2023年05月18日

2023・2024年度経済見通し(23年5月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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2. 実質成長率は2023年度0.9%、2024年度1.6%を予想

(国内需要中心の成長が続く)
海外経済の減速を背景に輸出、生産の弱い動きが続く中でも日本経済全体の腰折れが回避されているのは、国内需要が底堅さを維持しているためである。実質GDP 成長率(前年比)を内外需別の寄与度で見ると、外需が2022 年1-3 月期から成長率の追い押し下げ要因となっているのに対し、国内需要が2021年4-6 月期以降プラス寄与を続けている。

外需が悪化する一方で、国内需要が底堅さを維持していることは企業の景況感にも表れている。日銀短観の業況判断DI は、輸出の影響を強く受ける製造業(全規模)が2021年12月調査の+6をピークに低下傾向が続き、2023年3月調査では▲4とマイナスに転じたのに対し、国内需要との連動性が高い非製造業(全規模)は2022年6月調査でプラスに転じた後、2023年3月調査では+12まで改善している。
実質GDP成長率の内外需寄与度/業況判断DI(全規模)の推移
実質GDP成長率の推移(四半期) 海外経済の低迷を背景に輸出が景気の牽引役となることが当面期待できないことから、日本経済は先行きについても内需中心の成長が続くことが予想される。2023年4-6月期は水際対策の終了を受けたインバウンド需要の急回復を主因として財貨・サービスの輸出が小幅ながら増加に転じること、民間消費を中心に国内需要が堅調を維持することから、前期比年率1.5%と1-3月期と同程度の成長となることが予想される。

米国の景気後退に伴い輸出が減少に転じる2023年後半の成長率はゼロ%台へといったん減速するが、海外経済の持ち直しが見込まれる2024年入り後は輸出の回復を主因として成長率が高まるだろう。

需要項目別には、民間消費は、物価高による下押し圧力を受けながらも、賃上げの進展によって可処分所得の伸びが高まることから、回復が続くことが予想される。新型コロナウイルス感染症が5類に変更されたことを受け、外食、宿泊などの対面型サービス消費の回復がより顕著となるだろう。
家計の可処分所得、消費支出、貯蓄の推移 家計貯蓄率はコロナ禍前の2015~2019年平均で1.2%だったが、2020年4月の緊急事態宣言の発令によって消費が急激に落ち込んだこと、特別定額給付金の支給によって可処分所得が大幅に増加したことから、2020年4-6月期に21.3%へと急上昇した。その後、行動制限の緩和によって消費が持ち直したこと、物価高によって消費金額が膨らんだことから、貯蓄率は2022年10-12月期には2.4%まで低下した。

先行きについては、物価高の継続が引き続き貯蓄率の低下要因となるが、賃上げが進み可処分所得の伸びが高まることが消費を下支えするだろう。今回の見通しでは、2024年度の家計貯蓄率は1%程度まで低下し、一時的にはコロナ禍前の水準を下回ると想定している。

民間消費は2023年度が同1.7%、2024年度が同1.8%と予想する。民間消費が消費税率引き上げ前の直近のピークである2019年7-9月期を上回るのは2024年度入り後となるだろう。

設備投資は、2022年度前半は高めの伸びとなったが、2022年10-12月期が前期比▲0.7%、2023年1-3月期が同0.9%と2022年度後半は横ばい圏で推移した。
設備投資計画(全規模・全産業) 日銀短観2023年3月調査では、2022年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が前年度比11.5%の高い伸びとなり、2023年度の当初計画は前年度比5.6%と2022年度の当初計画(同3.4%)を上回った。設備投資は、高水準の企業収益を背景に、人手不足対応の省力化投資、デジタル化に向けたソフトウェア投資を中心に基調としては持ち直しの動きが続いていると判断されるが、2022年度後半は輸出、生産活動の停滞を受けて、製造業を中心に足踏み状態となった。

輸出の低迷は2023年度入り後も続くため、製造業の設備投資は伸び悩むが、国内需要の底堅さを背景に非製造業が設備投資の牽引役となり、輸出の回復が見込まれる2024年度には製造業、非製造業が揃って回復する形となるだろう。

設備投資は、2022年度の前年比3.0%から、2023年度に同2.1%へと減速した後、2024年度は同3.0%と伸びを高めることが予想される。
実質GDP成長率は、2023年度が0.9%、2024年度が1.6%と予想する。2023年度は、海外経済の減速を背景に輸出が減少に転じることを主因として成長率は低下する。2024年度は国内需要が底堅さを維持する中で、海外経済の持ち直しを受けて輸出が増加に転じること、設備投資の伸びが加速することから、成長率は高まるだろう。

現時点では、米国の景気後退はマイルドなものにとどまり、日本は景気回復基調が維持されることをメインシナリオとしている。しかし、米国の景気後退が深刻となった場合には、世界経済の悪化を通じて日本の輸出が大きく下振れ、日本も景気後退が避けられなくなるだろう。

