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女性の「定年」への意識~「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」より(7)

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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(1)では、職場のジェンダー関係の項目について満足度が高い女性は、勤続意欲が相対的に強い傾向があることを紹介した。そこで次は、より直接的に、職場における女性管理職登用の成果と勤続意欲をクロス分析した。図表5は、自社が女性管理職を登用した成果として、「項目」列に記載された内容に「該当する」と回答した層の勤続意欲をまとめたものである。
その結果、図表5に赤地・プラス表記したように、自社が女性管理職を登用したことによって「経営判断や組織運営が硬直的でなく、柔軟になった」、「職場の風土が保守的でなく、合理的になった」、「多様な考え方や価値観が認められるようになった」、「ワーク・ライフ・バランスに対する職場の意識が改善した」、「オンライン会議やビジネスチャットなど、デジタルのビジネスツールの活用が増えた」など、成果を肯定的に感じている女性は、「定年まで働きたい」の値が全体より高いことが分かった。
つまり、職場において、単に女性管理職を登用しているだけではなく、女性管理職が仕事しやすいように、組織運営や組織風土を改革したり、働き方を見直したりするなど、職場で実際に成果が出ている場合は、裾野の中高年女性たちにとっても働きやすさが増し、勤続意欲が強まる可能性があると考えられる。
次に、職場での様々な経験と「いつまで働きたいか」をクロス分析した。図表6は、人事・配置や教育、休業・休暇に関する各項目について「経験がある」と回答した層の勤続意欲をまとめたものである。
その結果、「キャリアデザイン研修の受講」経験がある中高年女性は、「定年まで働きたい」の値が全体より10ポイント以上高いことが分かった。つまり、キャリアデザイン研修を通して、今後のライフプランを考え、改めて仕事への意識をリセットすることによって、定年までしっかり働こうという意欲が強まる可能性があることが分かった。
研修のうち「語学研修の受講」と「その他の研修の受講」の経験がある層では、「定年を経て、継続雇用の上限まで働きたい」の値が全体より高かったが、この理由は共同研究では明確ではない。
また休業・休暇関連では、「育休や育児休業」と「介護休暇や介護休業」の経験がある層も、「定年まで働きたい」の値が全体より高かった。これについても明確な理由は分からないが、共同研究でアンケートと同時並行して行ったインタビュー調査では、ある飲料食品メーカーから「50代後半となり、子育てが一段落し、異動が可能となるなど、意欲が高まる女性社員も出ている」という回答があった。つまり、これまで、家族のケアのために仕事の時間や転勤をセーブせざるを得なかった女性が、家族のケアを終えた後に、「これからは存分に仕事ができる」として定年まで働く意欲を高めるという可能性も考えられる。
3-2|の内容より、改めて、定年まで働き続けようという意欲が強い女性の特徴を整理すると、職場で自身がスキルアップ・キャリアアップする機会があり、それを正当に評価されていると感じ、同僚とのサポート体制によって、家族や健康上など、プライベートの事情が発生しても対応しやすい女性は、定年まで働き続ける動機が強い。また職場で女性活躍の成果を肯定的に感じている女性も、定年まで働き続ける動機が強い。
これらを総括すると、スキルアップや評価に代表される「働きがい」と、同僚とのサポート体制や女性活躍の成果によって「働きやすさ」を感じている女性は、勤続意欲が強いと言える。企業にとっては、これらの点を踏まえて、組織運営を見直していく必要があるのではないだろうか。
また、キャリアデザイン研修受講によって、今後の人生や仕事の位置づけについて考え直し、主体的に仕事への意識が高まった女性も、勤続意欲が強い可能性がある。ただし、共同研究によると、中高年女性のうちキャリアデザイン研修の受講経験があるのは約2割に限られているため、企業にとっては、受講対象を広げていくことも余地があるのではないだろうか。
4――中高年女性社員が高齢まで働くために希望する制度や取り組み
最も割合が高いのは、「待遇改善」と「適切な評価」で、いずれも4割近かった。次に、「職場の人間関係が良いこと」も3割を超えて目立った。「経験のある業務や職場で働き続けられること」も3割弱に上り、高かった。
働き方に関しても、「勤務時間に融通が利くこと(フレックスタイムなど)」や「短時間勤務(1日6時間や4時間など)ができること」、「勤務時間に融通が利くこと(フレックスタイムなど)」、「短日勤務(週3日勤務など)ができること」、「有給休暇を申請しやすい職場の協力体制や雰囲気」などが、いずれも2割を超えるなど、多くの回答があった。その他「健康管理が充実していること」も2割近かった。
これらの結果をまとめると、3-3|でみたこと同様に、評価・待遇に代表される「働きがい」と、慣れた仕事を続けられる、職場の雰囲気が良い、働き方といった点に代表される「働きやすさ」の2点への希望が強いと言うことができる。もちろん、企業側が、中高年女性社員の希望にすべて応えなければならないというものではないが、企業が中高年人材を活用し、組織の持続可能性を高めていくために、これらの結果を参考に、自社で必要な取組について、労使で検討していってほしい。
5――終わりに
本稿で報告してきたように、中高年女性の勤続意欲には、職場における「働きがい」と「働きやすさ」といった要素が、深く関わっていることが分かった。企業側は今後、これらの点に配慮することで、中高年女性たちに対する仕事へのモチベーションを持続させる工夫をし、定年または定年後まで、人材として活用してほしい。定年を控えた中高年女性社員の雇用管理、定年後の女性の継続雇用、女性のセカンドキャリアへの移行支援、といった課題は今後も大きくなるだろう。筆者も引き続き、これらの課題を考察していきたい。
(2024年05月17日「基礎研レター」)
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03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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