2024年05月17日

女性の「定年」への意識~「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」より(7)

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

1986年施行の男女雇用機会均等法から40年近く経過し、施行直後に企業に入社した「均等法第一世代」が現在、60歳を迎えつつある。彼女たちを含む中高年の女性正社員は近年、増加していることから、定年を迎える女性は今後、増加すると予想される。「定年」というと、従来は男性の問題として語られることが多かったが、今後は女性の定年についても考えていくことが必要ではないだろうか。そこで本稿では、一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年10月に共同研究として行ったインターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~1(以下、「共同研究」)の結果から、女性の定年に関する意識を紹介する。それによって、中高年女性に定年まで仕事へのモチベーションを維持して、安心してしっかり働き続けてもらうために、企業側に必要なことについて考えていきたい。
 
1 調査対象は、全国の、従業員500人以上の大企業に正社員として勤める45歳以上で、コース別雇用管理制度がある企業では「一般職」と「総合職」の女性。コース別雇用管理制度がない企業では、「主に基幹的な業務や総合的判断を行う職種」と「主に定型的な業務を行う職種」に就く女性。及び、定年前にこれらのコースや職種に就き、定年後も同じ会社で、継続雇用で働いている女性。有効回答数1,326(「一般職」1,000、「元一般職」39、「総合職」258、「元総合職」29)。

2――定年を迎える女性の割合とボリューム

2――定年を迎える女性の割合とボリューム

2-1 | 定年到達者に占める女性の割合
まず、企業で定年に到達する社員のうち、どれぐらい女性がいるかを確認する。従業員21人以上の全企業を対象に行われた厚生労働省の令和5年「高齢者雇用状況等報告」によると、60歳を定年とする企業約9万社において、過去1年間に定年に到達した従業員は計404,967人いた(図表1)。その内訳は、男性が66.7%(270,249人)、女性が33.3%(134,718人)で、女性が全体の約3分の1だった2。同調査が開始された2013年以降、女性の割合はほぼ変化していない。
図表1 60歳定年企業における定年到達者等の男女比
 
2 調査は、常時雇用する労働者が21人以上の企業249,911社に送付し、237,006社が回答。うち中小企業が219,987社、大企業が17.019社。
2-2 | これから定年を迎える中高年女性社員のボリューム
次に、定年を迎える女性社員の「数」に着目すると、今後は増加が予想される。総務省の令和4年「就業構造基本調査」から、均等法施行直後の1987年から最新の2022年までの45~59歳の「正規の職員・従業員」の人数の推移を男女別でみたものが図表である。これによると、男女とも、概ね増加傾向にある。男女いずれも、人口が多い「団塊世代」が50歳前後だった1997年と、「団塊ジュニア」が50歳前後だった2022年に山があり、女性は2022年に初めて400万人を超えている。1で述べたように、均等法第一世代が含まれることも背景にあると考えられる。そして、この約400万人の多くが、今後15年間のうちに、60歳を迎えていく。
図表2 男女別にみた中高年正社員数の変化

3――中高年女性社員の定年への意識

3――中高年女性社員の定年への意識

3-1 | いつまで働きたいか
ここからは、共同研究の結果より、中高年女性の定年に対する意識について報告する。中高年女性に「現在の会社でいつまで働きたいか」を尋ねると、「今すぐ退職したい」が1割弱、「定年より前に早期退職したい」が1割強、「定年まで働きたい」が約3割、「定年を経て、継続雇用の上限まで働きたい」が約2割、「働けるうちはいつまでも働きたい」が約2割、などとなっていた(図表3)。つまり、全体の約7割が、定年、またはそれ以降まで働き続ける意欲を持っていることが分かった。
図表3  中高年女性の定年への意識
3-2 | 定年まで勤続意欲があるのはどんな女性か
(1) 職場満足度と勤続意欲との関連
3-1|のように、定年に到達する前に退職したいと考える層(「今すぐ退職したい」または「定年より前に早期退職したい」と回答した女性)が2割を超える中で、現在の会社で「定年まで働きたい」という勤続意欲を強く持っているのはどのような女性なのかについて、共同研究では様々なクロス分析を行った。本稿ではそのうち、代表的なものを紹介する。

まず初めに、職場への満足度との関連をみていく。職場において、職務や組織運営など、様々な状況に対して「満足」または「やや満足」と回答した層について、「いつまで働きたいか」をまとめた結果が図表4である。その結果、赤地・プラス表記したように、「評価制度」や「人事異動ローテーションや転勤の範囲」、「管理職登用の機会」、「教育・研修機会」、「同僚との相互サポート体制」、「現在の女性管理職の人数」、「ジェンダー平等」について「満足」または「やや満足」と回答した層は、「定年まで働きたい」の値が全体より高かった。

つまり、会社で研修受講や配置などによって、自身がスキルアップ・キャリアアップする機会があり、同僚とのサポート体制が整っていることによって、家庭や健康上の事情が発生しても対応しやすく、実際にそれを正当に評価されていると感じている女性は、定年まで働こうという意欲が相対的に強いことが分かった。

ここで、「現在の女性管理職の人数」や「ジェンダー平等」といった、ジェンダーに関する状況について満足度と、勤続意欲との関連が見られることも注目される。この理由を考えると、例えば企業が女性管理職を増やそうとすれば、仕事と家庭との両立のハードルを下げるために働き方を見直したり、部署や管理職同士での協力・サポート体制を強化したりするなどの工夫が必要だと考えられる。従って、女性管理職を増やすと結果的に職場改革が進み、個々の中高年女性にとっても「働きやすい職場」が整備されていく、という可能性も考えられる。

その他、このクロス分析から分かった点としては、図表4に青地・マイナス表記したように、「職務」や「評価・待遇」(うち「評価制度」)、「人事・配置」、「組織運営」、「福利厚生」(うち「健康増進に関する取り組み」)などで満足度が高い層は、軒並み、「今すぐ退職したい」層が全体より低かった。つまり、これらの点への満足度が高い層は、勤続意欲が低い人が相対的に少ないと言える。
図表4 職場の様々な状況に対して満足度が高い中高年女性の定年への意識

(2024年05月17日「基礎研レター」)

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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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