- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- 不動産市場・不動産市況 >
- 「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向【2023年】(2)~コロナ禍以降、「駅近」志向が高まる一方、「住居の広さ」と「中心部までのアクセス」への評価は揺り戻しの動きも
「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向【2023年】(2)~コロナ禍以降、「駅近」志向が高まる一方、「住居の広さ」と「中心部までのアクセス」への評価は揺り戻しの動きも

金融研究部 主任研究員 吉田 資
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
「最寄り駅から都市の中心部9までの所用時間」の回帰係数の符号は、分析期間中、一貫してマイナスとなっている(図表-7)。これは、東京の中心部までのアクセス時間が長くなる(短くなる)につれて、新築マンション価格(坪単価)が下落(上昇)することを意味する。
各フェーズ(I~III)における回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズI」は、係数の値は2005年の▲0.3%10から2007年の▲1.0%へとマイナス幅が拡大した。この時期は、「職住近接」志向の高まり11とともに、価格上昇に伴い賃貸・転売目的の購入が増えていたこと12等が要因として考えられる。
その後、係数の値は縮小傾向にあったが、コロナ禍を経てマイナス幅が急拡大した(2007年▲1.0%⇒2019年▲0.4%⇒2022年▲1.2%)。先行研究では、コロナ禍以降、通勤時の感染の機会を減らすため、職場近くへの居住を奨励・支援したり、自転車通勤や自動車通勤を認めたりする例もあり、都心居住の志向が強まる傾向もあったと指摘されている13。
9 本稿では、便宜上、「東京駅」とした。
10 当該物件の最寄り駅から都市の中心部(東京駅)までの所用時間が1分増加した場合、新築マンション価格(坪単価)が▲0.3%下落する。
11 朝日新聞 「都市の魅力、未来へつなぐ 進む再開発、戻る住民 新東京物語 be・TOKYO特集」2008/03/20
12 日本経済新聞 「空洞マンションじわり――増える賃貸・転売目的の購入、居住者に不安感(生活)」2008/08/15
13 米山秀隆(2021)「コロナ禍後の働き方と住まい、都市の変化とは」住宅生産振興財団「家とまちなみ」No.83
14 アルヒ株式会社 TownU(https://townu.jp/news/info/20230621)
3.新築マンション市場の今後の方向性
長期固定金利住宅ローンである「フラット35」の金利は、2005年から2008年にかけて2%前半から3%台へ上昇した後、低下に転じ、2016年には1%を下回る水準まで低下した。その後も概ね1%台前半で推移していたが、2022年に入り上昇し2%間近に迫っている(図表-9)。
リクルート調査によれば、新築マンション購入における自己資金比率を尋ねたところ、「5%未満」との回答が42%を占めた。多くのローン借入を前提に、マンション購入を検討する消費者が多いなか、住宅ローン金利の水準は、住宅購入判断に影響を及ぼしている模様だ15。住宅金融支援機構「住宅ローン利用予定者調査」によれば、「今(今後1年程度)は、住宅取得の買い時だと思うか」という質問に対して、金利が上昇し始めた2022年以降、「買い時とは思わない」との回答が「買い時だと思う」との回答を上回っている(図表-10)。
日本銀行は、2024年3月の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の解除と長短金利操作(YCC)の撤廃を決定した。こうしたなか、金融政策正常化に伴う住宅ローン金利への影響が懸念されている16。三菱UFJ信託銀行「2023年度下期デベロッパー調査」によれば、「住宅ローン金利が0.5%上昇した場合のマンション販売価格」を尋ねたところ、「販売価格が下落する(10%未満)」(56%)との回答が最も多く、次いで、「販売価格が下落する(10%以上)」(16%)との回答が多かった。
今後、住宅ローン金利が大幅に上昇した場合、需給環境が悪化に転じる可能性があり注視が必要であろう。
15 野村不動産ソリューションズ「第26回住宅購入に関する意識調査アンケート」によれば、「買い時だと思う理由」を尋ねたところ、「住宅ローンの金利が低水準」(56.3%)との回答が最も多かった。
16 日本経済新聞 「住宅ローンどうなる? 変動金利の急な引き上げに配慮」2024/3/19
リクルート調査によれば、首都圏における「マンション購入契約時の世帯主年齢」について、「30代前半(30~34歳)」(28%)が最も多く、次いで「30代後半(35~39歳)」(20%)、「40代(40~49歳)」(19%)の順に多かった。以下では、新築マンションの主な購入層である「30代」と「40代」の人口動態について確認する。
総務省「国勢調査」によれば、東京23区の30代人口は、2005年を100とした場合、2020年に「99」となった。また、将来人口について、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」によれば、2035年の人口は「100」と、横ばいで推移する見通しである。
エリア別にみると、2020年の人口は、「都心」が「118」、「北部」が「105」と2005年対比で増加する一方、「南西部」が「97」、「東部」が「89」と減少した。また、2035年の人口は、「都心」が「116」(2020年対比▲2%)、「北部」が「110」(同+5%)、「南西部」が「95」(同▲2%)、「東部」が「94」(同+6%)となる見通しである(図表-11)。
一方、40代人口(2005年=100)は増加傾向に推移し、2020年に「139」に達したが、2025年以降は減少に転じ、2035年の人口は「126」(2020年対比▲13%)となる見通しである。
エリア別をみると、2020年の人口は、「都心」が「166」、「北部」が「143」、「南西部」が「140」、「北部」が「139」となり、特に「都心」で大幅に増加した。将来人口について、2035年の人口は、「都心」が「150」(対2020年▲10%)、「北部」が「126」(同▲9%)、「東部」が「124」(同▲13%)、「南西部」が「119」(同▲15%)となり、いずれのエリアも2020年対比で▲10%程度減少する見通しである。(図表-12)。
