2023年04月12日

現金流通量を巡る地殻変動~1万円札以外は全て減少中

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. 日本の現金流通高(残高)は長年増加基調にあり、直近3月時点でもプラスを維持している。しかし、最近では「地殻変動」とも言える大きな変化が生じている。
     
  2. 一つは硬貨の流通高 が昨年1月に前年比マイナスに転じ、以降マイナス幅を拡大してきたことだ。硬貨全種で2021年後半以降にマイナス幅が拡大している。減少要因として考えられるのは、やはり「キャッシュレス化」の進展だ。さらに金融機関における「硬貨預け入れ手数料導入の広がり」が減少を加速させたと考えられる。大量の硬貨を預け入れると手数料が発生することになったことで、家計が貯金箱などでの貯金をやめたり、既に溜まった貯金を取り崩して使用したりする動きが強まったと考えられる。特に減少が著しい五百円玉は、従来、根強い「五百円玉貯金」需要が大幅増加の原動力になっていたため、貯金の取りやめや取り崩しの影響を強く受けていると推測される。
     
  3. また、紙幣でも注目すべき動きが生じている。各紙幣ともに昨年半ば以降に流通高の伸び率が低下し、直近3月には、五千円札と千円札が前年割れに陥ったことだ。キャッシュレス化の影響がいよいよ紙幣においても顕在化してきた可能性がある。
     
  4. そうした中で唯一プラスの伸びを維持しているのが一万円札だ。その背景には超低金利の追い風を受けた根強い「タンス預金」需要の存在があると考えられる。従って、一万円札の今後の行方についての大きなカギとなるのは預金金利の動向と考えられる。今後、仮に預金金利が十分に上昇した場合には、タンス預金化されている一万円札が預金口座に預け入れられ、その流通高が減少に転じると想定される。一万円札が減少に転じれば、貯蓄面でもキャッシュレス化が進展することになる。そして、今後の預金金利に多大な影響を与えるのが日銀の金融政策だ。植田新総裁の今後の舵取りが注目される。

 
現金流通高の伸び
■目次

1. トピック: 現金流通量を巡る地殻変動
  ・硬貨は軒並み減少、特に五百円は急減
  ・五千円札・千円札も前年割れに
  ・唯一増加を続ける一万円札の行方
2. 日銀金融政策(3月)
  ・(日銀)現状維持
  ・受けとめと今後の予想
3. 金融市場(3月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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