で伸びを拡大し、コロナ禍以来の高水準となった。都銀では大企業のM&A関連融資が伸びを牽引しているとみられるが、地銀も堅調を維持している。一方、マネタリーベースは前年比▲7.8%と5カ月連続で減少ペースが加速。日銀の長期国債買入れ減額や国債補完供給の回収超が影響した。これに対し、マネーストック(M2・M3)はともに6カ月連続で伸びを高めており、貸出の増加等を背景に通貨量の増勢が続く。インフレ下で、より高利回りの資産や定期預金を志向する動きも続いている。

■目次

貸出動向:コロナ禍以来の増勢を記録
マネタリーベース:減少ペースが5カ月連続で加速
マネーストック:通貨量の増勢拡大が継続
 

1.貸出動向:コロナ禍以来の増勢を記録

1.貸出動向:コロナ禍以来の増勢を記録

(貸出残高)
11月11日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、10月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比4.51%と前月(同4.15%)から大きく上昇した(図表1)。銀行貸出は6カ月連続で伸び率を高めており、10月の伸び率はコロナ禍という特殊事情で貸出が急増した2021年3月(5.91%)以来の高い水準にあたる。銀行貸出の増勢拡大が顕著になっている。

業態別では、都銀等の伸びが前年比4.89%(前月は4.35%)と大きく上昇し、2ヵ月連続で地銀の伸び(後述)を上回った。都銀の伸びはもともと大口貸出の実行・返済によって振れやすい傾向があるが、大手企業によるM&Aに絡む大口融資が押し上げているとみられる。また、地銀(第2地銀を含む)の伸びも前年比4.19%(前月は3.99%)と着実に上昇している(図表2)。

銀行貸出全体としては、M&A・不動産向けの資金需要に加え、各種コスト増に伴う運転資金需要などが追い風となり、増加ペースの加速が続いている。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)貸出先別貸出金

2.マネタリーベース:減少ペースが5カ月連続で加速

2.マネタリーベース:減少ペースが5カ月連続で加速

11月5日に発表された10月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比▲7.8%と前月(同▲6.2%)からマイナス幅が拡大した。前年割れは14カ月連続で、減少ペースは5カ月連続で加速している(図表5)。

マイナス幅拡大の主因は、従来同様、マネタリーベースの約8割を占める日銀当座預金のマイナス幅拡大(前月▲7.1%→当月▲9.1%)である。金融政策正常化の一環として、日銀が昨年夏場以降、資金供給要因である長期国債買入れの減額を徐々に進めていることが、日銀当座預金の伸び率押し下げに持続的・追加的に働いている(図表6)。また、10月は国債補完供給が回収超となったことも当座預金残高を押し下げた。

なお、日銀券発行高の伸び率が前年比▲2.3%(前月は▲2.1%)、貨幣流通高の伸び率が前年比▲1.4%(前月も▲1.4%)と、現金がそれぞれ前年割れで推移していることも、マネタリーベースの重石となっている。
 
なお、季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ると、10月のマネタリーベースは前月比10.2兆円減と大幅な減少となっている(図表7)。

日銀は6月の金融政策決定会合において長期国債買入れの減額を再来年3月にかけて継続することを決定した(図表8)。今後も資金供給要因である長期国債買入れの減額が段階的に進められることで、マネタリーベースはじわじわと減少幅を広げていくと見込まれる。
(図表5)マネタリーベースと内訳(平残)/(図表6)日銀の長期国債買入額と保有残高/(図表7)マネタリーベース残高と前月比の推移/(図表8)日銀による長期国債月間買入れ予定額

3.マネーストック:通貨量の増勢拡大が継続

3.マネーストック:通貨量の増勢拡大が継続

11月12日に発表された10月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比1.60%(前月は1.53%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同1.03%(前月は0.98%)と、ともに6カ月連続で伸び率が高まった(図表9)。伸び率の水準はともに2024年5月以来の高水準にあたる。貸出の伸び率拡大や貿易赤字の縮小傾向がマネーストック伸び率上昇の背景にあるとみられる。
 
M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月▲0.7%→当月▲0.6%)とCD(譲渡性預金・前月▲2.7%→当月▲0.7%)の伸びがそれぞれマイナス幅を縮小し、全体の伸び率を押し上げた(図表10)。

一方で、主に定期預金を意味する準通貨の伸びは前年比5.0%(前月は同5.1%)とやや伸びが鈍化したが、高い伸びを維持している。判明している9月までの内訳では、一般法人(企業)が前年比19.0%(前月は17.9%)と2割近い伸びを記録しているほか(図表11)、個人の伸びも前年比0.9%(前月は0.5%)と2カ月連続でプラスを維持している。今年の春以降、銀行の預金金利は横ばい圏で推移しているが(図表12)、インフレ率が高止まりするなかで、インフレによる価値の目減りを多少なりとも軽減すべく、普通預金からより金利の高い定期預金へと資金をシフトする動きが広がっていると見られる。

なお、現金通貨(前月▲1.5%→当月▲1.6%)のマイナス幅は前月からやや拡大している。
(図表9) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表10) 現金・預金の伸び率/(図表11)法人・個人別預金の伸び/(図表12) 店頭表示預金金利(300万円未満)
ちなみに、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の10月の伸び率は前年比2.20%(前月は2.14%)とやや上昇した(図表9)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びがやや上昇したほか、投資信託(私募やREITなどを含み企業保有分も合わせた元本ベース、前月8.7%→当月9.4%)、外債(前月3.5%→当月5.1%)の伸びが拡大し、全体の伸びをけん引した。一方、規模の大きい金銭の信託(前月3.9%→当月3.7%)や国債(前月18.0%→当月17.5%)の伸びは、依然として高水準ながら、やや低下した。

インフレ率の高止まりは、預金よりも高収益な資産を含む広義流動性の伸びがM2、M3を上回る要因になっていると考えられる。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年11月12日「経済・金融フラッシュ」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

週間アクセスランキング

ピックアップ

お知らせ

お知らせ一覧

【貸出・マネタリー統計(25年10月)~銀行貸出がコロナ禍以来の高い伸びに】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

貸出・マネタリー統計(25年10月)~銀行貸出がコロナ禍以来の高い伸びにのレポート Topへ