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もう1つも同じである確率 再び-やはり追加情報は、確率に影響するのか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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(2人のこどもの問題) [前回の問題]
ある家庭に、2人のこどもがいます。そのうちの1人が、男の子だとわかりました。
このとき、もう1人も、男の子である確率は、いくらでしょうか。
ただし、男の子と、女の子の生まれる確率は同じとします。
この問題は、慌てていると、次のように答えてしまいがちだ。「2人のこどものうち、1人が男の子だろうが、女の子だろうが、もう1人の性別に、関係はないはずだ。問題文の1行目は、単に、回答者を混乱させようとして、無意味な条件をつけているのに違いない。男の子と、女の子の生れる確率は同じだというのだから、もう1人が男の子である確率は、2分の1だ。」
しかし、少し冷静になると、次のように正しい答えが見えてくる。「2人のこどもがいる、というのだから、その性別のパターンは、『兄弟』『兄妹』『姉弟』『姉妹』の4つしかない。男の子と、女の子の生まれる確率は同じ、としているから、これらのパターンは均等に現れるはずだ。2人のうち、1人が男の子だとわかったのだから、『姉妹』ということはあり得ない。残る3つのパターンのうち、もう1人も男の子となるのは、『兄弟』だけだ。従って、もう1人も男の子である確率は、3分の1。」
実は、この問題には、1人が男の子とわかったときに、もう1人も男の子である確率、という言い回しに、巧妙な仕掛けがある。性別が男とわかった1人目が、上の子か、下の子かを、敢えて明らかにしないことによって、『兄弟』『兄妹』『姉弟』の3つのパターンの可能性を残している。例えば、問題文を、上の子が男の子とわかったときに、下の子も男の子である確率、を問うものにすれば、『兄弟』『兄妹』のいずれかとなり、答えは2分の1になる。こう見ると、確率の問題というより、文章の読解力を問う、国語の問題のようでもある。
(2人のこどもの問題 (何曜日生まれかがわかった場合))
ある家庭に、2人のこどもがいます。そのうちの1人が、火曜日生まれの男の子だとわかりました。
このとき、もう1人も、男の子である確率は、いくらでしょうか。
ただし、男の子と女の子の生まれる確率、こどもが各曜日に生まれる確率はそれぞれ同じとします。
しかし、地道に考えていくと、次のようになる。
まず、2人とも男で、兄が月曜日、弟が火曜日生まれの場合を、(兄月・弟火)と表すことにする。この場合、弟が火曜日生まれの男の子なので、問題の条件を満たしている。他にも(兄日・弟火)や(兄火・妹土)は、火曜日生まれの男の子を含んでいるので、問題の条件を満たしている。しかし、(兄水・弟土)や(姉火・弟日)は、2人とも火曜日生まれの男の子ではないので、問題の条件を満たしていない。
それでは、問題の条件を満たす場合は、どれだけあるだろうか。実際に、書き並べてみよう。
さてこのうち、2人とも男の子である場合は、1行目と2行目に並べた13通り。つまり、もう1人も男の子である確率は、27分の13 (約48%)となり、これが正しい答えだ。この確率は、3分の1よりもだいぶ大きくなって、むしろ2分の1に近い。
この様子を図を使って理解してみよう。きょうだいの第1子を縦軸、第2子を横軸として、性別と何曜日生まれかを図示すると、196個のセルのどれかとなる。各セルが発生する確率は、全部同じだ。
この図を使って、前回と今回の問題を考えてみよう。
前回の問題では、青い太枠部分内のセル(147個)のうち、赤い太枠部分内のセル(49個)の比率が問われている。したがって、もう1人も男の子である確率は、3分の1であった。
今回の問題では、青色または赤色に色塗りしたセル(27個)のうち、赤色のセル(13個)の比率を問うものといえる。このため、もう1人も男の子である確率は、27分の13ということになる。
では、どういう仕組みで、このようなことになるのだろうか。実は、男の子だとわかった1人に何らかの条件が付けば付くほど、2人ともその条件を満たすことはレアケースとなり、もう1人も男の子である確率は、その、もう1人のみで考えた場合の確率、つまり2分の1に近づくのである。
このことを実感するために、男の子だとわかった1人に、ものすごく厳しい条件を付けてみよう。たとえば、「1人は男の子で、大人になったら宇宙飛行士になった」と条件を付けてみる。
宇宙飛行士になることは非常にレアなケースであるため、この条件を満たす人は、かなり限定されるだろう。このため、きょうだいとも、この条件を満たす場合はほとんどないと考えられる。すると、問題は、たんに「2人きょうだいの、ある男性宇宙飛行士について、そのきょうだいも男である確率」(=2分の1) を問うものとほぼ同じとなり、2分の1に極めて近い値となるわけだ。
このように、確率は、一見、無関係なように見える情報によっても、変化することがある。
いま、世の中は、デジタル革命の真っ只中といわれる。ビジネスでは、ビッグデータをもとに、経営者がさまざまな経営判断をするようになってきている。どの情報をとるべきか、捨てるべきか。判断に用いる確率の評価には、情報の取捨選択のセンスが問われるものと思われるが、いかがだろうか。
(2019年10月09日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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