2023年1-3月期の実質GDPはコロナ禍前(2019年10-12月期)の水準を1.3%上回っているが、直近のピーク(2019年7-9月期)を▲1.5%下回っている。実質GDPが直近のピークの水準を回復するのは、2024年4-6月期になると予想する。リーマン・ショック時には実質GDPの水準が直前のピークを回復するまでに5年以上(22四半期)かかったが、今回のコロナ禍でもそれに匹敵する長さとなる可能性が高くなってきた。
実質GDP成長率の推移(年度)/実質GDPが元の水準まで戻るまでの期間
(経常収支の見通し)
経常収支は、2021年4-6月期の25.9兆円(季節調整済・年率換算値)をピークに減少が続き、2022年7-9月期には4.1兆円となったが、2023年1-3月期には10.2兆円へと増加した。原油高や円安の一服を受けた輸入金額の減少によって貿易赤字が縮小したこと、水際対策の緩和を受けた旅行収支の改善を主因としてサービス収支の赤字が縮小したことが、経常収支の黒字拡大に寄与した。
経常収支の予測 経常収支の先行きについては、輸入金額の増加に歯止めがかかる一方、海外経済の減速を背景として輸出の低迷が続くことから、貿易収支は大幅な赤字が続く可能性が高い。サービス収支は、水際対策の終了を受けて、旅行収支の黒字幅が大きく拡大することから、赤字幅の縮小傾向が続くことが見込まれる。一方、第一次所得収支は多額の対外純資産や円安を背景に年率30兆円台後半まで拡大したが、予測期間中は円高傾向が続くことから、高水準ながらも黒字幅はやや縮小するだろう。

予測期間の2024年度末までは、貿易収支とサービス収支の赤字を高水準の第一次所得収支の黒字が補う構図が続く可能性が高い。経常収支は2021年度の20.2兆円(名目GDP比3.7%)から2022年度に9.2兆円(同1.6%)と大きく縮小した後、2023年度が10.3兆円(同1.8%)、2024年度が7.8兆円(同1.3%)になると予想する。
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、エネルギーや食料の価格上昇を主因として、2023年1月に前年比4.2%と1981年9月以来41年4ヵ月ぶりの高い伸びとなった後、政府による電気・都市ガス代の負担緩和策を主因として2月には3.1%と伸び率が大きく縮小した。しかし、コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)の上昇ペースが大きく加速するなど、基調的な物価上昇圧力は一段と高まっている。
 
コアCPIは、4月には年度替わりの値上げが幅広い品目で実施されることから伸びを高めた後、5月には再生可能エネルギー発電促進賦課金の引き下げにより電気代の下落率が拡大することを主因として、3%程度まで伸びが鈍化するだろう。

電力各社が申請している電気料金の引き上げが実施されること、政府の負担緩和策が10月に縮減されることが電気代の押し上げ要因となるが、当初の申請時よりも値上げ幅が圧縮されたこと、原油、LNGなど燃料価格が下落していることから、エネルギー価格は前年比でマイナスが続く可能性が高い。
食料品の輸入物価、国内企業物価、消費者物価 一方、食料(生鮮食品を除く)は原材料費の上昇を価格転嫁する動きが広がり、2023年3月の上昇率は8.2%と、消費者物価の川上に当たる国内企業物価の飲食料品の伸び(2023年4月:前年比7.0%)を上回っている。すでに公表されている4月の東京都区部の結果を踏まえれば、食料(生鮮食品を除く)の伸びは4月には9%台まで加速する公算が大きい。

ただし、原油高や円安の一服により、物価高の主因となっていた輸入物価の上昇には歯止めがかかっている。このため、今後は原材料コストを価格転嫁する動きが徐々に弱まり、財価格の上昇率は鈍化することが見込まれる。
下落が続いていたサービス価格は2022年8月に上昇に転じた後、2023年3月には前年比1.5%まで伸びを高めている。サービス価格は賃金との連動性が高いが、現時点では、サービスの中では原材料コストの割合が高い一般外食の大幅上昇(2023年3月:前年比7.6%)がサービス価格上昇の主因となっている。しかし、今後は賃上げに伴う人件費の増加を価格転嫁する動きが一段と広がることが予想される。2023年のベースアップは2%程度が見込まれることを考慮すれば、2023年度入り後にはサービス価格の上昇率は2%台まで高まる可能性が高い。これまで長期にわたって値上げが行われていなかった分、今後のサービス価格の上昇ペースは非常に速いものとなる可能性がある。
財・サービス別の消費者物価(生鮮食品を除く)/サービス価格と賃金(ベースアップ)
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 コアCPI上昇率は足もとの3%台から夏場にかけて2%台後半まで鈍化するが、2023年末頃までは2%台で高止まりするだろう。コアCPI上昇率が日銀の物価目標である2%を割り込むのは、エネルギー価格の下落が続く中、輸入価格下落の影響が波及することにより食料を中心とした財価格の上昇ペース鈍化が明確となる2024年入り後と予想する。

財・サービス別には、2022年度は物価上昇のほとんどがエネルギー、食料(除く生鮮食品、外食)を中心とした財の上昇によるものだったが、2023年度は財、サービスが概ね同程度の寄与となった後、2024年度はサービス中心の上昇へと変わっていくだろう。

コアCPI上昇率は、2022年度の前年比3.0%の後、2023年度が同2.4%、2024年度が1.3%と予想する。
日本経済の見通し(2023年1-3月期1次QE(5/17発表)反映後)
米国経済の見通し
欧州(ユーロ圏)経済の見通し
 
 

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(2023年05月18日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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