2023年02月28日

生産性向上が先か、賃上げが先か-賃上げを起点に縮小均衡から拡大路線への転換を

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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■要旨

賃上げの機運が大きく高まっているが、日本の賃金は長期にわたり低迷が続いてきた。G7各国の賃金は、1990年からの約30年間で2倍から3倍近い水準となっているが、日本ほとんど伸びていない。物価上昇率で割り引いた実質賃金でみると、各国との差は縮小するが、それでも日本が主要各国と比べて賃金が低迷していることに変わりはない。
 
賃金上昇のためには、労働生産性の向上が不可欠とされるが、日本の労働生産性の上昇率は諸外国と比べて必ずしも低いわけではない。それにもかかわらず賃金が低迷を続けているのは、労働生産性向上が主として労働投入量、特に労働時間の削減によってもたらされており、付加価値(GDP)の伸びが非常に低いためである。労働時間削減による労働生産性の上昇は時間当たり賃金の上昇をもたらすが、一人当たり賃金は増加しない。一人当たり賃金が伸びなければ、消費を増やすことはできず、経済成長率も高まらない。
 
実質GDP成長率の低迷が長期化しているのは、家計消費、設備投資がほとんど伸びなくなっているためである。設備投資停滞の主因が投資性向の低下であるのに対し、家計消費停滞の主因は消費の原資となる可処分所得が伸びていないことにある。
 
家計消費の本格回復のためには、賃上げの本格化による可処分所得の増加が不可欠である。輸入物価の急上昇を起点とした現在のコストプッシュ型のインフレは、決して望ましいものとは言えないが、企業の値上げに対する抵抗感を和らげるとともに、賃上げの重要性を再認識させるきっかけともなった。
 
賃上げによって消費が拡大すれば、企業の売上や収益が増加し、さらなる賃上げが実現する、という好循環につながる可能性が高まる。今回の予期せぬ物価上昇を、これまでの縮小均衡を脱却し、拡大路線へ転換する絶好の機会と捉えたい。

■目次

1――低迷が続く日本の賃金
  ・日本の労働生産性は低くない
2――生産性向上の中身が問題
3――人口減少が低成長の主因ではない
4――経済成長率低下の主因は家計消費、設備投資の停滞
  ・上昇する家計の消費性向と低下する企業の投資性向
  ・可処分所得低迷の要因
5――まとめ
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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