東京23区では、30代人口が概ね横ばいで推移する一方、これまで大幅に増加していた40代人口は減少に転じる見通しである。新築マンション需要を下支えしてきた30代および40代の人口だが、年代やエリア別に今後の見通しが異なることから、引き続き動向を注視する必要がある。
国土交通省「住宅着工統計調査」によれば、東京23区の分譲マンション着工戸数17は、2019年まで3万戸台前半で推移していたが、コロナ禍以降、減少傾向で推移しており、2023年には約2.1万戸まで減少した(図表-13)。
分譲マンション着工戸数をエリア別にみると、2011年を100とした場合、2023年の着工戸数は、「都心」が「46」、「南西部」が「49」と、東京23区全体(58)を下回るペースで減少している。(図表-14)。
分譲マンション着工戸数の減少に加えて、人手不足等に伴う建築費の上昇や、開発用地の不足が続いていることを鑑みると、新規供給戸数が大幅に増加する可能性は低いと考えられる。
だだし、三菱UFJ信託銀行の調査によれば、マンションデベロッパーは、建築費の上昇に伴い、価格転嫁のしやすい「都心・駅近」エリアで開発用地の仕入れを増やしたい意向がある模様だ18。今後、新築マンションの新規供給が限定的であった「都心」において、供給が増える可能性がある。経済状況の変化等に対応したデベロッパーの開発戦略を引き続き注視する必要があるだろう。
17 建て方が「共同住宅」、利用関係が「分譲住宅」、住宅の種類が「専門住宅」である住宅の着工戸数
18 三菱UFJ信託銀行「デベロッパー調査(首都圏)」によれば、「建築費の上昇による素地仕入れ戦略への影響」との質問に関して、「都心・駅近」エリアは「増加(48%)」との回答が、「減少(13%)」との回答を大幅に上回った。
4.おわりに
また、新築マンション価格の決定構造を分析し、コロナ禍以降、「駅近」志向が強まっていること、テレワークの普及等の影響を受けて「広さ」のプライオリティ低下と「中心部へのアクセス」の評価の高まりに揺り戻しの動きがみられることを、確認した。
供給面に関しては、着工戸数の減少等を勘案すると、東京23区の新規供給戸数が大幅に増加する可能性は低いと考えられる。
一方、需要面に関して、金融政策正常化に伴う住宅ローン金利への影響が懸念されている。また、新築マンション需要を支えてきた30代および40代の人口について、30代人口が概ね横這いで推移する一方、これまで大幅に増加していた40代人口は減少に転じる見通しである。今後の金利動向や人口動態次第では、需給環境が悪化に転じる可能性があり、注意する必要がある。
コロナ禍を契機に、在宅勤務を取り入れた働き方が定着したことで、新築マンションに求める機能や評価目線に変化が生じている。マンション開発事業者は、市場環境を注視しながら、消費者ニーズの変化に即した事業方針の策定が求められることになりそうだ。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年05月09日「不動産投資レポート」)
このレポートの関連カテゴリ
関連レポート
- 「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向【2023年】(1)~東京23区の新築マンション価格は前年比9%上昇。資産性を重視する傾向が強まり、都心は+13%上昇、タワーマンションは+12%上昇
- 「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向(1)~良好な需給環境と低金利を背景に、東京23区の新築マンション価格は過去10年間で+69%上昇
- 「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向(2)~都心は過去10年で83%上昇、価格に先行性も。タワーマンションは69%上昇。東京23区全体並みの伸びに留まる。
- 「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向(3)~アベノミクス以降、「駅近」の評価が上昇、「広さ」のプライオリティが低下。「中心部までのアクセス」はコロナ禍を機に評価が高まる~
- 「新築マンション価格指数」でみる関西圏のマンション市場動向(1)~関西圏の新築マンション価格は過去10年で59%上昇。大阪都心は82%上昇し、東京都心と同水準の伸び。
- 「新築マンション価格指数」でみる関西圏のマンション市場動向(2)~タワーマンション価格は2005年対比で約2倍に上昇、足もとでは頭打ち感も。「駅近」の評価が高まる一方、「中心部までのアクセス」の評価はコロナ禍を契機に低下

03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/17 | 「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向【2024年】~都心は価格上昇が加速。一方、下期にかけて南西部は伸び率鈍化、北部と東部は下落に転じる。 | 吉田 資 | 不動産投資レポート |
2025/04/08 | 良好な景況感が継続。先行きも楽観的な見方が強まる。-第21回不動産市況アンケート結果 | 吉田 資 | 基礎研マンスリー |
2025/03/31 | 「横浜オフィス市場」の現況と見通し(2025年) | 吉田 資 | 不動産投資レポート |
2025/03/25 | 「大阪オフィス市場」の現況と見通し(2025年) | 吉田 資 | 不動産投資レポート |
新着記事
-
2025年05月02日
金利がある世界での資本コスト -
2025年05月02日
保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) -
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向【2023年】(2)~コロナ禍以降、「駅近」志向が高まる一方、「住居の広さ」と「中心部までのアクセス」への評価は揺り戻しの動きも】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向【2023年】(2)~コロナ禍以降、「駅近」志向が高まる一方、「住居の広さ」と「中心部までのアクセス」への評価は揺り戻しの動きものレポート Topへ