コラム
2022年11月01日

原因の確からしさはどれくらい?-確率を用いて、行動の優先順位を付ける

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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日常生活の中では、予想や推定の確からしさを、確率を使って表すことがある。
 
最もなじみ深いのは、天気予報での降水確率だろう。テレビニュースの気象予報コーナーで、「今日の日中の降水確率は60%」などと言われたら、朝、外出のときに晴れていても、「折り畳み傘を忘れずに持っていかないと…」という感じがするかもしれない。
 
他にも、地震の予測では、「日本列島を二分する糸魚川静岡構造線断層帯の平均活動間隔は約1000年。過去の地震は約1200年前で、今後30年以内にM(マグニチュード)8 程度の地震が起こる確率は14%、50年以内は20%、100年以内なら40%です。」(「特集 地震を知って地震に備える!」(内閣府ホームページ, 防災情報のページ, 平成21年))
 
経済や金融のニュースだと、「米金利先物市場では、連邦準備理事会(FRB)が11月1-2日の連邦公開市場委員会(FOMC)で1.00%ポイントの利上げを決定する確率が10%程度となった。」(ロイター, 2022年10月13日)、などと確率が用いられている。
 
確率は、将来の予想の確からしさを表すだけではない。すでに起こったことの原因分析をするときに、原因の確からしさを示すためにも用いられる。
 
具体的な問題をもとに、見ていくこととしよう。

◇ 射撃は1発だけ命中 - どちらが撃った弾丸か?

まず、次の問題を考えてみよう。
 

問1.
鉄砲が得意なXさんと、あまり得意でないYさんがいます。Xさんが1発撃ったときに弾丸が的(まと)に命中する確率は75%。同じ的に、Yさんが1発撃ったときに命中する確率は25%です。

いま、この的に向かってXさんとYさんが同時に鉄砲を撃ったところ、命中したのは1発だけでした。2人の射撃が独立に行われた(片方の射撃が、もう片方の射撃に影響しない)と仮定すると、命中したのがXさんの撃った弾丸である確率は、何パーセントでしょうか?

2人の撃つ弾丸に、あらかじめ違う色でも付けておけば、どちらが撃った弾丸か、すぐにわかるはずだ。いや、色が付いていなくても、命中した弾丸の線条痕を分析すれば、どちらの鉄砲から放たれたものかわかるはずだ。―― まさにその通りなのだが、それでは確率の出番がなくなってしまう。
 
ここでは、2人が撃った弾丸の見分けがつかず、線条痕の分析もできないものとしよう。
 
さて、「単純に1発撃ったら、Xさんの命中確率は75%で、Yさんの命中確率は25%なのだから、命中したのがXさんの撃った弾丸である確率は、計算するまでもなく75%」という回答は、こうしてわざわざ本稿で取り上げているくらいだから、たぶん違うはずだ。
 
ただ普通に考えても、Xさんの撃った弾丸である可能性は高いだろう。命中したのがXさんの弾丸である確率は、50%よりも高いはずだ。
 
そこで、2人が同時に撃ったときにどうなるか、全部の場合を考えてみる。全部の場合というのは、「2人とも命中」、「Xさんだけが命中」、「Yさんだけが命中」、「2人とも命中せず」の4つだ。それぞれの場合の確率を計算してみる。
 
「2人とも命中」は、75%×25%で、18.75%
「Xさんだけが命中」は、75%×(1-25%)で、56.25%
「Yさんだけが命中」は、(1-75%)×25%で、6.25%
「2人とも命中せず」は、(1—75%)×(1-25%)で、18.75%

4つの場合の確率を全部合計すると、100%となるので、これで全部であるとわかる。
 
これらの4つの場合のうち、「1発だけ命中」したのは、「Xさんだけが命中」と「Yさんだけが命中」の2つだ。「1発だけ命中」の確率は、2つの確率を足し算して、62.5%となる。
 
いま、「1発だけ命中」が実際に起こったわけだが、そのうち「Xさんだけが命中」の確率を求めると、56.25%÷62.5%で90%。つまり、Xさんの撃った弾丸である確率は、90%となる。
 
Xさんが撃った弾丸である可能性は、75%よりもさらに高いことになる。

◇ 3つの家を訪問して帰宅したら帽子がない! - どこで置き忘れたのか?

続いて、次の問題を考えてみよう。
 

問2.
ある人には、困った癖があります。5回に1回の割合(20%)で、帽子を置き忘れてしまうのです。正月に、この人が A、B、Cの3つの家をこの順番に訪問して、年始回りして帰宅しました。家に帰ってから、帽子をかぶっておらず、どこかの家に置き忘れたことに気がつきました。

この人が2番目に訪問したBの家で帽子を置き忘れた確率は何パーセントでしょうか?

