2023年04月21日

消費者物価(全国23年3月)-コアCPI上昇率は前月と変らなかったが、基調的な物価上昇圧力は一段と高まる

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.コアコアCPI上昇率が4%に近づく

消費者物価指数の推移 総務省が4月21日に公表した消費者物価指数によると、23年3月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は前年比3.1%(2月:同3.1%)となり、上昇率は前月と変らなかった。事前の市場予想(QUICK集計:3.1%、当社予想も3.1%)通りの結果であった。

エネルギー価格の下落率が拡大したが、食料(生鮮食品を除く)の伸びがさらに高まったこと、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、洗剤などの家事用消耗品の伸びが急加速した(2月:前年比7.6%→3月:同12.2%)ことが、コアCPIを押し上げた。

生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は前年比3.8%(2月:同3.5%)、総合は前年比3.2%(2月:同3.3%)であった。
食料品の輸入物価、国内企業物価、消費者物価 コアCPIの内訳をみると、電気代(2月:前年比▲5.5%→3月:同▲8.5%)、ガス代(2月:前年比12.5%→3月:同8.3%)、ガソリン(2月:前年比▲2.5%→3月:同▲4.7%)、灯油(2月:前年比0.5%→3月:同▲3.0%)の伸び率がいずれも低下したことから、エネルギー価格の下落率は2月の前年比▲0.7%から同▲3.8%へと拡大した。

食料(生鮮食品を除く)は前年比8.2%(2月:同7.8%)となり、上昇率は前月から0.4ポイント拡大した。原材料価格高騰の影響で、食用油(前年比24.3%)、麺類(同11.8%)などが引き続き前年比二桁の高い伸びとなっているほか、鳥インフルエンザの影響で品薄状態が続く卵が1月の前年比10.7%から2月が同19.9%、3月が同29.4%と急加速している。
消費者物価指数(生鮮食品除く、全国)の要因分解 川上にあたる飲食料品の輸入物価、国内企業物価はすでにピークアウトしているが、川下の消費者物価の食料(生鮮食品を除く)は価格転嫁の動きが続いており、上昇率は飲食料品の国内企業物価(23年3月:前年比7.0%)を上回っている。

コアCPI上昇率を寄与度分解すると、エネルギーが▲0.33%(2月:▲0.06%)、食料(生鮮食品を除く)が1.91%(2月:1.83%)、携帯電話通信料が0.05%(2月:0.05%)、全国旅行支援が▲0.14%(2月:同▲0.14%)、その他が1.61%(2月:1.41%)であった。

2.物価上昇品目の割合がさらに上昇

消費者物価(除く生鮮食品)の「上昇品目数(割合)-下落品目数(割合)」 消費者物価指数の調査対象522品目(生鮮食品を除く)を前年に比べて上昇している品目と下落している品目に分けてみると、3月の上昇品目数は427品目(2月は421品目)、下落品目数は52品目(2月は57品目)となり、上昇品目数が前月から増加した。上昇品目数の割合は81.8%(2月は80.7%)、下落品目数の割合は10.0%(2月は10.9%)、「上昇品目割合」-「下落品目割合」は71.8%(2月は69.7%)であった。

価格転嫁の主因となっていた資源高や円安は一服しているが、川下にあたる消費者物価指数にその影響が反映されるまでには時間がかかる。このため、上昇品目割合の高止まりはしばらく続くだろう。

3.コアCPI上昇率は23年夏場まで2%台半ばから後半で高止まりへ

23年3月のコアCPI上昇率は2月と変らなかったが、コアコアCPIの上昇ペースが大きく加速するなど、基調的な物価上昇圧力は一段と高まっている。

コアCPIは、4月にはエネルギー価格の下落率が拡大する一方、年度替わりの値上げが幅広い品目で実施されることから、3月から伸びを若干高めた後、5月には再生可能エネルギー発電促進賦課金の引き下げにより電気代の下落率がさらに拡大することを主因として、2%台後半まで伸びが鈍化するだろう。

なお、電力各社は、経済産業省の要請を受けて、燃料価格の下落を反映させたうえで値上げの再申請を行った。電気料金の値上げは6月以降にずれ込み、当初の申請に比べれば値上げ幅が圧縮される可能性が高い。

原油高や円安の一服により、物価高の主因となっていた輸入物価の上昇には歯止めがかかっている。このため、今後は原材料コストを価格転嫁する動きが徐々に弱まり、財価格の上昇率は鈍化する公算が大きい。
財・サービス別の消費者物価(生鮮食品を除く) 一方、下落が続いていたサービス価格は22年8月に上昇に転じた後、23年3月には前年比1.5%まで伸びを高めている。現時点では、サービスの中では原材料コストの割合が高い一般外食の大幅上昇(23年3月:前年比7.6%)がサービス価格上昇の主因となっているが、今後は賃上げに伴う人件費の増加を価格転嫁する動きが一段と広がることが予想される。これまで長期にわたって値上げが行われていなかった分、今後のサービス価格の上昇ペースは非常に速いものとなる可能性がある。

コアCPI上昇率は、23年夏場まで2%台半ばから後半で高止まりすることが予想される。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2023年04月21日「経済・金融フラッシュ」)

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