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「理由不十分の原則」の怪-何の情報もない場合、とりあえず「確率は同じ」と置くと…
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
◇ 理由不十分の原則が先入観の強化につながらないように
このように、確率の更新を何回も繰り返す場合、通常は、更新のなかで確率の値が次々に修正されていくので、当初の事前確率の設定はあまり重要とはならない。
一方、人間が日常生活のなかで行う、予想や推測においては、事前確率は先入観として影を落とす。先ほどの、2人きょうだいのうちの男の子の人数の問題では、とりあえず、男の子の人数が0人、1人、2人の場合の確率は同じで、それぞれ、3分の1ずつに設定するということになりやすい。
しかし、そうすると、子どもたちのうち1人が男の子だとわかったときに、もう1人も男の子である確率は、「男の子の人数が1人か2人の場合のどちらかとなり、2つの場合の確率は同じだから、2分の1だ」といった誤った推測につながってしまう。このようなことは、あまり好ましくないだろう。
3分の1、という正しい推測に至るためには、事前確率を適切に設定しておく必要がある。
人間が確率の検討を行う際は、「理由不十分の原則」にとらわれずに、慎重に事前確率を考えてみる必要があるといえるだろう。
(参考) エントロピーを最大化する確率の計算
そのうえで、Hをpとqで、それぞれ偏微分して、その結果を0と置く。(∂H/∂p は、Hのpによる偏微分を表す。)
∂H/∂p = (-log p) + p×(-1/p) + log (1-p-q) + (1-p-q)×1/(1-p-q)
= -log(p) + log (1-p-q)
= log((1-p-q)/p)
∂H/∂q = log((1-p-q)/q)
∂H/∂p = ∂H/∂q = 0 ⇔ (1-p-q)/p = (1-p-q)/q = 1 ⇔ p = q = 1/3
となって、pとqは、いずれも3分の1であることが示される。
(参考文献)
“Principle of Insufficient Reason”(Wolfram Mathworld, 2023年12月19日参照)
「確率は迷う: 道標となった古典的な33の問題」Prakash Gorroochurn 著, 野間口謙太郎 翻訳(共立出版, 2018年)
“A Treatise on Probability” John Maynard Keynes (Macmillan & Co., London, 1921)
“Prior Probabilities” Edwin Thompson Jaynes (IEEE Transactions on Systems Science and Cybernetics, vol. sec-4, no. 3, 1968, pp. 227-241)
“Die Principien der Wahrscheinlichkeits-Rechnung” Johannes von Kries (J. C. B. Mohr, Tübingen, 1886)
“Calcul des probabilités” Joseph Bertrand (Gauthier-Villars et fils, Paris, 1889)
「確率統計演習1 確率」国沢清典編 (培風館, 1966年)
「もう1つも同じである確率-追加情報は、確率にどう影響するか?」篠原拓也 (ニッセイ基礎研究所, 研究員の眼, 2016年6月6日)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
(2023年12月19日「研究員の眼」)
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