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デリスキングの行方-EUの政策と中国との関係はどう変わりつつあるのか?-(後編)

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり
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- 本稿は、G7が23年5月の広島サミットで対中国の共通の方針として合意したデリスキング(リスク軽減)をテーマに昨年9月にまとめたレポートの「後編」である。
- 「前編」では、G7の合意内容を確認した上で、EUを中心とする最近の政策の動きとデリスキングの目標達成を巡るリスクについて整理した。
- 「後編」では、貿易や直接投資、企業へのアンケート調査などに現れつつある変化という観点からデリスキングの現状について考えた。
- 貿易面では、米国を中心に、中国への直接的な依存度の低下という貿易の再構成が見られるものの、ASEANやメキシコなどを通じた貿易や間接的な依存度は高まっており、見た目ほどデリスキングが進んでいるとは言えない。ASEANは、輸出入の双方向で中国との結び付きを強めている。グローバルサウスは、地政学的な距離にとらわれない傾向も観察される。
- 直接投資面での変化は、統計の速報性の問題や仕向け先としてオフショア金融センターの比重が高いことなどから、傾向がより掴みづらいが、23年の中国向けの対内直接投資の急減など、デリスキング政策の影響と思われる変化は見られる。こうした中にあって、ドイツの中国への直接投資は3年連続で過去最高を更新しているのは、中国で大規模に事業を展開してきた少数の大企業の収益の再投資が押し上げているもので、新規の投資が勢いづいている訳ではない。中国からの対外直接投資も、西側と中国の双方の規制の影響でピーク・アウトしている。但し、EV関連を中心とするグリーンフィールド投資に対するスタンスは、米国よりもEUの方がより寛容である。
- 中国で活動する西側企業のサーベイ調査では、中国からの撤退や縮小の意向を示す割合は必ずしも高くはないが、慎重派と積極派に分かれつつある。中国市場における課題は、母国の国籍によって大きな違いがある訳ではない。各サーベイ調査は、実施のタイミングや設問の仕方などが異なるため、慎重な判断が必要だが、米国企業は中国ビジネスへの見方が楽観的で、米中対立をビジネス上の最大の課題と捉えている。欧州企業は中国の景気と市場アクセスや法規制の問題を、日本企業は人件費の上昇や中国国内の競争激化への懸念がより強いように感じられる。こうした違いは本国の景気の強弱や、中国とのコストの差の違いが反映されている可能性もある。
- 2024年は米国も欧州も「選挙イヤー」であり、デリスキングの政策とその影響は、今後、一段と広がって行く可能性がある。企業は対応を迫られ、貿易や投資フローの変化は、引き続き関心の的であり続けるだろう。
- 企業は国籍に関わりなく、対中国でのデリスキング政策の範囲の拡大を懸念し、外交的に安定した関係を望んでいる。この点は、筆者が3月に調査のために訪問した欧州の諸都市、特にドイツのベルリンで強く感じた点である。
■目次(後編)
はじめに
4――中国と西側の関係の変化
1|主要国・地域間の貿易
2|中国を巡る直接投資
3|企業サーベイに見る西側企業の中国における活動
5――おわりに
■目次(前編)
1――はじめに
2――デリスキングとは何か?
1|G7の合意
2|EUの政策
3――デリスキングの目標達成を巡るリスク
1|EU固有のリスク
2|同盟国・同志国間の政策協調に関わるリスク
3|中国からの対抗措置による影響拡大のリスク
4|対象範囲拡大のリスク
5|供給網再編でも中国依存度は減らず、コストが上昇するリスク
(2024年03月25日「基礎研レポート」)

03-3512-1832
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
伊藤 さゆりのレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/04/18 | トランプ関税へのアプローチ-日EUの相違点・共通点 | 伊藤 さゆり | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/28 | トランプ2.0でEUは変わるか? | 伊藤 さゆり | 研究員の眼 |
2025/03/17 | 欧州経済見通し-緩慢な回復、取り巻く不確実性は大きい | 伊藤 さゆり | Weekly エコノミスト・レター |
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