コラム
2016年10月17日

出会い(マッチング)の確率-世の中の各種事象において、出会い(マッチング)が起こる確率は、結構高いってこと知っていますか-

中村 亮一

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はじめに

世の中における各種の事象の発生は、基本的には偶然に支配されているものであり、人間がコントロールできるものではない。ただし、一定の条件の下で、ある種の事象において出会い(マッチング)が発生する確率は、数学的に解明されていて、結構な水準になっている。

今回は、そうしたケースを紹介したい。

2つのトランプのカードが一致する確率

XとYという2人がトランプのカードを、A(エース)からK(キング)まで、それぞれ1枚ずつ、合計13枚ずつ持っているとする。それぞれが1枚ずつ一緒に机の上に出しながら、「カード合わせ」を行うとする。同じ数のカードが同時に出た場合に「出会い(マッチング)」が起こったとする。13枚を全て出し尽くした時、「出会いが一度も起こらない確率」はいくらか、という問題を考える。

これは、1708年にフランスの数学者ピエール・モンモール(Pierre Raymond de Montmort)によって提出された。この問題は、スイスの著名な数学者のレオンハルト・オイラー(Leonhard Euler)によって解決された。答えは、約37%の確率で「出会いが一度も起こらない」ということになる。

なお、カードの枚数をn枚とし、nを十分大きくした場合でも、この確率は約37%で変わらないという結論が得られている。

この37%という水準は、以前の研究員の眼「ベスト・ベターな秘書をどうやって選んだらよいのか-「秘書問題」で効率的な選択を実現する-」(2016.6.20)でも出てきた。1/e(eはネイピア数:自然対数の底(てい):2.71828……)で表される数字である。「e」は、オイラー(Euler)の名前の頭文字によるものであり、欧米では「オイラー数 (Euler's number)」 と呼ばれることもある。因みに、ネイピア(John Napier)はイギリスの数学者で、対数の研究に業績を挙げている。

「出会いが一度も起こらない」確率が37%ということは、「出会いが少なくとも一度は起こる」確率は63%ということになる。nがどんなに大きくてもこの確率となる、ということは結構高い水準であるように思われるのではないか。

なお、誤解がないように敢えて述べておけば、これはカード全体としてみた場合の確率であり、特定のカードに出会いが起こる確率は、当然のことであるが、nが大きくなれば小さくなっていく。

プレゼント交換で自らのプレゼントに当たる確率、席替えで席が替わらない確率

別の問題を考えてみる。

n人のクラスで誕生日パーティーが開催され、プレゼントの交換会が開催されるとする。各人がプレゼントを持ち寄って、ランダムにプレゼント交換をした場合に、自分の買ったプレゼントを受け取る人がいる確率がどの程度あるのか、という問題である。これもまさに「出会いの問題」ということになる。

さらには、小中学校等の教室において、くじ引き等で席替えをする場合に、席が替わらない人がいる確率も同じものとなる。

複数の出会いが発生する確率

ここまでは、あくまでも、「出会いが一度も起こらない確率」あるいは「少なくとも1回の出会いがある確率」について説明してきた。これに対して、複数の出会いが発生する確率、例えば、n枚のカードのうちk枚が一致する確率、については、(n-k)が十分大きいときには、以下で近似されることがわかっている。
複数の出会いが発生する確率
これは、「平均値1のポアッソン分布」ということになる。具体的な確率は、以下の通りとなる。当然のことながら、kが大きくなると、確率は一挙に小さくなっていく。
平均値1のポアッソン分布

完全順列

以下では、これまでの話を若干数学的に説明しておく。

完全順列とは、整数1、2、3、…… を要素とする順列において、i番目がiでない順列をいう。

この完全順列の総数を、ピエール・モンモールに因んで「モンモール数」というが、実はこのモンモール数を小さい順に並べると、以下の通りとなる。

0、1、2、9、44、265、1854、14833、133496、……

例えば、n = 1 のとき、完全順列はなし

n = 2 のとき、完全順列は (2, 1) の1通り

n = 3 のとき、完全順列は (2, 3, 1) と (3, 1, 2) の2通り、になるが、

n = 4 のとき、完全順列は (4, 3, 1, 2)、(4, 1, 2, 3)、(3, 4, 1, 2)、(3, 4, 2, 1)、

(3, 1, 4, 2)、(2, 4, 1, 3)、(2, 3, 4, 1)、(2, 1, 4, 3)、の9通りあることになる。

と、ここまでは何とか書き出すことができる。

ところが、これがn = 5 になると、その完全順列は (5, 4, 2, 3, 1)、(5, 4, 2, 1, 3)、(5, 4, 1, 3, 2)、(5, 4, 1, 2, 3)、(4, 5, 2, 3, 1)、(4, 5, 2, 1, 3)、(4, 5, 1, 3, 2)、(4, 5, 1, 2, 3) 等の44通りにもなってしまう。   

モンモール数anは、以下の式で示される。
モンモール数an
これにより、n個のものを並び替える順列をランダムに作ったとき完全順列になる確率は、
完全順列になる確率
となる。nが十分大きくなると、この数値は前述の1/e に収束していくことが知られている。
 

まとめ

このように、世の中の各種の事象において、結構な確率で出会い(マッチング)が起こっていることがわかる。その意味では、例えば、仮に何らかの機会で、たまたま自分がそのようなケースに遭遇した(誕生日パーディのプレゼント交換で自分のプレゼントに当たった、あるいは席替えで自分の席は変わらなかった)場合でも、あまり一喜一憂したりせずに、それほど稀なことでもないと心構えしておくことも重要である。

補足

数学の世界で最も重要な定数は、「円周率のπ」と「自然対数の底のe」であると言われている。

「π」については、円周と直径の比率を示すということで、一般の人にも馴染みがある定数である。その水準についても、学生時代に、語呂合わせで、最初の30桁について、

π=3.141592653589793238462643383279
(産医師異国に向かう産後厄なく産婦御社に虫散々闇に鳴く)

と覚えさせられた(?)ものである。

ところが、「e」については、一般の人は直接的な形で関与することはあまりないものと思われる。ただし、ここ2回の「研究員の眼」で触れたように、eという定数は、結構自然界の事象の確率を表すのに出てくる。e についての最初の16桁とその語呂合わせは、 

e=2.718281828459045(鮒、一鉢二鉢 一鉢二鉢 至極惜しい)
 (1/e= 0.36787… )

となっているが、こちらはあまり知られていない、と思われる。

なお、eとπに関して今一つ。以下の算式は「オイラーの等式」と呼ばれ、数学の算式の中で、最も美しいものの一つに挙げられている。ここに、iは虚数単位、即ちi2=-1 となる複素数である。

   オーラーの等式

今後は、「e」に少しは親近感を持って接していただければ、と思っている。

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中村 亮一

研究・専門分野

(2016年10月17日「研究員の眼」)

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