2024年04月22日

米インフレは下げ渋り-コアインフレは足元でインフレ加速の兆し。今後の動向は原油に加え、家賃や賃金が鍵

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(コアサービス(除く住居費))低下予想も、労働需給の逼迫長期化では高止まるリスク
前述のようにコアサービス(除く住居費)は賃金との連動性が高く、今後の動向は賃金上昇率が鍵を握っている。ここで労働市場を確認すると、24年3月の失業率は3.8%とおよそ50年ぶりの低水準で推移しており、労働需給は逼迫している。また、労働需給の逼迫を背景に雇用統計の時間当たり賃金は24年3月が前年同月比+4.1%となっているほか、賃金・給与に加え給付金も含めた雇用コスト指数は23年10-12月期が前期比年率+4.2%といずれも4%超の水準に留まる(図表9)。FRBの2%物価目標と整合的な賃金上昇率は生産性を加味すると3%~3%台半ばとみられており、足元の賃金水準は依然としてこの水準を上回っている。

一方、労働需給が逼迫し、人手不足が深刻化する中で、これまでは転職によって給与面などで好待遇を得る機会が増加していたが、このような状況は一変してきた。個人の賃金を追跡調査しているアトランタ連銀の賃金追跡指数で過去3ヵ月以内に転職した人(転職者)と転職していない人(非転職者)の賃金上昇率(前年同月比)は24年3月が転職者で+5.2%、非転職者で+4.5%となっており、両者の格差は0.7%ポイントとなっている(図表10)。これは22年8月につけた+2.8%ポイントから大幅に縮小したほか、コロナ禍前の水準も下回っている。このため、転職による賃金上昇の機会は減少しており、労働需給の逼迫を背景にした賃金上昇圧力は緩和している可能性を示唆している。
 
(図表9)CPIコアサービス(除く住居費)、賃金上昇率、失業率/(図表10)転職者および非転職者の賃金伸び率
足元で労働市場は依然として堅調を維持しているものの、FRBによる累積的な金融引締めによって、今後は労働需要の低下に伴う労働需給の緩和が見込まれる。その結果、足元ではコアサービス(除く住居費)は上昇しているものの、今後は賃金上昇率の低下によりは低下に転じよう。

もっとも、これまでの大幅な金融引締めにも関わらず、労働需給の逼迫は長期化しており、今後も労働需給の逼迫が続く場合には賃金上昇率が高止まりし、コアサービス価格の高止まりによりCPIの物価目標の達成が困難となる可能性もあろう。
(期待インフレ率)足元で安定、専門家の長期見通しは概ね物価目標と整合的な水準
最後に金融市場が織り込む5年先5年の期待インフレ率は原油価格の上昇などにもかかわらず、24年以降概ね安定しており、足元+2.3%近辺で推移している(図表11)。

また、家計が予想する24年4月の今後1年間のインフレ率予想(前年同月比)は+3.1%(前月:+2.9%)、今後5~10年間が+3.0%(前月:+2.8%)といずれも前月から上昇した(図表12)。もっとも、両指数ともに23年12月以降は概ね狭いレンジの動きとなっており、足元で期待インフレ率が大幅に上昇している兆候はみられない。

FRBが重視する経済専門家が予想するCPI(前年同月比)の今後5年間と10年間の平均は、23年1-3月期がそれぞれ2.3%、2.2%となっており、物価目標と概ね整合的な水準となっている。
(図表11)5年先5年期待インフレ率/(図表12)家計、専門家のインフレ率予想

3.今後の見通し

3.今後の見通し

これまでみたようにCPIの総合指数、コア指数ともにFRBの物価目標を上回っているほか、足元で物価上昇圧力が高まるなどインフレには下げ渋りがみられる。そのような中、中東の地政学リスクを背景にした原油価格の急騰リスクが高まっており、エネルギー価格主導で総合指数はインフレが再燃する可能性が燻っている。

コア指数についてはコア財価格では概ねコロナ禍前の状況に戻りゼロ%近辺での推移が見込まれる一方、コアサービス価格は当面は家賃や賃金上昇率の低下から低下基調が持続することが予想されるため、コア指数は緩やかに低下することが予想される。

もっとも、家賃指数は夏場以降に上昇に転じる可能性があるほか、今後も労働需給の逼迫が長期化して賃金上昇率が高止まりする可能性は残っている。仮に家賃や賃金が高止まりする場合にはコア指数は物価目標を上回る水準での推移が長期化しよう。このため、原油価格の動向と併せてインフレの先行きには不透明があり、物価目標の達成は一筋縄ではいかないだろう。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年04月22日「Weekly エコノミスト・レター」)

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