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「老後シングル」は他人事か?~配偶関係ではなく、ライフステージとして捉え直す~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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確かに、配偶者の収入があれば貧困リスクは下がる。しかし問題は、配偶関係は終生続くわけではなく、いつかは誰もがシングルになるかもしれない、ということだ。
日本は既に、長寿化と未婚化が同時進行した「長寿・おひとりさま社会」である。従来用いられてきた「生涯未婚率」(現在は「50歳時の未婚率」という呼称に変更)3をみると、男性28.4%、女性17.9%と2~3割に達しているが、シングルの構成割合だと、さらに離別と死別が加わる。総務省統計局の「令和2年国勢調査」からシニア層の配偶関係の構成割合をみると(図表1)、例えば「60歳男性」のシングル(「未婚」と「離別」と「死別」の合計)は25.8%であり、4人に1人の割合である。「60歳女性」のシングルも24.7%で、やはり4人に1人の割合である。男性は、80歳までは、年代が上がるとシングルの割合は低下していくが、女性の場合は大きく上昇していく。女性は男性よりも平均寿命が長く、高齢になるほど、夫と死別する人が大幅に増えていくためである。その結果、「65歳以上」の高齢者全体でみると、女性のおよそ2人に1人はシングルである。
しかも、今更説明するまでもないが、日本は世界的な長寿先進国である。厚生労働省の「令和5年簡易生命表の概況」によると、80歳まで生きる確率は、男性は63.0%、女性は81.2%に上る(図表1)。さらに女性に至っては、90歳まで生きる確率は50.1%。実に女性の2人に1人が90歳以上まで生き延びるということである。つまり「老後シングル」は決して一部の人の話ではなく、男性にとっても女性にとっても、他人事ではないのだ。この事実は、特に経済的リスクが大きい女性にとって重大だ。
しかしこの認識は、広く共有されているとは言えない。筆者の周りでは、ミドルシニアでシングルの女性は、老後の暮らしについて様々なシミュレーションを行って備えをしている人が多いが、有配偶女性はそうでもなく、「老いて一人になる」という想定をあまりしていないように思える。主婦の場合、日々、夫や子どもなど家族の世話を優先させて、自分自身の将来についてじっくり考えるのが、後回しになりがちなのかもしれない。そうした女性たちにも、「老後シングル」を自分事として考えてもらうには、どうしたら良いのだろうか。
実は、内閣府が高齢社会対策基本法に基づいて毎年策定している「高齢社会白書」は、平成30年版から、「高齢者」に代わって、「高齢期」という表現を多用している。例えば、「平成29年版高齢社会白書」には、「高齢者の暮らし」というタイトルの節があり、経済状態や生活環境について取り上げているが、「平成30年版高齢社会白書」では、「高齢期の暮らしの動向」というタイトルに変わっている。以降ずっと、「高齢期」という表現が用いられている。
現在、40歳代の筆者から見ても、「高齢者の暮らし」と書かれているよりも、「高齢期の暮らし」と書かれている方が、同じ内容であっても、より関心が持てる。「高齢者」という表現だと、特定の属性のグループを指すため、該当しない人にとっては他人事だが、「高齢期」という表現だと、ライフステージを指すため、自分事になるからだ。一字違うだけだが、語感の違いは、与える印象を変える。
同じように、「シングル」という言葉も、独り身のグループを指すのではなく、「幼児期」や「学齢期」、「更年期」のように、ライフステージの一つだと認識されるようになれば、より多くの人が、自分事として捉えやすくなるのではないだろうか。もちろん、正確には、全員がシングルを経験するわけではないのだが、日本人の誰もが例外とは言えず、特に女性は、65歳以上の2人に1人がシングルなのだから、「いつか行く道」という意識を持っていた方が、備えに身が入るのではないだろうか。また、政策立案者や経営者にもそのような意識が広まれば、女性の雇用・社会保障政策、働く女性のキャリア支援についても、議論が活発化し、取組も充実するのではないだろうか。
シングルは独り身の集団を指すのではなく、誰もが通過するかもしれない、私たちの最後のライフステージ――。そう捉えることが、安心できる「長寿・おひとりさま社会」を迎えるための、第一歩のように感じられる。
1 坊美生子(2024)「『低年金をどうするか』という問いに対する視点~高齢期に入る前の働き方を充実させよ~」(研究員の眼)など。
2 阿部彩(2024)「相対的貧困率の動向(2022調査update)」JSPS22H05098。
3 総務省統計局「令和2年国勢調査」。
(2025年03月06日「研究員の眼」)

03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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