そもそも、そんなに高い確率で帽子を置き忘れるのがいけない。脱いだ帽子は、すぐにカバンの中にでも入れて、置き忘れないように気を付けるべきだ。―― まさにその通りなのだが、どこかに置き忘れてしまったものは仕方がない。確率を計算してみることにしよう。  

実は、これは、1976年の早稲田大学の入試問題がオリジナルのものとなっている(稿末の参考文献を参照)。この問題は、それをアレンジしたものだ。もとが大学の入試問題なのだから、「帽子を置き忘れたのは3つの家のうちのどこかだから、求める確率は単純に3分の1」というような簡単な話ではないだろう。
 
そこで、問1と同様に、全部の場合を考えてみる。全部の場合というのは、「Aの家で置き忘れた」、「Bの家で置き忘れた」、「Cの家で置き忘れた」、「どの家でも置き忘れることなく、帽子をかぶって帰宅した」の4つだ。それぞれの場合の確率を計算してみる。
 
「Aの家で置き忘れた」は、特に計算の必要もなく、20%
「Bの家で置き忘れた」は、Aの家では忘れなかったのだから、(1-20%)×20%で、16%
「Cの家で置き忘れた」は、AとBの家では忘れなかったのだから、(1-20%)×(1-20%)×20%で、12.8%
「どの家でも置き忘れることなく、帽子をかぶって帰宅した」は、(1-20%)×(1-20%)×(1-20%)で、51.2%

4つの場合の確率を全部合計すると、100%となるので、これで全部であるとわかる。
 
4つのうち、「どこかの家に置き忘れた」のは、「Aの家で置き忘れた」と「Bの家で置き忘れた」と「Cの家で置き忘れた」の3つの確率を足し算して、48.8%となる。
 
いま、「どこかの家に置き忘れた」が実際に起こったわけだが、そのうち「Bの家で置き忘れた」の確率を求めると、16%÷48.8%で32.78…%。つまり、「Bの家で置き忘れた」確率は、約32.8%となる。単純に3分の1とするよりも、やや小さい確率となるわけだ。
 
ちなみに、「Aの家で置き忘れた」確率は、約41%(=20%÷48.8%)。「Cの家で置き忘れた」確率は、約26.2%(=12.8%÷48.8%)となる。「Aの家で置き忘れた」確率が最も高いことになる。

◇ まずは、条件付確率を楽しんでみては

この2つの問題は、いずれも、確率の分野では、条件付確率として知られている。ある条件の下での確率という意味だ。なにか発生した事象をもとに、その下での確率を計算するというものだ。
 
問1で、Xさんが撃った弾丸の確率が90%と計算されれば、Xさんの射撃ではないか、と予想してそこから確認していくことができる。問2で、Aの家で置き忘れた確率が最も高いとわかれば、置き忘れた帽子がないかどうか、まずAの家に電話して確認してみるのが、有効といえるだろう。
 
このように、条件付確率を計算することによって、ある種の当りを付けることができる。その後の行動の優先順位を、合理的に付けることができるわけだ。
 
いま、AI(人工知能)による機械学習では、予測分析(Predictive Analytics)という、将来分析手法の活用が進んでいる。そこでは、ある事象が起きる前のもともとの確率(事前確率)をもとに、ある事象が発生したことに伴う条件付確率(事後確率)を求める。これを繰り返すことで、予測の精度を高めていく、といった手法がとられている。
 
このように条件付確率を用いることで、気象予報や地震の発生予想、経済・金融分野の見通しなどの精度向上につながっていけば、有効な防災対策や経済対策が期待できるだろう。
 
一般の立場では、ちょっとびっくりする数学の話として、まずは条件付確率の持つ意外性を楽しんでみるのもよいだろう。下記2編の拙稿でも、条件付確率をベースに、確率の持つ意外な一面を紹介している。興味があれば、ご覧いただきたい。


もう1つも同じである確率-追加情報は、確率にどう影響するか?」篠原拓也(ニッセイ基礎研究所 研究員の眼, 2016年6月6日)
 
もう1つも同じである確率 再び-やはり追加情報は、確率に影響するのか?」篠原拓也(ニッセイ基礎研究所 研究員の眼, 2019年10月9日)
 

(参考文献)
 
「特集 地震を知って地震に備える!」(内閣府ホームページ, 防災情報のページ, 平成21年)
 
「米金利先物、11月1%利上げ確率10%に 予想上回るCPI受け」(ロイター, 2022年10月13日)
 
“Mathematical Puzzles” Peter Winkler (CRC Press, 2021)
 
《5回に1回の割合で帽子を忘れるくせのあるK君が, 正月にA, B, C軒を順に年始回りをして家に帰ったとき,帽子を忘れてきたことに気がついた。2軒目の家Bに忘れてきた確率を求めよ。》 (早稲田大学 入試問題(1976年))
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2022年11月01日「研究員の眼」)

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