2023年08月09日

マンション価格は上昇継続。ホテル市況はコロナ禍前に近づく-不動産クォータリー・レビュー2023年第2四半期

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1. 経済動向と住宅市場

日本経済は、コロナ禍で低迷していた経済社会活動の正常化に伴い回復の動きが続いている。8/15に公表予定の2023年4-6月期の実質GDPは前期比+0.8%(前期比年率+3.1%)と3四半期連続のプラス成長となったと推計される1。輸出が財、サービスともに高い伸びとなり、外需が成長率を押し上げるほか、高水準の企業収益を背景に設備投資も2期連続でプラスに寄与する見込みである。

経済産業省によると、4-6月期の鉱工業生産指数は前期比+1.3%と3四半期ぶりの増産となった(図表-1)。業種別では、供給制約緩和により自動車が高い伸び(前期比+5.9%)となったほか、鉄鋼(+1.9%)、非金属(+2.1%)、電子部品・デバイス(+2.8%)も堅調な動きとなった。

ニッセイ基礎研究所は、6月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2023年度+1.0%、2024年度+1.6%を予想する(図表-2)2。2023年後半は、米国経済の景気後退に伴う輸出の減少などから減速するものの、海外経済の持ち直しが見込まれる2024年以降は輸出の回復を主因として成長率が高まる見通しである。
図表-1 鉱工業生産(前期比)  /  図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、住宅価格が上昇するなか、2023年6月の新設住宅着工戸数は71,015戸(前年同月比▲4.8%)、4-6月累計では約20.8万戸(前年同期比▲4.7%)となった(図表-3)。内訳をみると、新築分譲マンションの着工は増加したが、それ以外(持家、貸家、分譲一戸建住宅)は減少した。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
2023年6月の首都圏のマンション新規発売戸数は1,906戸(前月同月比▲0.4%)、4-6月累計では5,532戸(前年同期比▲18.8%)と減少が続いている(図表-4)。m2単価は104.1万円(前年同月比+1.6%)、販売在庫は4,951戸(前年比▲121戸)となった。供給量が少ないことから売れ行きは良好で初月契約率は67.8%(前年同月比+0.2%)と高い水準を維持している。また2023年上期の東京23区の平均価格は1億2,962万円(前年同期比+60.2%)と1973年の調査開始以来、初めて1億円を超えた。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2023年6月の首都圏の中古マンション成約件数は3,111件(前年同月比+3.6%)、4-6月累計では8,802件(前年同期比▲1.9%)となり、8四半期連続で減少した(図表-5)。中古マンション市場では取引価格が上昇し成約件数が減少するなか、在庫戸数は2022年6月以降13カ月連続で前月対比増加している。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(月次、前年比)
また、日本不動産研究所によると、2023年5月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は前月比▲0.2%、過去1年間の上昇率は+4.6%となった(図表-6)。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2. 地価動向

地価は住宅地、商業地ともに上昇基調が継続している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2023年第1四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「73」(前回71)、横ばいが「7」(前回9)、下落が「0」(前回0)で、住宅地では4期連続で23地区すべてが上昇となった(図表-7)。同レポートでは、「住宅地では、マンション需要に引き続き堅調さが認められたことから上昇が継続。商業地では、人流の回復傾向を受け、店舗需要の回復が見られたことなどから上昇傾向が継続した」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移
また、野村不動産ソリューションズによると、首都圏の住宅地価格(7月1日時点)は前期比+0.5%(年間3.0%)となり12期四半期連続でプラスとなった。東京都区部では都心5区を中心に価格上昇が続いているが、周辺区では横ばい地点が増加しており、全般的に価格の上昇ペースは弱まりつつある(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3. 不動産サブセクターの動向

3. 不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2023年6月の東京都心5区の空室率は6.48%(前月比+0.32%)、平均募集賃料(月坪)は35カ月連続下落の19,838円(前月比▲0.2%)となった。新築ビルの空室率が34.42%(前月比+6.81%)と上昇するなか、新規供給の増加を受けて賃料の下落圧力が続いている。他の主要都市をみると、建て替えによるオフィス床面積の減少などによって札幌の空室率が低位(2.18%)で推移する一方、大阪・名古屋・仙台が5%台、横浜と福岡が新規供給の影響から6%台に上昇するなど都市間によって空室率の水準に差が生じている(図表-9)。また、募集賃料は仙台と大阪が概ね横ばい、札幌・横浜・名古屋・福岡は前年比プラスとなっている3
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2023年第2四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は25,655円(前期比▲6.6%)に下落し、空室率は5.9%(前期比+1.2%)に上昇した(図表-10)。三幸エステートは、「既存のAクラスビルでは空室消化が進むものの、建築中ビルは依然としてテナント誘致に時間を要する傾向にある」としている。

日経不動産マーケット情報(2023年8月号)によると、「東京の賃貸オフィス市場では移転需要が回復傾向にあり、賃料に下げ止まり感がみられる。しかし、今後は2次空室の発生も予想されるため、真に下げ止まったと判断するには、もう少し先を見る必要がある」と指摘している。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
 
3 2023年6月時点の平均募集賃料は、前年同月比で、札幌(+3.1%)・仙台(▲0.2%)・東京(▲2.1%)・横浜(+0.5%)・名古屋(+0.9%)・大阪・(▲0.1%)・福岡(+1.1%)となっている。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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